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第27話「”英雄”ザビーネ」

 視線をぶつけ合うロッドとザビーネ。


 ロッドは今にも飛び掛からんばかりの気迫でザビーネを睨み、ザビーネは冷たく刺す様な眼光をロッドに向けている。


「……ロッドの母親って? え、あの人が?」


 聞き間違いだろうか。


 先程、ロッドは目の前のエルフの騎士____ザビーネを母親だと言った。


 ロッドは肯定するように頷き、


「ああ、あのクソババアは俺の母親だ」


 ロッドはザビーネからは目を離さず説明する。


「アイツ、ハーフエルフなんだ。俺はそのハーフエルフと人間の父親から産まれた人間の子供って訳よ」


 ロッドは人間だ。


 それは見ての通りなのだが……そう言えば、彼の両親の種族については何も聞かされていなかった。


 と言うか、ロッドは自身の両親に関する事をほとんど話してはくれなかった。


 まさか、ロッドの母親がハーフエルフだったとは。


「クソババアとは何ですか、ロッド」


「5000年も生きてりゃババアだろうが。そんで、クソでもあるから、合わせてクソババアだ」


「全く、貴方の知性の欠如には呆れるばかりです。私の血が分け与えられた息子とは到底思えません」


 ……5000年も生きている?


 ロッドの発言に思わずぎょっとする。


 ザビーネの容姿は若い女性のそれだったのだが……さすがは不老と名高いハーフエルフと言うべきか。


「貴方の事はもっと厳しくしつけておくべきでしたね。まさか、こんなバカな真似をしでかすなんて」


「これ以上どう厳しくしつけられたんだ、テメエはよお」


「……本当に、何でこんな子に育ったのでしょうか」


 ザビーネは溜息を吐き、懐から杖を取り出す。


 そして、何やらブツブツと呟き始め、


「吹き飛びなさい」


 私達に杖を向けるザビーネ。


 その瞬間、杖先から突風が生じ、私達に襲い掛かった。


 魔法だ。


「うわあ!?」


 為す術もなく、後方に吹き飛ばされる私達は、背後の森林へと投げ出される。


「……いたた……二人とも、大丈夫?」


「お、おうよ」


「うん……何とか」


 幸い、3人とも無事のようだった。


「ったく、あのクソババア……!」


 ロッドは怒りの表情を関所____ザビーネの方へと向ける。


「私の事をクソババアと呼ぶのは止めなさい」


 ロッドの言葉に応じるように、木々の隙間からザビーネが姿を現す。


 一見無表情なように見えて、その瞳には苛立ちの色が差していた。


「今度はテメエが吹き飛ぶ番だぜ!」


 ザビーネに手をかざし、【爆炎】を放つロッド。


 爆発と炎がザビーネに炸裂するが____


「その程度ですか」


「……!」


 土埃が舞う中、ザビーネの落ち着き払った声が響いて来る。


 私の視界に飛び込んで来たのは、巨大な水の球体に包まれた無傷のザビーネの姿だった。


「遺伝子に与えられただけの、スキルによる魔法など玩具のようなものです。厳しい鍛錬の末に習得した私の魔法に比べれば」


 水の球体の中で、ザビーネが杖を振るう。


 すると、水の球体は形を変え、大蛇のような造形となり____


「彼我の実力差を思い知りなさい」


 水の大蛇が私達に襲い掛かる。


 私は本能的に両手を前へと突き出し、


「……くっ!」


 水の大蛇が私達を飲み込む____しかし、その姿は徐々に崩壊し、やがて森の闇へと霧散した。


「……成る程、【魔法干渉】のスキルですか」


 衣服はびしょ濡れだが、水の大蛇から生還を果たす私達。


 私は自身の僅かに発光する両手を見つめる。


 無意識の内に私は【魔法干渉】のスキルを発動させ、水の大蛇を消滅させたのだ。


「【魔法干渉】のスキルを所有しているとなると、繊細な魔法は使えませんね」


 ザビーネは以前落ち着き払った様子で杖を振るう。


「ならば、やはり少々荒っぽく行かせて貰いましょうか」


 その言葉に呼応するように、地面から巨大ないばらがいくつも出現し、私達に襲い掛かる。


 巨大ないばらに対抗する私達だが____


「くっ!?」


 しつこく迫り来るいばらの群れに剣で応戦していたメリエは、次第にスタミナを切らし、その拘束を受けてしまう。


「くそッ! 離せ、クソババア!」


 ロッドも辛うじていばらに対処していたが、不意を突かれて簀巻きにされてしまった。


 悪足掻きの様に、拘束された状態で【爆炎】をザビーネに放つロッドだが、水の球体がザビーネを包み込んでそれを防いでしまう。


 駄目だ、敵う気がしない。


 ”英雄”ザビーネ……強さの格が違う。


 残された私は____


「一線を退いているとはいえ、私は”英雄”です」


 いばらの攻勢が一時的に止まった。


 私は静かにザビーネと対峙する事に。


「“英雄”とはヒト族との戦闘において輝かしい成果を残した騎士に与えられる称号。即ち、戦争において、多くのヒト族を殺した者の証です」


 ザビーネの瞳に宿る、底の見えない何かに私は思わず後退りする。


「多くの命をこの手にかけてきた____そんな私に、貴方達の様な子供が敵うとでも? 私は貴方達とは見ているもの、見えているものが違うのですよ」


 ザビーネは若干感情的な口調でそう吐き捨てた後、


「まあ、私の事などどうでも良いのですが」


 ザビーネは懐から何かを取り出し、私へと投げ寄越した。


 投げ寄越されたそれを、辛うじて受け止める私。


 それは、鞘に収まったダガーだった。


「それは我が友クロバがお守りとして身につけていたダガー。名は黒耀(こくよう)白牙(はくが)


 クロバ____母親のお守り?


 私は鞘からダガーを引き抜く。


 僅かな月光を反射して、白銀の刃が視界で輝いた。


 刃の根本には『黒耀白牙』の文字が彫られている。


「一つ、貴方に問います、シロメ」


 改まった様子のザビーネ。


 ダガーから視線を上げ、私はザビーネを見つめる。


「貴方は、ヒト族ですか、それとも魔族ですか?」


 見定めるようなザビーネの視線。


 思わず私は生唾を飲み込み、手元のダガーを握りしめた。


 私の答えは____


「私は半魔(ハーフ)です。そして、ヒト族として在りたいと思っています」


 己の素直な胸中を伝える。


 私はヒト族でもあり、魔族でもある。


 その上で、ヒト族として生きる事を自分の意志で選択したい。


 そう願っている。


「……ヒト族として在りたい、ですか」


 ザビーネはしばらくじっと私の事を見つめていた。


 そして____


「クロバは無念の死を遂げました。彼女を殺したのは人の薄汚い悪意であり、決して、彼女自身の罪によるものではありません」


 静かにザビーネは私に歩み寄る。


「シロメ、貴方はヒト族です。それを、悪意ある者が敵性魔族として仕立て上げ、クロバを____我が友を亡き者にしようとした」


 ザビーネは震える拳を握り締め、そう語る。


 ……ザビーネが何を思っているのかは分からないが。


 ____シロメ、貴方はヒト族です。


 ザビーネは確かにそう口にした。


 その言葉がどれ程、私の救いになる事か。


 ザビーネは私をヒト族として認めて____


「それを証明するためにも、シロメ、貴方はここで自害しなさい」


 続くザビーネの言葉に、私は思わず固まり、ダガーを地面に落としてしまう。

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