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第31話「黒い光」

 尋常ではない魔力を放出しながら、フォレストタイタンがこちらに向かって来ていた。


「……速い」


 フォレストタイタンは猛スピードで私達の元へと駆けているようだった。


 恐らく、逃げる事は不可能。


 森が燃えた事で、巨人は短期決戦に打って出たのだろう。


 魔力が切れる前に、私を殺すために。


「このまま、迎え撃つしかない」


 覚悟を決め、身構えると、ロッドとメリエも私にならった。


 やがて、一回り小さくなったフォレストタイタンが、炎の海を掻き分け、私達の前に姿を現す。


 その有り様、まるで地獄からの使者のようだった。


 フォレストタイタンの出現と共に私達は散り散りになり、三方向から巨人を囲うように移動を開始する。


 フォレストタイタンは標的である私へと一直線に疾駆していた。


「おら、喰らえッ!」

「はあッ!」


 フォレストタイタンが私に迫る中、ロッドとメリエが両サイドから巨人の足首に攻撃を仕掛けようとするが____


「ぐっ!?」

「うわっ!?」


 疾駆する巨人の勢いが凄まじく、二人とも攻撃を断念してしまう。


 跳躍するフォレストタイタン。


 巨体が宙を舞い、そして、土塊(つちくれ)の拳が私の元へ降って来た。


 ……先程よりもずっと速い一撃だ!


「大丈夫か、シロメ!?」

「シロメ、無事!?」


 私を案ずるロッドとメリエの声が響く。


 私は辛うじてフォレストタイタンの拳をかわしたが、その風圧におされ、地面を転がっていた。


「……ぐうっ」


 右腕が痛む。


 涙を浮かべながら急いで立ち上がると、フォレストタイタンは追撃の拳を放とうとしていた。


「させるかよ!」


 ロッドの声が響くとの同時に、フォレストタイタンの巨体が(かしい)いだ。


 ロッドがフォレストタイタンの足首に一撃を入れたのだ。


 そのおかげで、巨人の拳の軌道は逸れ、私は難を逃れることが出来た。


「____【紫電】!」


 私は左の手の平をフォレストタイタンへと向け、紫色の雷光を放つ。


 森の大半を焼き尽くす程に【延焼】のスキルを使用したため、もうほとんど魔力が残っていない。


 それでも、私の放った【紫電】はフォレストタイタンの上半身を半壊させる事に成功。


「……!」


 土塊が舞う中、フォレストタイタンの巨体がその造形を失う。


 露わになる光の玉。


 私はその光景に、一瞬、フォレストタイタンの撃破を確信したが____それは勘違いだった。


 光の玉にはすぐさま土塊が再集結する。


 人の形が出来上がるが……その大きさは決して巨人と呼べるほどのものではなく、大柄な男程度のもの。


 小さくなったフォレストタイタンは地面に降り立つと、瞬く間に私との距離を詰めた。


「……あぐっ!?」


 フォレストタイタンの両の手の平が私の首を掴み、締め上げた。


 喉元に押し付けられる圧力に、私はうめき声を発する。


 ……不味い。


 フォレストタイタンにはもうほとんど魔力が残されていない。


 手の平の力は私の首を折るほどのものではなかったが、それでも、このまま窒息死に持ち込むことは可能だろう。


「シロメ、今助けるぞ!」


 ロッドが叫び駆け付けようとするが、


「……! くそっ、邪魔だ!」


 ロッドの進行を阻むように、半透明な殻が出現し、私とフォレストタイタンを包囲した。


 私の【紫電】を防いだあの半透明な殻だ。


 ロッドは【怪力】のスキルを発動させ、必死に殻を叩くが、案の定ビクともしない。


「……ぐっ……がっ……!」


 息が出来ない。


 頭がぼうっとする。


 だが、薄れゆく意識の中で____私は自らの勝機に気が付く。


 今、私とフォレストタイタンは半透明な殻の中に一緒になって閉じ込められている。


 恐らくだが、半透明な殻は、攻撃や外敵を感知し、光の玉から一定の距離に自動で展開されるもの。


 つまり、私の必殺の一撃を防いだ半透明な殻は、今現在私から光の玉を守る事が出来ない。


 私が殻の内側にいるからだ。


「……そ、こ……か……!」


 フォレストタイタン____その胸の部分に光の玉は存在する。


 今、私が何かしらの一撃を与えれば、フォレストタイタンは今度こそ撃破されるだろう。


 だが、私には既に魔力が残されていない。


 【紫電】のスキルが使えない。


「……く……そ……!」


 一撃____ただ一撃を与えるだけで、私は勝てるのだ。


 ……こんな所で……私は死にたくない!


 母親の、親友の、そして……私自身の願い。


 絶対に____


「____生きてやるんだ!」


 私の手が何かに触れた。


 それは、腰元に差し込んでいたダガーだった。


 母親がお守りとして持っていたものだ。


 名前は確か、黒耀(こくよう)白牙(はくが)


 私は無意識の内に、ダガーを鞘から引き抜いていた。


「……!?」


 突如、左手に握りしめたダガーが黒い光を放ち出す。


 黒くて、輝かしい、不思議な光。


 驚きに目を見張る私だが、それと同時に、とある確信を抱く。


 ……倒せる!


 黒く光るダガーを強く握り、私はその切っ先をフォレストタイタンへと向けた。


 すると、刃からは黒く鋭い光が迸り、やがて一筋の光となってフォレストタイタンを貫いた。


 フォレストタイタンが悲鳴を発する。


 炎に包まれた森を、黒い光が飲み込んだ。


 喉元を締め上げるフォレストタイタンの手の平から力が失われるのを感じる。


 瞬きを一つすると、粉々に砕けたフォレストタイタンの身体と、霧散する光の玉が視界に映し出された。


 私は喉元の拘束から解放され、ぐったりと地面に倒れ込む。


「……げほっ……げほっ……」


 咳き込む私。立ち上がろうとするが、身体に力が入らない。


 左手は黒い微光を放ち続けるダガーを握りしめている。


「おい、シロメ!」

「生きてる、シロメ!?」


 ロッドとメリエの声が聞こえる。


 二人分の足音が迫って来る。


 そして、私はロッドとメリエに抱きかかえられるのを感じた。


「返事をしろ、シロメ!」


 ロッドが身体を揺さぶって来るが、私は口を開く事が出来なかった。


「死なないで、シロメ!」


 涙声のメリエ。


 何か答えて上げたかったが、その力は私には残されていないようだ。


 ……意識が遠のく。


 親友達の抱擁の中、私の思考は途切れるのであった。

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