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第36話「地下水道と貿易船」

 リリウミアの”地下水道”から貿易船が出航するその前夜が訪れる。


 私達は無事にこの数日間をやり過ごすことに成功した。


 実は数回、騎士達と遭遇し、戦闘する機会があったのだが____私、ロッド、メリエの3人は危なげなく勝利している。


 私達が呆気なく騎士達を撃退する事が出来ているのは、廃工場での乱戦やフォレストタイタンとの死闘の経験が理由だった。


 激戦を生き抜いた事により、私達の生命力や魔力はかなり上昇しているようだ。


 戦いの経験はその者の生命力と魔力を増幅させると聞く。


 さらに、その戦いが死の危険を感じさせるものだった場合、増幅効果は格段と高くなるらしい。


 それとは別に、私達はここ数日で随分と戦い慣れをしたようだった。


 身体の動かし方、スキルの使い方、状況判断の仕方____私達はそれらの飲み込みが早いようだった。


 自惚れは過ぎるといけないが……私達は並みの騎士達よりもかなり強くなっているのだろう。


「”地下水道”まで後どれくらいかしら?」


 夜道を歩きながら、メリエが尋ねる。


「さあ……でも、ほら、あれって造船所じゃねえの? もう大分近くに入り口があるんじゃねえか?」


 目の前を指差すロッド。


 宙吊りになった船体が遠くに見えた。


「あ、ほら。看板があるよ。2キロメートル先に”地下水道”の入り口があるって」


 看板に書かれていた矢印と文字が、目的地の近さを教えてくれる。


「ここからは慎重にね」


 最大限の注意を周囲に払う。


 ここでの騎士達との遭遇は、最悪の場合、私達の計画の露呈に繋がる。


 ”地下水道”を利用したリリウミアの脱出計画は、騎士団の注意がこちらの向いていないからこそ成立するものだ。


 やがて、巨大な傾斜が視界に現れ、その様子を私達は物陰から観察し始めた。


「あれが、”地下水道”への入り口ね」


 メリエがそう確認する。


 地下へと続く幅広の道____周囲に障害物はなく、通過すれば容易に気付かれてしまうだろう。


 私は意識を研ぎ澄ませ、【気配察知】のスキルを発動させた。


 周囲の情報が脳内に入って来る。


「周りに人はいない。このまま”地下水道”まで行こう」


 言うや、私は駆け足で傾斜へと向かい、地下へと降りていく。


 後ろからはロッドとメリエが付いて来ていた。


 暗闇の中、傾斜を下って行く私達。


 次第に、水の音が聞こえて来た。


 河川が近いのだ。


「……あれだ」


 と、私は声を潜めて目の前を指差す。


「うおっ……でけえ」


 と、ロッドが思わず声を漏らした。


 傾斜が終わり、開けた場所に出た私達。


 眼前に広がるのは巨大な河川。


そして、水面に浮かぶ、城のような大きさを持つ船舶が視界に飛び込んで来た。


 私は再び【気配察知】のスキルを発動させる。


「船体の向こう側が船着き場になっていて、タラップの前に人が2人だけいる」


 【気配察知】から得られた情報を2人と共有する。


 船体が巨大過ぎるせいで、直接目で見ることは出来ないが、船を挟んで向こう側が船着き場になっているようだった。


「これなら、手筈通りに船の中に潜り込めそうだね」


 見張りの者がいるようだが、これは想定の範囲内だ。


 私達は臆せず船着き場の方まで歩いていく。


 やがて、死角になって見えていなかったタラップと2人の見張りが姿を現す。


 2人の見張りがこちらに気が付くと、


「どうも、お疲れ様です」


 と、私は気軽な挨拶を寄越した。


 駆け足気味に見張りたちの前まで歩み寄る。


 そして、”催眠術”の能力を使用し、


「追加の作業があるので、船内に入らせて下さい」


 見張りの2人は顔を見合わせ、


「ご苦労様です、どうぞお通り下さい」


 何の疑いもなく、私達を船内へと通す。


 ”催眠術”の能力により、私達が船舶の作業員であると彼女達に思い込ませたのだ。


 私達はタラップを歩き、何の苦労もなく船内へと侵入する。


「お前のその”催眠術”の能力、無茶苦茶便利だな」


 船内に入ると、ロッドが私を小突いて来た。


「でも、解けないかちょっと心配だな」


「大丈夫だよ、12時間以上は持つから。その頃には、あの人達は夜勤明けのベッドの中で、私達を乗せた船はリリウミアを離れてる」


 と、私は断言する。


 ここ数日、私は自身にそなわる様々な力を磨いて来た。


 それはスキルの力だったり、インキュバスの能力だったり。


 ”催眠術”の能力もロッドやメリエを対象に練習を積み上げて来たのだ。


「貨物室はどっちだろ?」


 今から、船が他国の船着き場に到着するまでの間、私達は船内に身を潜めておかなければならない。


 その場所として最適なのが、貨物室だ。


 既に輸送品の積み込みは完了しており、荷下ろしまでの間、誰も立ち寄ることは無いだろう。


「おい、こっちじゃねえのか」


 ロッドが私とメリエの袖を引っ張る。


 彼の視線の先、『積荷』の文字と矢印が描かれたプレートが壁に掲げられていた。


 私達は頷き合い、無言で矢印の先へと進む。


 ほどなくして、真っ暗な部屋に辿り着く私達。


 巨大な空間には無数のコンテナがところ狭しと並べられていた。


 ここが貨物室で間違いないようだ。


 暗闇に目が慣れて来て、室内を散策する事にする私達。


 やがて、メリエが「ねえ、ここ」と私とロッドを呼び止める。


「ここ、隠れ場所として良いんじゃないかしら?」


 メリエが指摘したのは、雑に放置された空の木箱の山だった。


「この中にちょっとした空間を作って身を潜めれば、万が一誰かがここにやって来ても気付かれにくいと思うんだけど」


「なるほどな」


 ロッドは頷き、早速、空の木箱を幾つか移動させる。


 やがて、貨物室内に空の木箱で囲まれた空間が出来上がった。


 私達3人が寝転ぶことが出来る程度のちょっとしたスペースだ。


「……よし」


 ロッドは満足気な表情を浮かべると、床の上に座り込んだ。


「後は時間が過ぎるのを待つだけだな」


 ロッドは懐から懐中時計を取り出し、私とメリエに視線を送る。


「あ、そうだ、見張りの順番はどうする?」


 と、尋ねるロッド。


 今から私達は、1人が起きて見張りをしている間、2人が仮眠を取ると言うサイクルを繰り返す。


 見張り番は3時間ごとに交代で、その順番はまだ決めていなかった。


「私が最初の見張り番をするよ」


 と、挙手をする私。


「じゃあ、俺が2番目で」


「ん、じゃあ、私は3番目」


 すぐに見張りの順番は決定した。


 最初が私で、ロッド、メリエの順番で見張り番を回していく事に。


「じゃあ、3時間よろしくね、シロメ」

「お先に失礼するぜ、シロメ」


 早速、仮眠を取る2人。


 固い床の上で寝心地は悪そうだが、こればかりは致し方ないだろう。


 ロッドから懐中時計を託された私は、ふと、うっすらとガラスに映った自身と向き合い、【スキル鑑定】のスキルを発動させる。




____対象者のスキル所有情報____


____【スキルドレイン(31)】、【蒸気噴射(16)】、【避雷(37)】、【自然治癒(46)】、【剣術(15)】、【威嚇(5)】、【スキル鑑定(43)】、【魔法干渉(11)】、【紫電(7)】、【魔力感知(23)】、【延焼(37)】、【赤電(21)】、【気配察知(34)】、【クリーニング(23)】____




 騎士達から奪ったため、ここ数日でまた新しくスキルが増え、更には既存のスキルのレベルも上がっていた。


 本来ならば、スキルのレベルが上がると言う現象は起きない筈なのだが____【自然治癒】のスキルのレベルは、以前は12だったのだが、今は46となっている。


 こちらが既に所有しているスキルと同じスキルを【スキルドレイン】で奪った場合、所有スキルにレベルが加算される仕組みになっているようだ。


 それはそうと____


「……今から3時間、か」


 現在時刻は午前4時。


 つまりは、午前7時まで起きていなければならない。


 眠くはないが……やる事がないので、少々退屈だ。


 私は暗い天井を見上げ、想像してみる事にした。


 これから、私達はどんな未来を歩む事になるのだろうか。


 悲しい事も、辛い事もあったが、今こうして、私達は新しい人生の船出を迎えようとしている。


 とても心が弾む。


 新天地で冒険者となり、困難や試練が待ち構えている事だろう。


 でも、私達3人なら……その苦労すら楽しんで行けると思う。


 色々な可能性を思い描いている内に、時間は経過し、いつの間にか午前7時____交代の時間が訪れた。


「ロッド」


 囁き、ロッドの身体を擦る。


「……んー?」


「交代の時間だよ」


「……んー……分かった……」


 ロッドは静かにあくびをかまし、立ち上がって伸びをした。


 それから私から懐中時計を受け取って、


「お疲れさん」


 少しだけ眠たそうに私の肩を叩くロッド。


 役目を終えた私は、見張り番をロッドに託し、床に横になるのだった。


 次、起きるのは6時間後、即ち午後1時だ。


 その頃には、船はリリウミアを離れている事だろう。


 床は固く、寝心地は悪いが、今はとにかく睡眠を取って、体力を回復させなければ。

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