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第26話「関所」

 仮眠を終え、下水道から地上へと向かう私達3人。


 地上へと続く梯子の前に辿り着くと、ロッドが先行し、周囲の状況を確認する事に。


「よし、周囲に誰もいないからお前らも上がってこい!」


 地上からロッドの声が降って来た。


「分かった、今行く!」


 と、下水道の通路から私はロッドに返事をする。


 地上への出入り口____マンホールからは僅かな月明かりが差し込んでいた。


 私とメリエは見つめ合い、


「先に私が上がった方が良いよね」


「……? 別に構わないけど、なんで?」


「いや、だって____」


 私は身に纏う騎士の制服、そのスカートを軽く摘まんで、


「別に覗くつもりとかないけど、覗かれたら嫌でしょ?」


「え、ああ……いや、別にシロメに見られても構わない____のかしら?」


 と、メリエは難しい表情を浮かべた。


 メリエも私同様スカートをはいているので、先に地上に上がろうとした場合、後続の私にスカートの中を覗かれる可能性があった。


 メリエにとって、男子____つまり、私にスカートの中を覗かれるのは恥ずかしい事だと思う。


 勿論、私にメリエのスカートの中を覗く気などないが。


「うーん……シロメは男の子で……でも、シロメだし……」


 メリエはちらりと窺うような視線を私に向け、


「シロメは私のスカートの中……見たいと思う?」


「え?」


 突然、そのような事を尋ねられ、答えに困る私。


 スカートの中が見たいのかって……そうド直球に尋ねられても____


 黙っていると、メリエが「ねえ、どうなの?」と答えを急かしてくる。


 私は軽く唸ってから、


「……別に」


 そう小さく答えると、メリエは頬を膨らませ、


「……ちょっと、何よその言い方。”別に”って。もっと、何か違う言葉があるでしょ?」


 どうやら私の回答にご不満の様子だ。


 ……じゃあ、何て答えれば良かったんだ?


 そもそも、そんなおかしな質問をする方が悪い____と、思ったのだが、


「……ごめん」


 と、取り敢えず謝っておく。


 私の謝罪を受け、メリエは「まあ、別に気にしてないけど」と腕を組んでそっぽを向いた。


 うーん……怒らせてしまったようだ。


 乙女心は難しい。


「おい、何グダグダしてんだ! 早く上がってこい!」


「ご、ごめん! 今行くから!」


 焦れた様子のロッドの声に、私は地上へと続く梯子に手を掛け、急いで上っていく。


 地上で再集結を果たす私達3人。


「お前ら、何言い争ってたんだ?」


 先の話を蒸し返すロッドにメリエが、


「私のスカートの中、見たいのかどうか、シロメに聞いてたのよ」


「ん? 何だよ、お前、変態かよ」


「はあ!? 誰が変態ですって!?」


「いや、変態だろうがよ、どう考えても」


 喧嘩を始めるロッドとメリエ。


 しばらく様子を見守っていたが、これ以上はと思い、「二人とも、あんまり騒がない方が……」と仲介に入る。


「……ったく、あんまりシロメの事イジメんじゃねえぞ」


「うっさいわねえ」


 その言葉を最後に、二人はにらみ合いを止めた。


 ……この二人、いつも喧嘩してるなあ。


 こんな時でもお構いなしとは。


「じゃあ、関所に向かおうぜ」


 月明かりの元、私達は関所に向かう事に。


 関所は、ここから然程遠くない場所にある。


 2時間も歩けば、到着する事だろう。


 しばらく、何事もなく歩いていると、視界に巨大な壁が現れた。


 リリウミア・グレートウォール____リリウミアの国境だ。


「壁が見えて来たな」


 先行するロッドが後ろを振り返って私とメリエに言う。


「相変わらず、大きいわね」


 ずっと先の景色に目を細め、メリエが感想を漏らす。


 月明かりを遮り、影を作る巨大な壁は彼方へと続いている。


 この圧巻の景色を見ると、まるで巨大な牢獄に閉じ込められているような感覚に囚われてしまう。


 私は壁から重苦しい威圧を感じていた。


 ここから、お前を逃がさない、と。


 ……ビビるな、私。


 不安を振り払い、私は前へと進む。


「……ここからは慎重に行くぞ」


 いつしか、私達は壁面へと辿り着いていた。


 空を見上げると、天に向かって、どこまでも堅牢な壁が伸びている。


 これを越えるのは、少なくとも私達には不可能だろう。


 私達はこれから壁面に沿って関所まで移動し____どうにか、突破する。


 見つからずに、上手く通り抜けることが出来ればそれで良いが……恐らく、関所の警備はそれほど甘くはないだろう。


 戦闘は覚悟しなければならない。


 程なくして、関所がその姿を現す。


 関所の前には数人の騎士達が構えていた。


 暗くてよく見えないが、あの制服は……聖月騎士団だ。


 国境の警備は聖月騎士団が担当しているのか。てっきり、聖星騎士団の管轄かと思っていたのだが。


「さて、どうやって仕掛けるか」


 と、ロッドが関所を見つめ、呟く。


 辺りは森林地帯になっているため、木の陰に隠れている私達の姿は、今の所、騎士達からは見えない。


 奇襲にはもってこいの条件だ。


「ねえ、思ったんだけどさ、私とシロメだけなら普通に関所に入れることない?」


 メリエがふとそんなことを言う。


「だってほら、私達、騎士の格好してるし」


「俺はどうすんだよ」


「ロッドは無理だけどって話よ」


 メリエは関所の方を指差し、


「私達、関所の中がどんな感じになってるのか知らないでしょ? 一度潜り込んで、内部の様子を探った方が良いと思うのよ」


 メリエの提案にロッドは腕を組み、


「……確かに、関所の中がどうなってるのか、調べられるなら調べた方が良いよな」


 ロッドとメリエに意見を求めるように視線を向けられたので、私は、


「私も良い案だと思う」


 私達は関所の内部がどのようになっているのか知らない。


 騎士達が控える門の先にはどっしりとした建造物が続いており、簡単に向こう側まで抜けることが出来ない可能性もあった。


「私とメリエで偵察しよう」


 そうと決まると、すぐさま私とメリエは正規の道から関所に近付く事にする。


 ロッドは「無理はするなよ」と私達を見送った。


 なるべく自然体で、騎士達に近付く私達。


「どうかされましたか?」


 こちらの接近に気が付いた一人の騎士が声を掛けてくる。


「少しだけ関所の方に用事がありまして」


 と、メリエが歩み寄りながら応答する。


 騎士達の視線が私とメリエに集まる。


 今の所、私達が偽物の騎士だとはバレていない様子だ。


 私達は聖星騎士団の制服を身に纏っており、そのため、見覚えのない顔だとしても、所属する騎士団が違うと言う事で、特に警戒されることもないだろう。


 特に何事もなく騎士達をやり過ごす____かと、思いきや、


「……!?」


 突然、2匹の犬が騎士達の中から飛び出してくる。


「え……な、なに?」


 驚き固まる私とメリエの周りを、2匹の犬がぐるぐると駆け回り、ぴたりと止まったかと思うと、こちらに向かって吠え始めた。


 大型の軍用犬だ。


「すみませんが、貴方達には取り調べを受けて貰います」


 騎士達が顔色を変えて、私とメリエに詰め寄る。


 顔を見合わせる私達。


「……何故ですか?」


 と、身構えながら、私は騎士達に問う。


「ご存知かと思いますが、聖星騎士団から制服が2着ほど盗まれておりまして、その行方を探っている最中なのですよ」


 騎士は2匹の犬を指差し、


「犬に元の持ち主のにおいを覚えさせ、件の制服に反応を示すようにしつけてありましてね。先程、貴方達に反応を示したでしょ? つまり____」


「私達が制服を盗んだ犯人だとでも?」


「ええ、そして……そちらの白い髪の貴方は、バスティナ監獄を抜け出した脱獄囚でもある。違いますか?」


 どうやら、私達の正体に気が付いている様子だ。


 まさか、犬ににおいを覚えさせていたとは。


()ぜろ!」


 その時だ。


 ロッドの叫び声と共に、上空で爆発が起きた。


「……!?」


 爆風に震える夜空を見上げる一同。


 そして、驚き固まる騎士達の元に、赤い光を纏ったロッドが砲弾のように突っ込んでいく。


「食らいやがれッ!」


 【怪力】のスキルを発動させたロッドの突進を受け、騎士達は四方へと吹き飛ばされる。


 ロッドは私とメリエに、


「作戦変更だ! このまま一気に突っ切るぞ!」


「……ええ、分かったわ!」


「う、うん!」


 言うが早いか、メリエは剣を抜き放ち、立ち上がりかけていた騎士達の頭を、平らな剣身で叩いて気絶させた。


 私はと言うと、2匹の軍用犬に進路を阻まれたのだが、


「____退()け」


 睨みを利かせ、目前の犬達にそう命令する。


 ただ命令を発したのではない。私は【威嚇】のスキルを発動させていた。


 【威嚇】は対象に恐怖を与え、怯ませるスキルだ。


 その効果があったのか、犬達は警戒するような仕草を見せた後、夜の闇へと逃げるように去っていった。


 【威嚇】____ぶっつけ本番で使用したスキルだったが、上手く行ったようだ。


 脅威を退けた私達は、すぐさま関所へと____その巨大な門へと駆けて行く。


 しかし____


「……!」


 突如、地面から巨大ないばらが無数に出現し、私達の行く手を阻んだ。


「な、なんだこりゃ!?」


 後退りをしながら、ロッドが出現したいばらの壁に叫ぶ。


「……くそッ! こんなもの____吹き飛ばしてやる!」


 いばらに手をかざし、ロッドが【爆炎】のスキルを使用する。


 目の前で爆発が起き、いばらの壁は炎に包まれながら粉砕するが____次の瞬間には、また新たないばらが地面から出現し、私達の行く手を阻んだ。


「舐めやがって! もう一度!」


 その後、何度かロッドは【爆炎】を放つが、


「……だめだ、すぐに再生する」


 いばらの壁は健在だった。


 ……このいばらは一体?


「それが貴方の限界ですよ、ロッド」


 それは、上空から響いて来た声だった。


 一様に空を見上げる私達。


 そこに、夜空と月を背景に、一人の女性が浮遊していた。


「……と、飛んでる」


 私は上擦った声を発する。


 空に浮かぶその姿が余りにも神秘的で、強い畏怖を抱いてしまう。


 ……何者だろうか?


 動揺する私達の元に、女性はゆっくりと降下する。


 聖月騎士団の制服を身に纏ったその騎士は、長く尖った耳を持っていた____エルフだ。


「貴方がシロメですね」


 地面に降り立ったエルフの騎士が尋ねて来る。


 静かだが、威圧するようなその眼光に思わず私は素直に頷いてしまう。


「成る程、クロバの面影を感じます。貴方の容姿は母親譲りですね」


 こちらに近付いて来るエルフの騎士に、私は身構え、


「……貴方は何者ですか?」


 低い声でそう尋ねる。


 すると、答えたのはエルフの騎士ではなく、


「あの女、いや……あのクソババアは、聖月騎士団副団長、”英雄”ザビーネ・ヒルベルトだ」


 答えたのはロッドだった。


 その目は威嚇する様に、エルフの騎士____ザビーネを睨んでいた。


「……副団長……“英雄”……?」


「ああ、そして____」


 ロッドは憎々し気に、


「俺の母親でもある」

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