第23話「廃工場の襲撃」
周囲が明るくなって来た。
私は目を覚まし、上体を起こす。
いつの間にか眠りに落ち、朝がやって来たのだ。
いや、明るさの具合から、正午に近いのかも知れない。
就寝時間が遅かったので、起床時間も遅くなるはずだ。
部屋内を見回す私。
ロッドはまだ眠っていた。
……意外と寝相が良い。いびきもかいていないし。
「……ロッド、起きてる?」
一応声を掛けてみる。
変わらず、寝息を立てているロッド。
起こさない方が良いだろうか?
私は毛布を頭から被り、立ち上がる。
仮眠室から抜け出してみようか?
ちょっとした工場見学だ。
扉を開け、廊下に出る。
……死んだように静かな場所だ。
身体をほぐしつつ散歩をする。
「……リリウミアを抜け出す、か」
呟き、私は思考する。
リリウミアは城壁に囲まれた国だ。
リリウミアを囲う城壁はリリウミア・グレートウォールなどと呼ばれており、山の様な高さを誇る。
その上、壁材にミスリル合金が使用されているらしい。
つまり、リリウミア・グレートウォールを越える事も、破壊する事も困難。
リリウミアを抜け出すためには、関所を正面から突破するしかない。
少なくとも、私にはそれ以外の方法が思い付かなかった。
「……関所を奇襲して、押し通る」
戦闘を避ける事は出来ないか?
「……”催眠術”の能力を上手く使えば」
今の私では、”催眠術”をかける事が出来る相手は1人が限界だ。
頑張れば2人ぐらいは行けそうだが……。
「どちらにしろ、関所を守る騎士全員に”催眠術”は使えない」
戦闘を避けることが出来るのであれば、それに越したことは無いが……厳しいか。
私があれこれ考えていると____
「……?」
ふと、音を耳にする。
それは、静かだが……幾つもの足音が重なったもの。
「……!」
はっとなる私。
ただの気のせいかも知れない。
この状況で、過敏になっているだけなのかも知れない。
だが、私は気配を感じ取っていた。
私達を追い詰める者達の気配を。
息を殺し、私は忍び足で歩く。
私は廃工場の出入り口へとゆっくりとにじり寄っていた。
そして____
「……!?」
私は目にする____廃工場を包囲する騎士達の姿を。
「……聖星騎士団」
白地に黄色いラインの入った制服が確認できた。
聖星騎士団だ。
「……そんな、どうして」
偶然とは思えない。彼女達は、私達の位置を特定し、捕える準備をしていた。
……何故、この場所が……私達の潜伏先がバレたのだ?
“催眠術”による捜査撹乱も行ったのに。
「……いや、今は」
今は、この状況をどう切り抜けるのかが重要だ。
潜伏先がバレた理由を考えるのは後回しにする。
取り敢えず、仮眠室へと引き返さなければ。
「……ロッド! 起きて!」
「……んあ!?」
仮眠室の扉を開け、ロッドに詰め寄る。
ロッドは間抜けな声と共に飛び起き、眠気眼をこすった。
「……どうしたんだよ、シロメ……そんな、慌てた顔し____」
「工場が騎士達に囲まれてる!」
私がそう伝えると、ロッドは目を丸くして、
「今、何て言った?」
「だから、工場が騎士達に囲まれてるんだよ!」
「え? な、なんだと!?」
素っ頓狂な声を発するロッド。
しばらく、その場で謎のステップを踏んでいたロッドは、
「と、取り敢えず、落ち着け、シロメ!」
「うん、ロッドもね」
「お、おう」
ロッドは深呼吸をして、
「さっき、囲まれてるって言ったよな……騎士達、まだこの工場内には入って来ていないのか?」
「うん……まだ、突撃命令が出ていないんだと思う」
ロッドは部屋の扉に手を掛け、
「そうだな……取り敢えず……様子を見に行くか」
私が無言で頷くと、ロッドは忍び足で廊下へと出る。
2人そろって廃工場の出入り口へとたどり着くと、
「……くそっ……マジでいやがるじゃねえか」
ロッドが舌打ちをする。
苦々しい表情を浮かべ、イライラとした様子で騎士達を観察し始めるロッド。
私は小声で、
「……どうしよう、ロッド」
尋ねる私にロッドは低く唸ってから、
「……戦いは避けられねえけど____」
ロッドが私をちらりと見遣る。
「この真っ昼間に、屋外でやり合うのはなあ。さすがに俺達、と言うか、シロメに不利過ぎる」
確かに、この日光の下では、私はろくに戦う事も出来ないだろう。
毛布を頭から被り、どうにか日よけはしているものの、激しく動くとなると話は変わって来る。
「だとすると、一番堅実なのは、工場内に侵入してきた騎士達を全滅させて、それからずらかる作戦だ」
そう提案するロッド。
騎士達を全滅させる、か。
困難だが、それが現実的な作戦になるのだろう。
正直、この晴れ空の下で、騎士達の追跡を振り切る自信はない。
この場にいる騎士達を全員片付け、安全を確保した後に移動を開始する____それが、最も堅実なように思えた。
「……相手は聖星騎士団だけかな?」
「ああ……見た感じそうだな」
ロッドは慎重に外の様子を覗き見て答える。
それは不幸中の幸いだ。
相手が聖星騎士団だけであるのならば、私達にも十分勝機はある。
「奥に隠れるぞ、シロメ」
私に手招きし、道を引き返すロッド。
待ち伏せによる不意打ちを行うつもりだ。
私達は廃材で散らかった大部屋に移動し、適当な物陰に隠れる。
「シロメ、スキルは使えるか?」
暗がりの中でロッドが尋ねて来る。
「いくつか有用なものがあると思うから、確認しておけ」
ロッドの忠告に私は頷き、近くに落ちていたガラスの破片を拾い上げ、自身の顔と向き合う。
そして、【スキル鑑定】のスキルを発動させた。
視界に文字列が映し出される。
◇
____対象者のスキル所有情報____
____【スキルドレイン(31)】、【蒸気噴射(16)】、【避雷(37)】、【自然治癒(12)】、【剣術(15)】、【威嚇(5)】、【スキル鑑定(43)】、【魔法干渉(11)】、【紫電(7)】____
◇
私はじっくりと所有スキルを確認する。
「……【スキルドレイン】、【蒸気噴射】、【避雷】、【自然治癒】、【剣術】、【威嚇】、【スキル鑑定】、【魔法干渉】、【紫電】」
声に出して、所有スキルを暗記する私。
いざと言う時に、使えるようにしなければ。
と____
「……! おい、聞こえたか、シロメ」
「……うん」
音が聞こえた。
こことは違う場所____部屋の扉が開かれる音が。
騎士達が工場内に入り込み、私達の捜索を始めたようだ。
息を潜める私達。
心臓が早鐘を打ち始める。
騎士達の足音に耳を澄ませる中……ついに、大部屋の扉が開け放たれた。
騎士達が部屋中を調べ始める。
いずれはこの物陰にも捜査の手が及ぶ事だろう。
……どのタイミングで仕掛ける?
迷い、機会を窺っていると、騎士の姿が視界に現れたので、
「____はあッ」
手の平を突き出し、【紫電】のスキルを発動させる。
紫色の雷光が騎士へと迸り、その身体を帯電させながら吹き飛ばした。
一拍、間があり____
「ホシがいたぞ!」
騎士の声が廃工場内に響く。
それと同時に、私とロッドは物陰から飛び出し、周囲の状況を把握する。
大部屋には、合計で5人の騎士が立っている。
私はその内の一人に【紫電】を放った。
紫色の雷光を受け、吹き飛ばされる騎士。
「……!? 気を付けろ! ホシは魔法を使うぞ!」
瞬く間に2人の騎士を戦闘不能に追い込んだ私に、騎士達は警戒を強めた様子だ。
剣を抜き放ち、攻勢に出る騎士達。
再び、【紫電】を放つ私だが____
「効かんッ!」
「……!?」
騎士の一人が躍り出て、私の【紫電】を弾く。
意表を突かれた私に、4人の騎士達が殺到するが____
「俺もいるぜッ!」
赤い光を身体に纏ったロッドが、真横から騎士達に突っ込んでいく。
【怪力】のスキルを発動させているのだろう。砲弾の様な速度で駆けるロッドは、4人の騎士を紙吹雪のように吹き飛ばした。
「いたぞ! こっちだ!」
大部屋の騎士達を一掃した私達だが、すぐさま次の集団が雪崩れ込んでくる。
「……おいおい、マジかよ」
冷や汗をかくロッド。
騎士達は次々と大部屋の中に入り込んできており____その数、およそ20人。
その上____
「……聖日騎士団」
白地に赤いラインの入った制服が確認できる。集団の中に、5人の聖日騎士団の騎士達が混じっていた。
聖日騎士団____母親も所属していた、魔族との戦闘に特化した騎士団だ。
聖星騎士団とは違い、戦闘のプロフェッショナルだ。
「……ねえ、どうする、ロッド?」
私が尋ねると、ロッドは低い唸り声を発し、
「……全員が聖日騎士団じゃないだけマシだ……やるしかねえ!」
どうやら、戦うつもりのようだ。
……ならば、私も戦うより他ない。
苦しい状況だが、切り抜けられない事もない……と、思う。
正直、聖日騎士団の騎士達の戦力が未知数なので何とも言えないが。
「……よし……やろう、ロッド!」
決死の覚悟を決め、騎士達に向き直る私。
その時、
「あがっ!?」
「ぐっ!」
「がはっ!?」
それは、騎士達から上がった悲鳴だった。
「な、何をしている、貴様____ぶべッ!?」
突如、狂乱状態に陥る騎士団。
騒ぎと混乱の中、騎士達が次々と倒れていく。
……一体、何が起きている?
その騒ぎに、こちらまで困惑するが____察するに、どうやら一人の騎士が、仲間の騎士達に襲い掛かっているようだった。
「……何が起きてるの?」
ロッドに向き直り、思わず尋ねるが、
「え……お前の仕業じゃないのか?」
「いや、違う……けど……」
ロッドも私同様、困惑している様子だった。
「……じゃあ、一体____あ、おい、アレを見ろ、シロメ!」
再び、騎士達に向き直ったロッドが何かに気が付いたようだ。
「……メリエだ!」
と、ロッドは親友の名前を叫ぶ。
……メリエ?
ロッドの言葉に、私は騎士達を見遣る。
そして、その中に____聖星騎士団の制服を身に纏った親友の姿がある事に気が付く。
金色の長い髪に、気の強そうな顔立ちの少女。
間違いない。
メリエが剣を手に、騎士達に襲い掛かっていた。




