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第37話「ザビーネ、森を前に」

 関所前、眼前の緑を見つめる。


 シロメ____クロバの子供によって焼き野原にされたその場所は、私の【森林化】のスキルにより、以前の姿を取り戻しつつあった。


 ここまで復活させるのに、連日連夜、気力と体力を極限まで擦り減らし続けたものだ。


「……全く、森を焼くとは……なんと邪悪な事を」


 エルフにとって森は命の源だ。


 森なくしてエルフは存在し得ない。


 私____ハーフエルフの場合は、”緑の力”がなくとも自前で生命力と魔力を生成する事が出来るので、その限りでは無いのだが……。


 森林を破壊された事に対する本能的な嫌悪感があった。


「あの子は今、どうしているのでしょうか」


 フォレストタイタンを撃破したハーフインキュバス。


 さすがは”剣聖”クロバの子供と言ったところだろう。


 騎士団は未だその確保に苦戦していると聞く。


「殺さずに捕えろ、ですか」


 馬鹿な事を。生け捕りなど不可能だ。


 アレは、生半可な力では太刀打ちの出来ない____恐ろしい化け物だ。


 インキュバスと言う種族を舐めてはいけない。


 インキュバスは最も厄介な魔族だ。


 私はアレらを最強最悪の魔族であると常々口にし、この世から駆逐すべき存在であると皆に教えている。


 シロメはインキュバスである上に、クロバの子供だ。


 これ以上危険な”血”は世界のどこにも存在しないだろう。


「あら、今日も森の復元に精を出しているようね、ザビーネ」


 耳障りな声が背後から掛けられる。


 私は目を細めて、


「……何のようですか、アンリエット」


 アンリエット____憎むべき外道の登場に、怒りで全身の血潮が沸き立つ。


「あらあら、恐い顔。そんな顔してたら、しわが増えるわよ」


「用が無いのなら消えて下さい。でなければ____うっかり貴方の事を殺してしまうかも知れないので」


 クロバを陥れた張本人。


 その存在を前に、怒りで我を忘れてしまいそうだ。


「貴方に特に用はないわ。ただ、関所を通るついでに挨拶をと思っただけよ」


「関所を? 国外に出るつもりで?」


 アンリエットは複数人の部下を引き連れていた。


 ……任務か?


 もしや、シロメは既に国外に逃亡済みで、その追跡を行おうとしているのだろうか。


「最近、行方不明者が結構出ているでしょう? 近くに魔族のコロニーが発生していて、外出した国民が魔族たちにさらわれているかもって話が出ているのよ。その調査任務ね」


「シロメの一件とは関係ないのですね」


 シロメの捕獲は聖日騎士団が主導する事になった。


 てっきり、アンリエットはそちらの任務に回されているものかと思ったのだが。


 アンリエットは肩をすくめ、


「私、そっちの任務からは外されているのよね。私だと、シロメを殺しかねないとかなんとか言われて」


 成る程、そう言った事情か。


 確かに、私が上司なら、アンリエットは捕獲任務から外す事だろう。


 任せるのに少なくない不安を感じる。


 だが、それは別として____


「……捕獲など生ぬるい事を……アレは確実に始末しなければならないのに」


 私の呟く様な言葉に、アンリエットはからかうような笑みを浮かべて、


「いやいや、貴方がそれを言うのかしら? 貴方が始末出来なかったから、聖日騎士団が動いているのでしょう」


「我ながら力量を見誤りました。あの時、私自らが手を下すべきでした。しかし、まさかフォレストタイタンを退けるなどと思わないでしょう、普通は」


「見誤った? ふーん、どうかしらねえ……貴方、敢えて殺さなかったんじゃない?」


「馬鹿な事を!」


 私は確実にシロメを殺すつもりでいた。


 己の使命を全うするために。


 騎士としてそれだけは誓って……いや。


 ”確実”ではない、か。


 シロメが____クロバの顔を持つ子供が殺される場面を見るのが苦痛で、私はあの場を立ち去った。


 確実にアレを殺すつもりであったのならば、何がなんでもアレを始末するつもりであったのならば……私はあの場に残っていた筈だ。


 つまりは____


 ……私としたことが……世の命運に私情を挟んでしまったのだ。


 何とも、情けない。


 私はぶんぶんと頭を振り、


「とにかく、アレは想像以上に強い存在です。舐めて掛からない方が良い」


「そうねえ……まあ、私にはもう関係の無い事だけど」


「他人事みたいに」


 騎士としてどうなのか、その発言は。


 非難の視線をアンリエットに向ける。


 アンリエットは不敵な笑みを作り、


「そんな心配しなくても、もうすぐ片が付くわよ」


 そんな事を言う。


 ……もうすぐ片が付くとは?


「今頃、カーラが上手くやってくれているわ」


「カーラ? 貴方の妹が?」


「ええ、彼女、私に負けず劣らず優秀だから」


 自信たっぷりに断言するアンリエット。


「それじゃあね。私は自分の任務に励むとするわ」


 アンリエットが去って行く。


 ……あれが”英雄”マリーの娘。


 母親に似て、ろくでもない性格の持ち主のようだ。


 いや、卑劣さで言えば、母親以上のものがある。


「……クロバの事は必ず後悔させて上げますよ」


 遠のくアンリエットの後姿にそう語り掛けるのであった。

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