第29話「立ちはだかる巨人」
「……多分だけど」
フォレストタイタンが迫り来る中、私は光の壁を指差し、
「この光の壁はあのフォレストタイタンが生み出しているんだと思う」
「……生み出しているって?」
「【魔法干渉】のスキルを使用した時に気が付いたんだけど、光の壁とフォレストタイタンとの間にパスみたいなものがあって」
今も僅かに感じる____光の壁はフォレストタイタンから魔力の供給を受けているようだった。
「……つまり……その……アレを倒さない限り、ここからは出られないんだと思う」
口籠りながら、私はそう告げる。
ロッドとメリエは目を見開き、
「あのデカブツを倒せってか!?」
「あんなのまともに相手なんか出来ないわよ!?」
二人の反応はもっともだ。
あの巨人は単騎で一軍を相手取る事が出来るような存在に違いなかった。
フォレストタイタン____実はその存在について、私は聞き覚えがあった。
”英雄”が生み出した巨人が、一晩で敵国を滅ぼした。
”英雄”が生み出した巨人が、単騎で敵軍を壊滅させた。
そんな昔話を耳にした事があったが……その巨人の正体こそ、ザビーネの生み出したフォレストタイタンなのだ。
「だとしたら……フォレストタイタンの魔力が切れるまで逃げるしかない……この光の壁の内側を」
私の言葉にロッドは溜息を吐き、
「魔力が切れるまでって……一体、いつまでだよ」
「あんな大きなものが動いてるんだし、消費される魔力の量もかなりのものだと思う。だから、割とすぐに魔力が切れる……筈なんだけど」
断言は出来ない。
何故なら、話によれば、フォレストタイタンは日没から日の出までその猛威を振るっていたようだったのだ。
昔話に脚色は付き物なので、それは誇張された事実だとは思うのだが……だとしても、それなりの長時間、フォレストタイタンが活動を続けられるのはあり得る事だ。
「ええい! 考えるのは逃げながらだ! 悪いが、【怪力】のスキルは温存したいから、今度はお前らの足で走れ!」
私達はフォレストタイタンからの逃亡を開始する。
フォレストタイタンの移動速度は私達の走る速さよりも遅く、こちらが走り続けている限り追い付かれることは無い。
ただし、それはこちらが走り続けていればの話で____
「……はあ……はあ……はあ……ちょっ、も、もう……限界……!」
メリエが息を切らして地面に倒れ込んでしまう。
スタミナの限界が訪れたのだ。
そして、それはメリエだけで無く、私やロッドも同じだった。
だいぶ息が苦しい。
「作戦変更……迎え撃つぞ、お前ら!」
ロッドが背後____迫り来るフォレストタイタンの方に向き直る。
「このまま逃げ回っても、俺達が体力を消耗するだけだ」
「……はあ……はあ……正気なの、ロッド?」
「じゃあなんだ、お前は後何時間も走って、奴の魔力が枯れるまで逃げ切る自信があるのか?」
「……それは」
口をつぐむメリエ。
ロッドの言う通り、このまま逃げ回るのは得策とは言えない。
「戦うんだね、フォレストタイタンと」
「ああ、それしか道はねえ!」
一軍の戦力に匹敵する力を持つフォレストタイタン。
戦うなど、無謀に思えるかもしれないが……それ以外に選択肢はない。
「メリエ、手鏡とか持ってない?」
「手鏡? 一応、持ってるけど……」
「ちょっと、貸して」
私はメリエから手鏡を借り、自身の顔と向き合う。
そして、【スキル鑑定】のスキルを発動させた。
◇
____対象者のスキル所有情報____
____【スキルドレイン(31)】、【蒸気噴射(16)】、【避雷(37)】、【自然治癒(12)】、【剣術(15)】、【威嚇(5)】、【スキル鑑定(43)】、【魔法干渉(11)】、【紫電(7)】、【魔力感知(23)】、【延焼(37)】____
◇
自身の所有スキルを確認する。
そして、スキルが増えている事に気が付く。
廃工場の戦いで”吸精”を行った際に【スキルドレイン】が発動し、新たにスキルを獲得したのだろう。
「……上手く使えないかな」
これだけの数のスキルを持っているのだ。
どうにかこうにかして、フォレストタイタンに対抗出来ないものか。
「おい、来たぞ!」
考えている内に、フォレストタイタンが目前に迫って来ていた。
もう既に、私達は巨人の拳の届く範囲内だ。
身構える私達の前で、フォレストタイタンの巨体が赤いオーラを纏い始める。
「……なんか、ヤバい感じだぞ」
フォレストタイタンの変容に私達は警戒感を強める。
「来るッ!」
空気が唸りを上げ、巨大な拳が私達に振るわれた。
「うわあっ!」
拳の速度が先程よりも速い。
ギリギリの回避に成功する私達だが、三者三様に地面を転げ回ってしまう。
「お、お前ら! 取り敢えず、固まらずに三方向に散るぞ!」
ロッドの言葉を受け、私達はフォレストタイタンを包囲するように三方向に散った。
「ロッド、メリエ! 二人とも大丈夫!?」
「ああ、俺は平気だ!」
「私も問題ないわ!」
的の分散を行った訳だが、二人が近くにいないと言う事で心細さを感じる。
……しっかりしろ、私!
____巨人の口から雄叫びが発せられる。
フォレストタイタンの纏う赤いオーラがさらに濃くなり、その動作が目に見えて俊敏になった。
……どうやら、本気モードのようだ。
【魔力感知】のスキルが、フォレストタイタンの放つ強い魔力を教えてくれる。
固唾を飲む中、フォレストタイタンが私を捕らえようと手の平を向けて来た。
「……ッ」
手の平の一つをかわした所で、もう片方の手の平が迫り、
「____【紫電】!」
【紫電】のスキルを発動させる。
紫色の雷光が私の手の平から迸り、フォレストタイタンの巨腕を粉砕した。
視界で土塊が舞う。
……あれ、意外と脆い? それとも、私の魔法が強いのだろうか?
もしかして、普通に戦って勝てるのでは____
「……って、そんな訳ないよね」
隻腕となったフォレストタイタンに勝機を見出した私だが____損傷した巨人の身体はほんの瞬きの間に、時間を巻き戻したかのように再生を果たしてしまう。
耐久力よりも再生能力に優れた巨人のようだ。
私が逃げるように駆けると、フォレストタイタンもその巨体を疾駆させ、私に拳を放った。
またしてもギリギリの回避に成功するが、フォレストタイタンの拳は私に向けて何度も振るわれる。
フォレストタイタンの拳に対し、私は回避するか、さもなくば【紫電】による迎撃を行い、どうにか命拾いをしていた。
この巨人、ロッドやメリエには目もくれずに私にばかり襲い掛かって来る。
……そう言えば、ザビーネは私を殺すようにとフォレストタイタンに命令していた。
だとしたら、巨人の標的は私ただ一人なのだろう。
「……もしかして、私が死ねば、ロッドやメリエは解放される?」
それを口にして、私はぶんぶんと頭を振る。
また、そんな事を考えて。
先程、生きると決意したばかりではないか。
フォレストタイタンを攻略する____今はそれだけを考えなければ。
フォレストタイタンの猛攻をやり過ごしながら、私は何とはなしに【魔力感知】のスキルを発動させた。
そして、魔力の密度が一段と濃い場所を発見する。
丁度、巨人の胸のあたり____そこに、大きな魔力の塊が存在する。
そうだ……光の玉だ。
ザビーネは光の玉を出現させ、そこに土塊を集結させていたが、恐らくはそれがフォレストタイタンの動力となっているのだろう。
それを破壊さえすれば、フォレストタイタンは止まるのかも知れない。
「……!」
と、フォレストタイタンの身体が突然傾いた。
揺れる巨人の体躯。
「シロメはやらせねえぞ!」
「こっちも相手にしなさいよ、デカブツ!」
何が起きたのかと思えば、ロッドとメリエがフォレストタイタンの片方の足首に同時に攻撃を仕掛け、破壊する事に成功していた。
フォレストタイタンの足首はすぐさま再生するが、それが私に反撃の機会を与える。
手の平をフォレストタイタンに向け、狙いを胸部に定める私は、
「ミ エスタス インファーノ デ トンドロ ラ プルプーラ エレクトロ ペネートル マルアミーコン(我、霹靂の子なり。紫の雷撃よ、敵を貫け)」
古代語で詠唱をする。
スキルの力があれば、無詠唱で魔法を使う事は出来るが、詠唱をすれば言霊の力が魔法の威力と精度を高めてくれる。
詠唱は現代人が用いる口語でも可能だが、古代語の方が効果が高いと聞く。
そのため、私は咄嗟に、古代語の知識と語彙力を駆使して、魔法の詠唱を行った訳だ____必殺の一撃をフォレストタイタンに叩きこむために。
やや堅苦しい詠唱の甲斐があってか、私の手の平からは、眩い光を放つ高威力の雷光がフォレストタイタンへと放たれた。
人がその身で受ければ、熱で溶かされてしまう程の雷光だ。
紫色の光線がフォレストタイタンの胸部を粉々にする。
そして、その奥、フォレストタイタンの心臓たる光の玉に____届かなかった。
「……!」
私の放った【紫電】はフォレストタイタンの胸どころか、その上半身を吹き飛ばした。
しかし、光の玉は無傷だ。
空中で寂しく浮遊する光の玉は、その周囲を半透明な殻で覆っていた。
その半透明な殻が【紫電】から光の玉を守ったのだ。
「……ダメだったか」
吹き飛ばされたフォレストタイタンの上半身はすぐさま再生する。
必殺の一撃を食らっても尚、そこには無傷の巨人が佇んでいた。
他の部位と違い、大事な部分はしっかりと守りを固めているようだ。
何事も、そんなに甘くは無いと言う訳だ。
「……どうしよう」
光の玉を破壊する事が、私達の勝利条件である事は分かった。
しかし、それを為すためには、単純に力が足りない。
ここから先は、奇策でどうにかなる訳でもなさそうだ。
光の玉を囲う殻を破壊する程の純粋な破壊力がなければ。
……もしかして、万事休すか?
「シロメ、危ない!」
「!?」
行き詰まりを感じ、呆然としていた私は、迫る巨人の拳に反応が遅れた。
回避行動を取ったものの、真っ直ぐな殴打を身に受け、宙へと投げ出されてしまう。
「ぐうッ!?」
地面に落ち、猛烈な痛みに襲われる。
幸い、打ちどころが良かったので、意識を失う事はなかったが、激痛で身体が動かせない。
「シロメ!」
ロッドが叫び、【怪力】のスキルを発動させて、私の元に駆け寄り、その身体を抱えた。
「大丈夫か、シロメ!?」
「……い、一応」
重傷はまぬがれているようだった。
「一時撤退だ!」
言うが早いか、ロッドは赤い光を身に纏い、私を抱えて森を駆けて行く。
「ちょ、ちょっと! 二人とも置いて行かないで!」
メリエもその後に続いた。




