第4話「ヒイラギ、所感を述べる」
「おい、貴様、一体何をしてる!」
「ん? 何って? 見ての通りトランプだが? お前も混ざりたいのか?」
「ふざけるな!」
シロメに部屋を与え、大使館を離れた俺は、王宮に再びやって来ていた。
そして、ダンの様子を窺いに、国王専用の執務室に顔を出した所……あろうことか、国王は執務を放り出して、家臣たちとカードゲームに興じていたのだ。
「貴様、仕事はどうした? 片付けなければならない書類が山ほどあっただろ」
「おいおい、家臣たちとの親睦を深めるのも立派な国王の仕事だぜ、ヒイラギ」
悪びれる事なく言い放つダンに俺は思わず「ふざけるな!」と叫び、腰元の刀を抜き放ちそうになった。
「しっかりと国王の務めを果たせ! 貴様が怠けると、俺が監督不行き届きで叱責を受ける事になるのだぞ! 分かっているのか!」
「あー、はいはい……いつも俺の代わりに怒られてくれてありがとうな、相棒」
俺は溜息を吐いて、
「解散しろ、お前達! 今すぐ全員、仕事に戻れ!」
近くの机を叩き、怠慢なゴブリン達に命令する。
ゴブリン達は渋々と言った具合にカードを放り投げ、執務室から退出を開始した。
ダンは肩をすくめ、
「やれやれ、折角面白くなって来た所なのによお」
カードをまとめ、机の引き出しの一つに放り込むダン。
俺はダンが執務を開始するまで、腕を組んで部屋の中央で仁王立ちをしていた。
「全く、お前という奴は」
俺は苛立たし気に自身の獣耳をかきながら、
「仕事は増やすくせに、仕事を片付けようとしない。今回の件も、まさか全て俺に対処させようとはしていないだろうな」
「今回の件って? ああ、あのお嬢さんの事か」
「ああ、そうだ。俺もあの少女には思う所があって放っておくつもりはないが……アレはお前の気まぐれでここに置いているようなものだろう」
「そうだな、良い退屈しのぎを見つけたぜ」
ダンは何故か得意気に、
「だがな、この俺様は、退屈は嫌いだが、面倒はもっと嫌いなんだぜ」
「……貴様」
思わず額に青筋を立てる俺。
それはつまり……シロメの世話は全て俺に放り投げると言う事なのだろうか。
怒鳴りかける俺に、
「で、お嬢さんからは何か聞き出せたか?」
執務に取り掛かりながらダンが尋ねて来る。
俺は前のめりになっていた姿勢を引いて、
「聞き出せたのは、彼女がリリウミアから逃げて来たことぐらいだ。口振りから、生まれてからずっと、あの国で暮らしていたように感じる」
「リリウミアで暮らしていた? 半魔が? 大結界アマテラスの中で?」
「本人はそう言っていた」
正直、半信半疑だ。
大結界アマテラスの内部は魔族や半魔が生存出来ない領域となっている。
シロメが嘘を言っているようには感じなかったが。
「それと、これは俺の所感だが」
と、前置きをする。
「彼女、元は心優しい少女だったのだろう。それが、恐らくは正体がバレた事によって、迫害を受け、心がすさんでしまっている」
「まあ、だいたいそんな感じだろうな」
ダンは書類から顔を上げ、
「あのお嬢さん、既に手を汚しちまってるぜ」
ゴブリンのにやりとした笑みが向けられる。
「一度、その手を汚しちまった以上、もうヒト族の世界に帰る事は無い。お嬢さんはこの世界で生きるしかないだろうさ」
「……」
俺は腕を組んで、ダンの言葉を肯定するでも否定するでもなく黙り込んだ。




