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第7話「初めてのお仕事」

「早速だが、お前に仕事を与えるぜ」


 と、唐突に告げるダン。


「お前の初仕事は、育ち過ぎたファングアップルの間引き。まあ、詳しい内容はお供を付けるから、そいつらに聞いてくれ」


 それだけ言い渡され、私達はすぐさま解散した。


 話の早さに困惑しつつ、私は部屋を退出する。


 ヒイラギからは「しっかりやれよ」と励ましの言葉を寄越され、これから向かうべき場所を指示された。


「ヒイラギさんは付いて来てくれないんですか」


 私が少しだけ食い気味に尋ねると、


「俺には俺の仕事があるからな」


「はあ……そうですか」


 生返事をする私。


 もう少し、面倒を見てくれても良いのではないのだろうか?


 まだ、右も左も分からない新入りなんだけど、私は。


 多少投げやりだと思いつつ、私は黙って指示に従う事に。


 指定された場所で一人待つ事数分、武装した2匹のゴブリンが手を振りながら私の元に近付いて来た。


「おーい、お前が例の……えーと、なんだっけ……シロなんとか……だよな」


「シロメね」


 ゴブリン達に名前を告げる私。


 と____気のせいだろうか……歩み寄る2匹のゴブリン達の顔に、見覚えがあった。


 ゴブリンの容姿の判別に関しては、あまり自信は無いのだが、


「……もしかして、私に毒矢を放った人達?」


「お、なんだ、覚えていやがったのか」


 やはり、そうか。


 私に毒矢を放ったゴブリン達だ。


 すると____


「お前、あの時はよくも電撃を食らわせてくれたな。俺はおかげで死ぬところだったんだぜ」


 どうやら、2匹の内の1匹は私が電撃を食らわせたゴブリンらしい。


 確か……ガンとか呼ばれていたのを覚えている。


 私は目を細め、


「先に手を出したのは、そっちだよ。殺さなかった事を感謝してよ」


「なんだと、コラ」


「まあまあ、落ち着けよ、お二人さん」


 一触即発の空気になる私達を、もう1匹のゴブリンが仲裁する。


「もう俺達は仲間なんだ。仲良く行こうぜ。俺の名前はイン。こいつの名前はガンだ。よろしくな、えーと……」


「シロメね」


「そうそう、シロメ」


 自己紹介が済んだところで、


「今から、ファングアップルの間引きを行う訳だが、詳しい説明はまだだよな、お前」


「うん……詳しい話はお供から聞けって、ヒイラギさんに言われた」


「よし、じゃあ、移動しながら説明してやるよ」


 インは両手を打ち合わせて、歩き始める。


「まずは、そうだな……ファングアップルについてはどれくらい知ってるんだ、お前?」


「いや、何も。何なの、その……ファングアップルって?」


 リンゴの品種だろうか?


「ファングアップルって言うのは、まあ、要するに、魔物だ」


「……魔物?」


「ああ、食用の魔物だ。俺達の貴重な食料だ」


 まさか、魔物の名前だったとは。


「見た目は、そうだな____お、丁度良い所に!」


 インは前方の苔を指差す。


 目を凝らす私は、植物の緑の中に、丸い黄緑色の物体を発見した。


「あれが、ファングアップルだ」


「ファングアップル……ただのリンゴにしか見えないけど」


 そう、そこにあったのは、ただのリンゴだった。


 どこからどう見てもただのリンゴ。何の変哲もない、地面に転がる果物だ。


 しかし、次の瞬間____それがひとりでに跳ね上がり、表面が横一文字に裂け、鋭い牙の羅列が中から姿を現した。


 その変容に思わず、びっくりして飛び跳ねる私。


 私の驚いた様子に、インとガンがげらげらと笑いだした。


「だはは! ビビってやがるぜ、この女!」


 馬鹿にして来るガンに睨みを与え、私は口裂けリンゴに向き直り、腰元から引き抜いたダガーを構える。


「試しに一匹狩ってみろよ、シロメ」


 インに促され、私は慎重にファングアップルに近付き、間合いを見計らって、ダガーを繰り出した。


 黒耀(こくよう)白牙(はくが)____私のダガーはファングアップルに身動きを許さぬまま、その身体を真っ二つにする。


 背後から、「おお!」とゴブリン達のどよめきが聞こえてくる。


「良い動きするな、お前」


 称賛するインは、ファングアップルの死骸に近付き、それを拾い上げると、一口かぶりついた。


 そして、ナイフで切り分けると、その一片を私に寄越し、


「お前も食ってみろよ」


 食事を勧められる。


 受け取ったファングアップルは、その質感がぶよぶよとしていて……端的に行ってしまえば、気持ちが悪かった。


 私が口に運ぶことを躊躇っていると、「良いから食えよ」とガンが急かしてくる。


 私は渋い顔をしつつ、ファングアップルに噛みつき____思わず吐き出しそうになった。


 不味い訳ではないのだが、甘いのに食感が生肉のそれだったので、気持ちがわるかったのだ。


「どうだ、美味いか?」


「……食感が気持ち悪い」


 素直な感想を述べる。


 インは「ははっ」と笑い、


「生のファングアップルは好き嫌いが分かれるからな。だが、ちゃんと火を通すと、これがまた違ってくる」


 それから、インはファングアップルの身体をナイフでほじくり、中から水晶のようなものを取り出して、


「これが何か分かるか?」


「……分からない、けど」


 私が首を横に振ると、


「これは魔核って呼ばれるものだ。ヒト族も……いや、ヒト族の方がお世話になっている代物なんだが」


 魔核____確か……。


「魔道具の動力源に使われているやつ、だよね」


「ああ、その通りだ。魔道具の動力源の魔核。これは一匹の魔物に一つずつ備わっているものだ」


 インは思い出すように、


「ヒイラギ様から聞いた話じゃ、ヒト族の中には冒険者って言う職業があって、魔物から得られる魔核を売って生計を立てているらしいな」


「え……あ、そうなんだ」


 今更ながらだが、冒険者がどうして大金を稼いでいるのか、その理由に気が付く。


 単に魔物を駆除するのではなく、魔核と言う高級生活必需品を得ているから、大きなお金になるのだ。


 ちなみにリリウミアでは、ダンジョンに追放した冒険者達に高額な所得税を課しており、それが国の財源____即ち、国家繁栄の源になっていた。


「魔核って魔物から手に入れてたんだ」


 私の勉強不足か、あるいは、リリウミアでは敢えてその情報が伏せられているのか。


 リリウミアでは魔族や魔物は、この世界から排除すべき異物であると教えられている。


 魔核と言う生活必需品が魔物から得られると言う事は、即ち、魔物の存在がヒト族の生活に必要不可欠であると言う事であり、それはリリウミアにおける教えにとって不都合な事実だった。


 なので、敢えてこの情報が伏せられていた可能性は高い。


「で、このファングアップル、月日と共に大きくなる訳だが……これが大きくなり過ぎると、共食いをするようになる」


 再び、説明を開始するイン。


「今回の仕事は、そんな大きくなり過ぎたファングアップルを討伐する事だ。そうしねえと、貴重な食料であるファングアップルの数が減って、俺達は飢え死んじまう」


 インの説明で、私は仕事の趣旨を理解する。


 これから、ファングアップルを討伐しに行く訳だが、それは収獲のためと言うよりも、種の保護のため、と言う事か。


「それにしても、地下なのに、植物が自生してるんだね」


 歩きながら、周りの光景を見ていた私は、ふとそんな疑問を抱く。


 太陽の光も無いのに、それなりに周囲には緑が多かった。


 さすがに、地上ほど自然豊かではないが。


「空気中を漂う魔力を養分にして育つ種類のものだ。俺達魔族と同じで、暗闇を好む植物だ。日光に当たると、たちまち枯れちまう」


「へえー」


 そんな植物があるのか。


 私が興味深げに観察していると、


「おい、見ろ」


 ガンが声を潜めて、注意を促してくる。


 その視線の先、巨大なリンゴが動いているのが分かる。


「間引きの対象だ」


 巨大なリンゴ、もとい、ファングアップルを指差すガン。


 距離があって正確な大きさは分からないが、成人男性の身体の倍の体長はあると見える。


 岩陰にさっと隠れるインとガンに続き、私もすぐさま身を潜める。


「よく、見えるだろ、あの巨大なリンゴが。今から、お前にはアイツを狩って貰う。頼んだぞ」


 インの言葉に私は頷き、ダガーを手に取り、半身になる。


 巨大なファングアップルを睨む私。


 ふと、背後を見遣ると、そろそろと後退を始めるインとガンに気が付く。


 いや、ちょっと待て……。


「二人は戦わないの?」


「馬鹿! なんのためにお前がいるんだよっ」


 ガンに舌打ちをされる。


「俺達は案内役だ。戦うのはお前一人でやれ」


「……いや、3人で戦った方が良くない?」


 その方が安全で効率も良いと思うのだが。


「ファングアップルを舐めるなよ。成長したファングアップルは、とにかく強くて狂暴なんだ。あれに多くのゴブリン達が殺されてる」


「お前、強いんだろ? 俺達じゃ危ないから、お前にこの仕事が任されたんだ」


「万が一、俺達が加勢して、それで重傷を負ったら、お前は責任取れんのかコラ」


「とにかく、早く行ってこい。くれぐれも油断はするなよ」


 2匹のゴブリンの矢継ぎ早の言葉と視線に押され、私は再びファングアップルに向き合う。


 情けない奴ら。


 インとガンに言いたい事はあるが……まあ、良いだろう。


 助太刀など、不要だ。


 一人でファングアップルを討伐する。


「【紫電】ッ!」


 まずは遠距離から。


 【紫電】のスキルを発動させ、紫色の電撃を放つ。


 紫色の電撃はファングアップルに直撃するが、


「!?」


 ファングアップルの巨体にはわずかに焦げ跡が残るのみで、ほぼ無傷と言って良い状態だった。


「おい、馬鹿! 成長したファングアップルには炎や雷は通じねえんだよ!」


「表皮の下に特別な防御層があるんだ」


 2匹のゴブリン達から後出しの情報を貰う。


 先に言ってくれれば良かったのに。


「おい、お前のせいで、ファングアップルがこっちに向かってくるぞ!」


「俺達は逃げるから、とにかく頑張れよ!」


 全力の逃走を始めるゴブリン達。


 ファングアップルはその巨体を転がし、高速でこちらに向かって来ていた。


 私は腰を低くし、魔物を迎え撃つ準備をする。


「はあっ!」


 ファングアップルの巨体がぶつかる直前で、跳躍し、その体当たりをかわす。


 ファングアップルは近くの岩に激突し、それを粉々に砕いた。


 ……凄まじい、破壊力。


 当たれば、ただじゃ済まない。


 成る程、巨大なリンゴに過ぎないと侮っていたが……多くのゴブリン達が犠牲になって来たのも頷ける。


 成長したファングアップルが強くて狂暴なのは理解したが、さりとて、私の相手ではない。


 地面を蹴る私。


 ファングアップルとの距離を詰め、ダガーをその身体に突き刺す。


 そして____


「____黒耀白牙よッ!」


 呪具であるダガーの名を叫び、その剣身から黒い光を放出させる。


 次の瞬間には、一筋の黒い光がファングアップルを貫き、その命を奪っていた。

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