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第25話「下水道」

 私、ロッド、メリエの3人はすぐさま廃工場を後にする。


 廃工場の外周にも騎士達はいたが、数がまばらだったために何とか見つからずに通り抜ける事が出来た。


「こっちこっち」


 メリエが囁くようにそう言って、私とロッドを誘導する。


 そして、暗い路地に入ると、マンホールを見つけて、その蓋を力強く押し退けた。


 どうやら、下水道に潜るつもりのようだ。


「……うわ、くせーな、ここ」


 下水道に降り立った私達。ロッドが鼻をつまんでその臭気に不満を漏らす。


 暗くてじめじめとした空間だが、一応、あちこちに照明が点在している。おかげで、何も見えないと言うことはなかった。


 周囲は意外にも開放的だった。


 中央の水路を下水が流れている訳だが、その両脇の通路がそれなりに広かった。


「もう少し、歩きましょ」


 メリエの言葉に従い、私達は下水道を歩き始める。


 しばらく歩いていると、通路の脇に扉を発見した。


 ドアノブを回したが開かない。鍵がかかっているようだ。


「おい、二人とも離れてろ」


 ロッドがそう言うと、扉に向かって思い切り蹴りを入れる。


 派手な音と共に、扉が奥側へと倒れた。


 慎重に扉の先を覗く私達。


 扉の先は小部屋になっていた。


 ……見た所、管理室のような場所だろうか?


「____よし、誰もいねえな」


 部屋の中に入り、ロッドが深呼吸をする。


 小部屋の中は、下水の臭気から守られているようだった。


 私も室内の相対的に新鮮な空気に深呼吸を繰り返す。


「ふう……ここでなら、落ち着いて話し合いが出来るわね」


 倒された扉を元の位置に戻しつつ、メリエがそう告げる。


 扉は壊れたままだったが、どうにか部屋の出入り口を閉じる事に成功し____


「大勝利だったわね、私達」


 近くの箱の上に腰掛けるメリエ。


「いやあ、驚いたわよ。初めての実戦だったんだけど、私……無茶苦茶強くない? あんなに戦えたのね、私」


 と、メリエは自画自賛する。


 実際、その通りだったのだが。


「半信半疑だったけど、ロッドの言っていた通り、スキルの力って凄いのね」


「そりゃ、そんだけ高レベルの【剣術】のスキルがあればな」


 メリエが私の方に向き直り、


「驚いたと言えば、シロメもそうよ」


 メリエにじっと見つめられ、ドキリとする。


「あんなに動いてるシロメ、初めて見たわ。貴方、本当は凄く強いのね」


「……うん」


 私は小さく頷き、


「……ごめん、色々と……隠し事してて」


 罪悪感からか、声が小さくなる私。


 そんな私にメリエは快活な笑みを浮かべる。


「別に良いわよ。だって、そうするしかなかったんでしょ。仕方ない仕方ない」


「……メリエ」


 変わりないメリエの態度に私は安堵を覚える。


 メリエはそれから、少しだけ声のトーンを抑えて、


「ねえ……一応、確認なんだけど……シロメ、本当にインキュバス、なのよね?」


「……そうだよ……正確にはハーフインキュバス、かな」


「えーと……ちなみに、男の子……なのよね? 女の子じゃなくて? ……この情報、合ってる?」


「うん、男の子だよ」


 私が静かに肯定すると、メリエは若干震え声になり、


「……お、男の子、かあ……ふ、ふーん……うん、まあ……インキュバス、だもんね……」


 狼狽え気味のメリエ。


 私の種族よりも性別の方が気になっている様子だ。


 見た目と性別のチグハグさ。それが受け入れられないのだろうか。


 私は少しだけ、暗い調子で、


「……もしかして、気持ち悪いとか思ってる?」


「え? あ、いや、全然そんな事はなくて____その……なんて言うのかなあ……」


 言葉に迷っている様子のメリエに、ロッドが横から、


「男なのに自分より可愛いシロメに、女として敗北感を覚えてるんだろ……いたっ!?」


 やにわに立ち上がったメリエが目にも留まらぬ速さで、ロッドの頭を叩く。


「本当にデリカシーの無い奴ね!」


 メリエは頬を膨らませ、それから溜息を吐いた。


「……まあ、その通りなんだけど」


 再び、私の事をじっと見つめるメリエ。


「シロメみたいな可愛い女の子になれたらなあって……ずっと憧れてたんだけど……うーん……まさか、性別が____って、考えると、どうにも複雑な心境が」


「なんか、ごめん」


「あ、いや、本当に、全然気にしなくて良いんだけど……あはは」


 空笑いをするメリエ。


 ……なんだか、申し訳ない。


 私は何の気なしに、


「メリエの方が私なんかより断然可愛いよ」


 と、告げる。


 発言した後で、暗に自分も可愛いと言ってしまっているような感じになっている事に気が付き、バツが悪くて頭を掻く。


 私の言葉を受け、


「そんな、私が可愛いだなんて……えへへ」


 メリエが嬉しそうににんまりと笑う。


 一方のロッドは鼻で笑って、


「いや、そんなベタベタなお世辞に喜ぶな____いたっ!? こら、叩くな、メリエ!」


「アンタ、少しはシロメを見習いなさいよ! そんなんじゃモテないわよ!」


 またしても余計な一言を挟むロッド。


 ……うーん……本当に学ばないなあ……。


「はあ、全く……無神経な馬鹿の相手をするのは疲れるわね! この、お馬鹿ロッド」


 ぷりぷりと怒りながら、メリエは元の位置に腰を掛け直す。


 ロッドは叩かれた頭をさすりながら、


「……馬鹿はお前だろうがよ」


 溜息を吐き、ロッドはじっとメリエを見つめる。


 急に神妙な面持ちになり、


「リリウミアに盾突くような真似しやがって……マジで馬鹿な事したな、お前。……これでお前も反逆者だぞ」


「……何よ、それはアンタだって同じでしょうが」


「俺は別に良いんだよ。だけど、お前には失うもんがあるだろうが」


 しばらく、ロッドとメリエは睨み合いになり____


「今ならまだ、引き返せるかもだぜ」


 真剣な口調で口を開くロッド。


「騎士達の元に向かって、それで……俺達に脅されてたとか、操られてたとか、理由は何でも良い____謝ればそれで済むかも知れない。まだ、未成年だし、最悪の場合でも、そんなに厳しい処罰は与えられない筈だ」


 ロッドの言葉にメリエはぶすっとした表情を深めた。


「軽い気持ちでここにいるつもりはないわ。私だって、覚悟を決めて来たのよ。そのために色々と準備して来た訳だし。毎日、死ぬ気でランニングと筋トレしたのよ」


「……そう言えば、やたらと筋肉痛がとか言ってたな、お前。こっそり鍛えてたのか」


「この制服だって、頑張って手に入れたんだから。クリーニング屋の振りして、何とか調達したのよ」


 どうやら、メリエはメリエで私を助けようと頑張っていたようだ。


 思わず目頭が熱くなった。


 ロッドもメリエも、全てを知った後で、それでも私の事を親友だと思ってくれている。


「とにかく! 私、アンタたちに付いていくから! これはもう、決定事項なのよ!」


 そう力強く宣言するメリエ。


 その意志は固い。


 ロッドは深い溜息を吐いた。


「……全く、馬鹿メリエが……分かったよ」


 ロッドは観念したような口調で、


「俺達3人で、リリウミアを抜け出すぞ」


 決意を新たにそう宣言する。


 口では引き留めるようなことを言っていたが、メリエの参加を内心では嬉しく思っていることが、その表情から分かる。


 私だって、メリエが仲間に加わってくれて嬉しかった。


 ロッドの言葉に「分かれば良いのよ」とメリエが腕を組んで頷く。


「メリエも仲間に加わった事だし、取り敢えず、これからの行動の確認な」


 ロッドはそう前置き、


「これから夜までこの場所で身籠りだ。そんで、夜中になったら、関所に向かう。そこから、この国を脱出するんだ。国を抜けたその後はデントデリオンへと行く。そして、俺達は冒険者になる。分かったか、お前ら」


 ロッドの計画に私とメリエが頷く。


 ロッドは「よし」と満足げな声を発し、


「じゃあ、俺、時間まで寝るわ。ああ、ソファーはお前達で使って良いぞ」


 ロッドはそれだけ告げると、地面にあぐらをかいて、座ったまま寝始めた。


 せっかく譲ってもらったので、私とメリエはソファーに座る事に。


 部屋に置いてあった時計を見ると、正午を過ぎていた。


 ……お腹がすいてきた。


 私は干し肉を取り出し、それを半分に千切って、


「メリエ、半分食べる?」


 私はすすめるが、メリエは首を横に振り、


「貴重な食糧でしょ。私、お昼は食べたから、シロメだけで食べて」


「良いの?」


「良いって。シロメ、たくさん動いてお腹すいてるでしょ?」


 私は干し肉とメリエの顔を交互に見つめた後、結局、一人で干し肉を食べる事に決めた。


 私が干し肉を齧っていると____


「シロメ、カッコよかったわね」


「……? カッコいい?」


 突然そんな事をメリエに言われ、私はきょとんとする。


「さっきの戦いよ。戦うシロメの姿がカッコよかったって、そう思ってね。やっぱり、貴方、クロバさんの子供よね。しっかりと”剣聖”の血が流れてる」


 そう言った後で、メリエははっとなって、


「ごめんなさい。クロバさんの事……思い出させるような……」


「ううん、別に大丈夫だよ。平気平気」


 正直、大丈夫ではなかったが、申し訳なさそうにするメリエには、そう言うしかなかった。


 少しだけ気まずい空気が流れる。


 私はふと気になって、


「あの人達、ちゃんと生きてるかな」


「あの人達って?」


「私達が戦った騎士達だよ。乱戦だったから、死なないように加減する事が出来なくて」


 私の言葉にメリエは一瞬だけ目を丸くして、それからふっと微笑み、


「シロメは優しいのね」


 私の頭を優しくなでるメリエ。


「やっぱり、シロメはシロメね。敵に対しても優しくて。こんな優しい子がヒト族の敵な訳がないわ」


「……そんな大した事じゃ……だって、殺してたら、目覚めが悪くなるでしょ?」


「んー、まあ、確かにそうだけど……でも、やっぱり、貴方はシロメなんだなって……私の知っているシロメなんだなって……ちょっと安心したわ」


 メリエはにかっと笑って、


「多分、みんな生きてるわよ。一応、全員息はあった感じだったし。私も、ロッドも、シロメも、誰一人殺していないわ」


 気休めの可能性もあるが、メリエの言葉に私は安堵を覚える。


 戦いの中で、うっかり誰かを殺してしまっていたらと心配していたのだ。


「……それなら良かった」


 と、私は呟く様に言う。


 誰も殺していない。


 それは____とても、重要な事だった。


 誰かを(あや)めた瞬間、私はヒトではなくなる……そんな気がするのだ。


 私はヒトでいたい。


 魔族ではなく、ヒト族として、在りたい。


 それは、母親の望みでもある筈だ。


 ヒト族として、恥じる事なく生きる。


 それが、母親の望んだ”生きる”と言う事だと思う。


 ____それから、私とメリエはソファーに身を委ねながら、思い出話をした。


 人間の振りをしなければいけなかった事や、女の子の振りをしなければいけなかった事。


 苦労話をメリエに打ち明けていると、何故だが、それらが楽しい思い出のように思えて来て不思議だった。


「そう言えば、シロメ、教室の机を天井までぶん投げた事があったわよね」


「……え? ああ、大きな蜘蛛が机の中から出て来て驚いた時だね」


「そうそう、あの時は、火事場の馬鹿力ってあるものなのねって思ってたけど、今考えると、アレってシロメの素の力が出ちゃった瞬間だったのよね」


「あの時は内心で凄く焦ってたな。どうやって誤魔化そうか迷った結果、気絶した振りをしたんだっけ。力を振り絞り過ぎて、倒れたって感じで」


 そんな調子で話をしている内に、私もメリエも眠気に襲われ、いつの間にかソファーで眠りに就いていた。


 そして、目を覚ました時、時計の針は丁度0時を示していた。

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