第30話「フォレストタイタンの攻略法」
フォレストタイタンから逃亡する私達。
「身体、どこかやられたか、シロメ?」
私を抱えながら走るロッドが尋ねて来る。
私は「どこもやられていないよ」と答えようとして、右腕に激痛が走ったので、
「……右腕、無理に動かすと痛いかも」
「マジか? ちょっと、見せてみろ」
フォレストタイタンからの距離を十分稼いだところで、ロッドは私を地面に降ろす。
「はあ……はあ……ちょ、ちょっと……速いわよ、アンタ達……!」
私達の後を必死に追っていたメリエが、息を切らしながら迫って来る。
私は少しだけ肩口をはだけさせ、ロッドとメリエにその状態を見て貰う事に。
「うわ……結構、腫れてるな」
「やっちゃってるわね、これ」
二人にそう告げられる。
……やはり、怪我をしていたか。
「大丈夫なの、シロメ? 動ける?」
「……うん」
私は右腕を押さえながら立ち上がり、頷く。
「見た目ほど痛みはないし、それに、私には【自然治癒】のスキルがあるから」
半魔であり、【自然治癒】のスキルを持つ私ならば、この程度の怪我、直に治ることだろう。
それよりも、だ。
「フォレストタイタンを倒すためには、あの光の玉を破壊しないといけない。あの光の玉がフォレストタイタンの動力源になってる」
私はロッドとメリエに確認するような視線を向ける。
「だけど、光の玉は頑丈な殻に守られて、ビクともしない」
ロッドは難しい顔をして、
「さっきのシロメの一撃、凄かったよな。あのデカブツの上半身をぶっ飛ばしてよお」
「……でも、あの一撃をもってしても、光の玉は無事だったわよね」
メリエは不安な顔を私に向ける。
「ねえ、シロメ、あれ以上の力、出す事って出来る?」
私は首を横に振り、
「……アレが今の私の限界。あれ以上の火力は出せないかも」
「……そんな」
私の言葉にメリエが絶望するのが分かる。
ロッドが身を乗り出して、
「じゃあ……万事休すってやつか?」
「……」
私は腕を組み、黙考の後、
「そもそも、あの光の玉って何なんだろう?」
そんな疑問を口にする。
「この森を囲う光の壁とあの巨人のエネルギーを、たった一つの光の玉がまかなっている。そんな事ってあり得るのかな?」
「うーん……どうだろうなあ……言っても、あのクソババア、魔法使いとしてはマジで凄い奴だからなあ」
ロッドはそう言うが、私にはもう一つ、腑に落ちない事があった。
「私、【魔力感知】のスキルを持っているんだけど……気付いたことがあって」
今になって、その違和感を口にする。
「光の壁とフォレストタイタン。この二つを同時に起動させている状態って、相当魔力の消費が激しいと思うんだけど……その動力源となっているあの光の玉からは、ほとんど魔力の減少が確認出来なかった」
つまり、何が言いたいのかと言うと、
「あの光の玉からは無限に大量の魔力が湧き出ているって事になる」
私の言葉にロッドとメリエが目を見開いて、
「おいおい、そんなの反則だろ!」
「あり得ないわ、そんな事!」
……そうだ。
これは、本当ならあり得ない事なんだ。
だから____
「何かカラクリがある筈なんだ。無限に湧き出る大量の魔力。その真の源が存在する」
そう断言する私。
ロッドが食い気味に、
「……カラクリって……一体、どんな?」
「分からない……ロッドは何か思い当たることは無い?」
と、逆に質問してみる。
「ザビーネさんの事なら、ロッドの方が詳しいでしょ」
仲が悪いとは言え、血の繋がった親子なのだから。
ロッドは難しい顔をして、
「悪いが、力になれそうにないな。俺、アイツの事、マジで何にも知らんし」
「……そっか」
私の視線は遠方から迫り来るフォレストタイタンの巨体へと向けられる。
それは、忍び寄る死そのもので、恐怖と焦燥を与えるものだったのだが……右腕の痛みがその感情を麻痺させてくれていた。
おかげで、その姿を冷静に観察する事が出来た。
「……フォレストタイタン」
私はふと、疑問を覚える。
「……どうして、フォレストタイタンなんて名前なんだろう」
迫り来るフォレストタイタンの巨体は、土塊で構成されており、その姿を形容するのであれば、巨大な泥人形とでも言うべきものだった。
そのどこにも森の要素はない。
森人とも呼ばれるエルフが作り出した巨人なので、フォレストタイタンなどと言う名前を持つのだろうか。
森人……森の巨人____
「……そうか!」
と、私は何か閃くものを感じた。
「どうしたの、シロメ? 何か分かったの?」
メリエが急かす様な視線を向けてくる。
「光の玉の正体。多分だけど、あれは”緑の器官”なんだ」
「……”緑の器官”……って何だっけ?」
首を傾げるメリエ。
聞き覚えはあるが、それが何か思い出せないと言った様子だ。
「エルフは植物から発生していると言われている”緑の力”を、体内の”緑の器官”で生命力や魔力に変換することで活動する事が出来る種族なんだ」
エルフが森人と呼ばれる理由は何か?
それは、彼らが森の中にしか住まないからだ。
植物から発生していると言われている”緑の力”がなければ、エルフは生きる事が出来ない。
即ち、多くの植物に囲まれた場所____森の中でしか、エルフは生きる事が出来ない。
”緑の器官”とはエルフの体内にそなわっている組織で、この場所で”緑の力”は生命力や魔力に変換される。
種族としてのエルフの定義は、この”緑の器官”を有するか否かと言っても良い。
「あの巨人も一緒だ。あの巨人がフォレストタイタンの名を持つのは、森人と呼ばれるエルフと同じで、”緑の器官”を持つから。森から発生する”緑の力”があの巨人の力の源」
無限に湧く大量の魔力のカラクリ。
フォレストタイタンはこの森から発生する”緑の力”を魔力に変換する事で動いているのだ。
だとすれば____
「フォレストタイタンを倒す方法が分かった」
私の言葉にロッドとメリエが目を見開き、
「本当か、シロメ!?」
「一体、どうやって!?」
詰め寄って来る二人に、私は言い放つ。
「この森を焼き尽くす」
フォレストタイタンの真の動力源はこの森だ。
森から発生する”緑の力”が光の玉____”緑の器官”により魔力に変換され、フォレストタイタンを動かしている。
つまり、この森を燃やし尽くしてしまえば、フォレストタイタンは動かなくなる。
「ロッド、【爆炎】のスキルは使える?」
「お、おう……だけど、もうそんなに俺の魔力は残ってねえし……ここら一帯の森林を焼き尽くすことなんて出来ねえぞ」
「大丈夫」
私は自身を指差し、
「私には【延焼】のスキルがある」
ロッドの【爆炎】のスキルで火種を作り、私の【延焼】のスキルでそれを広げる。
それで、この森を焼き尽くす。
「ここまでの事は全部私の推測に過ぎない。森を焼き尽くした所で、フォレストタイタンが動きを止めるとも限らないし、最悪の場合、私達は燃える森の中で焼け死ぬ。だけど……もう、ここに賭けるしかない」
私は覚悟の眼差しをロッドとメリエに向ける。
二人もその賭けに乗ってくれるか?
そう問いかける。
「……そうだな……やってやろうぜ、シロメ!」
ロッドは決意を露わに頷く。
「そうね、どの道、他に打つ手がない訳だし」
メリエも私に賛同の意を示す。
決まりだ。
フォレストタイタンがすぐそこまで迫っていた。
行動するなら……今すぐに!
「____燃えろ!」
ロッドが叫び、【爆炎】のスキルを発動させる。
離れた場所にある木が、炎に包まれた。
「燃え広がれ!」
ロッドが作り上げた炎を、私の【延焼】のスキルで大きくする。
あらん限りの魔力を注ぎ込む事によって、炎は広がり、森は紅蓮の海と化した。
「避難するぞ、シロメ、メリエ!」
炎と共に、森には煙が充満し出す。
まだ炎が燃え広がっていない場所に移動しなければ、焼死以前に窒息死してしまう事だろう。
私は【延焼】のスキルを発動させつつ、二人と共に移動を開始する。
「……すげえ熱だな」
炎に包まれた森に目を細めるロッド。
「正直、森を燃やすことに凄い拒絶感があるんだよな、俺」
ロッドはそんな呟きを漏らす。
「……やっぱり、あのクソババアの血が流れてるせいなのか」
「何よ、しんみりとしちゃって。ロッドらしくもない」
「ほっとけよ」
炎と、そして巨人から逃げるように、私達は走る。
ふと背後を振り返る。
ごうごうと燃え盛る火炎。その中を突き進み巨人の姿が見えた。
炎の中で、フォレストタイタンが叫び声を上げる。
まるで、森を燃やす私達を責め立てているようだった。
「……フォレストタイタンの魔力が減少している」
しばらくして【魔力感知】のスキルを発動させた私が、その変化に気が付く。
フォレストタイタンから魔力が失われつつあった。
それは、すぐさまフォレストタイタンを活動停止に追い込むほどの変化ではなかったが、それでも確実に私の作戦の効果が出ている事の証となる。
やはり、フォレストタイタンの力の源はこの森だったのだ。
「このまま逃げ切れば、フォレストタイタンはいずれ停止する」
私の言葉に、ロッドとメリエは喜色を浮かべる。
「さすがだな、シロメ! やっぱ、お前の言う事に間違いはないぜ!」
私の肩を叩こうとしたロッドだが、その直前で右腕の怪我の事を思い出したようで、代わりにメリエの背中を叩いた。
ロッドは「やめなさいよ!」とメリエに睨まれる。
いまだフォレストタイタンは健在だが、私達の間には勝利のムードが漂っていた。
しかし____
炎の中の巨人____フォレストタイタンに急激な魔力の消費を感じ取る。
それは、【魔力感知】のスキルを使わずとも感じ取れるほどのもので、私達3人は、はっとなってフォレストタイタンの方に向き直った。
「……な、なんだ」
フォレストタイタンは禍々しいオーラを放ち、雄叫びを一つ上げた。
かと思えば、その巨体が一回り小さくなり、それに反比例するように、動きが俊敏になる。
「おいおい、ちょっと不味いんじゃないか!?」
そして、尋常ではない魔力を放出しながら、フォレストタイタンは私達の元へと疾駆を開始した。




