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第45話「私は魔族だ」

 ……カーラは何処だ?


 目を覚ました私が、一番初めに頭に浮かべた疑問がそれだった。


 ……カーラに逃げられた。


 立ち上がった私の心を後悔と怒りが満たす。


 ……カーラを追わなきゃ!


「カーラッ! 何処に行った、カーラッ!」


 叫び、意識も覚束(おぼつか)ないまま駆け出す私。


 固い地面を蹴り、”地下水道”の陸地を奥へ、奥へと進んで行く。


「絶対に……逃がさないッ!」


 このままカーラに逃げられてたまるか。


 あの女は、絶対に私が殺す。


 辱め、痛めつけて、生まれた事を後悔させながら、殺す。


「出て来い、カーラッ! 出て来いッ!!」


 走って、走って、走って____


「姿を現せ、カーラッ!!」


 夢中になって、憎きその影を追い掛ける。


 すると____


「探し物はここにあるぜ、お嬢さん」


「!?」


 頭上から声が降って来る。


 少しだけしゃがれた、男性の声だ。


 足を止め、上を見上げる。


 目の前は小さな崖になっており、その天辺に、一人の____いや、一匹のゴブリンがいた。


 先程のゴブリン達と比べると背が高く、身に着けている衣服も品があって小洒落ている。


 そして、よく見ると、背が高いゴブリンの背後には数匹のゴブリン達が召使いのように控えていた。


 ……恐らく、こいつはゴブリンのボス的な存在だ。


「はは、凄え殺気だな、おい。そんなにこの女の事が大切か」


「!? ……カーラッ!」


 ボスゴブリンが手元の鎖を引くと、カーラが姿を現した。


 下着姿で両手を背後で拘束されている。


 さらには、首輪と口枷が装着されており、その目は生気が抜けたように虚ろだった。


 仇敵の出現に、私の中で今一度憎しみの感情が強くなる。


「それは……私の獲物だ!」


「ほお、お前の獲物、ね」


 ボスゴブリンは興味深げに私の事を見つめている。


「お前とこの女の関係が気になるところだが……どっちにしろ、これ(、、)は既に俺の所有物だ。俺達が捕獲したんだぜ。お前にはくれてやらんよ」


 にやけるボスゴブリン。


 私は歯を食いしばり、


「もう一度言う。それは、私の獲物だ」


 低い声で脅すように、


「大人しく渡す気がないのなら……お前を殺す!」


 そう宣言すると、私は跳躍し、崖を登り切る。


 ボスゴブリンの前に躍り出て、ダガーを引き抜き、その切っ先を突き付けた。


「おお、怖い怖い! 勘弁してくれよ、暴力は」


 お道化た調子でそんな事を口にするボスゴブリン。


 何だ、このゴブリンは。


 全然強そうには見えないが……この余裕、実は相当の実力者か?


 ボスゴブリンは一歩後ろに下がると、


「おおい! ヒイラギ! 怖い嬢ちゃんがこの俺様を殺すってよ! 悪いが、守ってくれないか!」


 ボスゴブリンが背後にそう叫ぶと、一陣の風が吹き(すさ)び____


「!?」


 目の前に、どこからともなく人影が現れた。


 褐色の肌に、黒い髪。


 そして、頭部からは獣の耳が生えている。


 思わず、後退る私。


 ボスゴブリンの声に応じて現れたのは、獣人____ヒト族の男性だった。


「おい、ダン。貴様、俺の事を貴様の護衛か何かだと勘違いしていないか」


「おいおい、そんな突き放す様な事言うなよ、相棒」


「ふざけるな、誰が相棒だ」


 親密な関係……とは言い難いが、ヒト族がゴブリンに加勢している。


 ヒト族が魔族と肩を並べている。


「まあ、とにかく、目の前の怖い嬢ちゃんをどうにかしてくれよ、ヒイラギ」


 ヒイラギと呼ばれた獣人は溜息を吐くと、


「おい、お前。一先ず、その刃物をしまってくれないか」


 困惑の状態にある私にそう告げる。


「何か、色々と事情があるようだな。良ければ話を____」


「話し合いの必要なんてない!」


 ヒイラギの言葉を遮る私。


「その女を寄越せ! それが私の話の全てだ! 言う事を聞かないのであれば、お前達全員殺す!」


「……全く、仕方がないな」


 ヒイラギは腰を落とし、腰元の鞘に手を掛けた。


「俺の名前はヒイラギ。お前、名前は?」


「シロメだ!」


「シロメ、か。良いだろう、かかってこい、シロメ」


 涼しい声でヒイラギは告げる。


「ここは魔族の世界。弱き者に居場所などない。お前の力、この俺に示してみろ」


 ヒイラギの雰囲気が変わった。


 ……強い。


 まだ戦ってもいないのに、その強さが分かる。


 私は勝てるだろうか?


 私だって、かなりの実力者だが……ヒイラギはそれを上回っているように感じる。


 あくまでも、推測の話になるが。


「はあっ!」


 地面を蹴り、ヒイラギに突っ込む。


 ダガーを繰り出すと、


「!?」


 次の瞬間には、私のダガーが宙を舞っていた。


 何が起きたのか、状況を確認する。


 ヒイラギは腰元の鞘から刀を抜き放ち、私のダガーを吹き飛ばしたのだ。


 ……速すぎる!


 異次元の素早さだ。


「くっ」


 次撃が来るのを予測し、即座にバックステップをする。


 予測通り、目の前をヒイラギの刀が空振った。


「ほお、かわしたか。良い反応だ。やはり、見込み通りの強者(つわもの)か。だが、その強さも、まだまだ原石に過ぎんようだな」


「……舐めた事を!」


 余裕のヒイラギ。


 その実力はやはり本物だ。


 恐らく、接近戦では敵わない。


 ならば____


「____ラ ルーヂャ エレクトロ ディスサルトゥ(赤き雷撃よ、散れ)!」


 【赤電】のスキルを発動させ、私を中心に赤い稲妻のドームを展開させる。


 接近戦が駄目なら、魔法でヒイラギを仕留める。


 そう目論んだのだが、


「雷の魔法か。残念だが、この俺に雷は通じん」


「!?」


 稲妻のドームがヒイラギの身体に達した時、赤い電撃は彼の刀へと吸い込まれていった。


 瞬く間に私の【赤電】は無力化され、


「はあッ!!」


 ヒイラギが私との距離を一気に詰めてくる。


 そして____


「そこまでだ、ヒイラギッ!」


 ボスゴブリンの制止の声。


 ヒイラギの刀が、私の胸を突き刺す寸前で止まっていた。


「殺すんじゃねえぞ、ヒイラギ」


「貴様に言われずとも分かっている。わざわざ指図するな」


 冷たい刀の切っ先に、私は身動きが出来ずにいた。


「その女……やはり、妙なニオイがしやがるな。おい、お嬢さん」


 ボスゴブリンが前に進み出る。


「俺の名前はダン。見ての通り、ゴブリンで、グン王国の国王____つまり、魔王だ」


「……魔王」


 思わず目を見開く。


 ……魔王?


 このゴブリンが?


 そうには見えないが。


「お嬢さん、お前は何者だ?」


 ダンの観察するような瞳が私に向けられる。


「どこから、どうしてここに来た? 教えてくれないか?」


「……」


「歳はいくつだ? 種族は何だ?」


 質問攻めするダン。


 私が黙っていると、


「お前はヒト族か、それとも魔族か? お前のニオイ、珍しいから、どっちか判別が付かねえんだ。太陽のニオイもするし、暗闇のニオイもする」


「……ヒト族……魔族……」


「ああ、そうだ。答えてくれるか、お嬢さん」


 私はヒト族か? それとも魔族か?


 己に問いかける。


「……私は」


 静かに口を開く。


私は魔族だ(、、、、、)。半分だけ、だけど」

第一章・完

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