第21話「スキルドレイン」
夜のリリウミアを歩き、やがて私とロッドは廃工場の前に到着する。
ロッドが秘密基地と称している場所だ。
私達はひとまず、この場所に身を隠す。
「じゃあ、中に入ろうぜ。俺の秘密基地にご招待だ」
廃工場の敷地内に入る。
やや古びた扉をくぐり、建物の中へ。
中は老朽化が進んでいるとは言え、それなりに綺麗なように思えた。
暗い所為で汚さが目立たないだけなのかも知れないが。
「ここ、元は何の工場なんだろう?」
「良く知らんが、魔道具の組み立て工場って聞いたぞ。あれ、食品工場だっけ? いや、アパレル工場だっけか? まあ、何でも良いか」
工場内からは既に設備が撤去された後だったので、元はどのような物を製造していたのか分からないようになっていた。
製造業の種類によっては、工場内に危険物を保管している場合もあるらしいが、この廃工場にはその手の代物はないように思えた。
「今夜はここで寝泊まりだ」
工場内の一室に案内される。
備え付けのベッドが数台ある部屋だった。
「ここは仮眠室だ。ベッドとか使えるぜ。だいぶ洗ってないだろうし、多少汚いと思うけど、床で寝るよりはマシだろ」
ロッドは何やら引き出しの中を探り、
「ほれ、持っとけこれ」
ロッドに干し肉を手渡される。
「貴重な食料だ。大事に食えよ」
私は干し肉を凝視し、
「……大丈夫、これ? ここに放置されてたやつでしょ」
「安心しな。俺がおやつとして持ち込んだ新鮮な肉だ」
新鮮な肉って。干し肉ですけど。
まあ、ロッドが持ち込んだものであるのならば、それ程日は経っていないだろうし、食べても問題はないだろう。
念のため干し肉の状態を確認していると、
「おい、シロメ、どうしたんだよ、それ」
「え?」
ロッドが驚いた顔で私の事を見つめていた。
それとは一体何の事だろうか?
「どうしたの、ロッド?」
「いや、今、何となく【スキル鑑定】を使って、お前のスキルを確認してたんだけど……お前、所有スキルが無茶苦茶増えてて」
「所有スキルが増えてる?」
「前に言ったことがあるよな。お前には判別不可能な謎のスキルが1つあるって。それに加え、幾つかのスキルがお前に追加されてるんだ」
ロッドは指摘するが、私は首を傾げるのみだった。
所有スキルが増えてるとは?
そんな事、あり得ない筈だが。
ヒト族の中には生まれつきスキルと呼ばれる特別な力を持つ者が存在する。
スキルの所有は先天的なもので、それを後天的に取得するなど例がない。
「スキルが追加されてるって……具体的にはどんなスキルなの?」
「……そうだな、えーと」
尋ねると、ロッドが目を細めて、
「【蒸気噴射】、【避雷】、【自然治癒】、【剣術】、【威嚇】、【スキル鑑定】、【魔法干渉】、【紫電】____あと、判別不可能な謎のスキル。合計9つのスキルをお前は所有している」
「……え、9つも? どうなってるの?」
「それは俺が聞きてえよ」
信じられない数の所有スキルだ。
ロッドは【怪力】、【爆炎】、【スキル鑑定】の合計で3つのスキルを所有しているが、これでもかなり多い方のスキル所有数に当たる。
確認されている最多スキル所有数は6つなので、私はその記録を塗り替えた事になるのだが。
……一体、何がどうなっているんだ?
「ロッド、さっき私が所有しているスキルの中に【スキル鑑定】を挙げてたよね?」
「おう、そうだが」
ならば____
私は窓ガラスに近付き、そこにうっすらと映る自分自身の姿と向き合う。
ロッドの言う通り、私が【スキル鑑定】のスキルを所持しているのならば____
「……!」
見えた。
意識を集中させると、私の視界に、文字列が映し出される。
◇
____対象者のスキル所有情報____
____【スキルドレイン(31)】、【蒸気噴射(16)】、【避雷(37)】、【自然治癒(12)】、【剣術(15)】、【威嚇(5)】、【スキル鑑定(43)】、【魔法干渉(11)】、【紫電(7)】____
◇
一つ一つ、映し出された文字を確認する私。
スキル名の横に表示されている数字は、恐らくはスキルレベルを表しているのだろう。
スキルは確かに合計で9つ存在する。
そして、気になったのが、
「……【スキルドレイン】」
私の記憶が正しければ、ロッドが名前を挙げなかったスキルがこれだ。
と、言う事は、彼の言っていた判別不可能な謎のスキルの正体はこの【スキルドレイン】になるのだろう。
【スキルドレイン】____私の知識が浅い所為なのか、聞いた事もないスキルだ。
「ロッド、今【スキル鑑定】のスキルを使ったんだけど」
私はロッドに向き直り、
「【スキルドレイン】って聞いた事もないスキルがあって……多分、これがロッドの言っていた判別不可能な謎のスキルの正体だと思うんだけど、何か知ってる?」
「【スキルドレイン】だと? ……なんじゃそりゃ?」
ロッドは首を傾げる。
しばらく考え込んでいたが、
「シロメ、スキルの説明って見れないのか?」
「スキルの説明?」
「お前の【スキル鑑定】のレベル、そこそこ高いし、詳しい説明とか見れるんじゃねえのか?」
スキルの説明が見れる?
試してみるか。
私は再び窓ガラスに近付き、自身の姿と向き合う。
すると、文字列が映し出される。
◇
____【スキルドレイン(31)】の情報____
____”吸精”の能力の使用時に、対象者のスキルを奪い取る事が出来る。
◇
【スキルドレイン】の説明に目を通す私。
成る程。
どうやら、私のスキルが増えた事に対する謎が解けたようだ。
「【スキルドレイン】____”吸精”の能力の使用時に、対象者のスキルを奪う事が出来るスキル、だってさ」
私の言葉にロッドは目を丸くして、
「なんだそのスキル……って事は、アレか、お前のスキルが増えてるのって____あの騎士達から奪ったからなのか」
「多分、そうだと思う」
私は騎士達との戦闘を思い出し、
「確か、騎士の一人、リーダーっぽい人が【紫電】のスキルを使ってたと思うんだけど、私、その人に”吸精”を使って……それで、【紫電】のスキルが私の所有スキルの中にあるんだと思う」
リーダー格らしき騎士が、紫色の雷光を私に放っていたが、アレは【紫電】のスキルによるものだったのだろう。
私が”吸精”の能力を使用した事で、そのスキルを奪い取ったのだと思われる。
そう言えば、騎士の放った紫色の雷光を私は弾いていたが、今その謎も解けた。
いつの間にか奪っていた【避雷】のスキルが発動していたのだ。
どの騎士から奪ったものなのかは不明だが。
「やべえスキルじゃん、それ。だって、そのスキルがあれば、所有スキルを増やし放題だろ」
……確かに。
その気になれば、いくらでも所有スキルを増やす事が出来る。
【スキルドレイン】、これはかなり強力なスキルなのではないか。
「スキルを奪うって事は、その【スキルドレイン】を使われた相手は、所有スキルを失う事になるんだよな?」
「そうだと思う」
頷く私から、ロッドがやや距離を取り、
「お前、絶対に俺に使うなよ、それ」
ロッドは私を警戒している。
俺からスキルを奪うなよと、目が訴えかけていた。
さらに言えば、私との接触すらも恐れているようだった。
……気持ちは分からなくもないが、そんな態度を取られると少しだけ傷付く。
私は頬を膨らませて、
「えい」
「うわあッ!?」
ロッドの首筋を不意打ちで掴む。
すると、ロッドは素っ頓狂な声を上げた。
そして、
「馬鹿野郎!」
「いたっ」
頭を軽く叩かれる私。
「心臓に悪いだろうが!」
「……ロッドが意地悪するからだよ」
「意地悪してんのはお前の方だろうが、この野郎」
そう言って、ロッドが私の頬を人差し指でぐりぐりしてくる。
私は叩かれた自身の頭を押さえ、
「ロッドに初めてぶたれたかも」
「……ん? おお、悪い、ついやっちまった。すまん、シロメ」
「大丈夫、全然痛くなかったし、むしろ新鮮な気分」
正直、悪い気はしなかったし、嬉しくすらあった。
私とロッドは親友同士だったが、ロッドはいつも私の事を心配し、遠慮しているような節があった。
私が性別を女性と偽り、身体が弱いと嘘を吐いていたからだ。
だから、この手のコミュニケーションは割と憧れでもあった。
「こう言う粗野な遣り取り、嫌いじゃないよ」
私の言葉にロッドは一瞬だけきょとんとした表情を浮かべ、
「まあ、男同士だしな」
急に肩を組んでくるロッド。
「そうだな、これからは同性として、遠慮なく絡ませて貰うぜ。つーか、あれだな、お前が男って事は、俺にも男友達が出来てたって事だよな」
「ロッド、男子から嫌われてて、男友達が出来た事ないもんね。私を除いて」
「うるせえ」
「女友達もメリエしかいないけど」
「余計なお世話だ」
喧嘩っ早いロッドは、いつも同年代の男子達と揉め事を起こしていて、同性の友達を作ったことがなかった。
かと言って、女子に好かれていた訳でもないので、友達は私とメリエだけと言う状況だったのだ。
まあ……友達の数については、私も人の事言えないけど。
私も友達と呼べるのはロッドかメリエくらいなものだった。
正体を隠す都合上、交友を控えていたからだ。
そう言えば、私とロッドはどうやって友達になったのだろうか?
確か____お前、いつも一人でいるよな的な事をロッドに言われて、そこから何だかんだで仲良くなったような記憶がある。
そんな軽いノリから始まった私とロッドの交友関係だが……。
まさか、こうして命を預けるような仲になるとは。
人と人との繋がりとは分からないものだ。




