第20話「催眠術を使う」
路地裏を抜け出し、私とロッドは夜道を進む。
「あ、確認なんだけどさ」
私はふと思い付いて、
「次、騎士に呼び止められる様なことがあったらどうする? 逃げる? それとも、戦う?」
私の質問にロッドは、
「うーん、状況と数にもよるなあ。その時々で判断しねえと。あ、ただし、聖星騎士団以外の騎士は相手にしない方がいいな。出遭う事があったら、そん時は一目散に逃げねえと」
ロッドは戒めるように、
「さっきの騎士達との戦い。俺達が勝てたのは、相手が聖星騎士団だったからだ。多分、聖日騎士団か聖月騎士団が相手だったらああは行かない」
「まあ、そうだよね」
「俺達は強い。だけど、あんま調子乗ってると、痛い目みるから気を付けねえとな」
私達が先程戦った聖星騎士団は、いわば警察組織で、戦闘能力よりも捜査能力に優れた者達の集まりだった。
人によっては、ほとんどデスクワークしかしない騎士もいると聞く。
一方で、聖日騎士団と聖月騎士団は、ごりごりの戦闘集団だ。
聖日騎士団は魔族との戦闘に特化した組織で、聖月騎士団はヒト族との戦闘に特化した組織。
もし、戦闘のプロである彼女達に大勢で囲まれたら、私達に勝機はないだろう。
その場合、逃亡しか選択肢はない。
「おい、シロメ、騎士だ」
と、その時、ロッドが前方で騎士の姿を発見し、私に注意を促す。
人数は1人。白地に黄色いラインの入った制服____聖星騎士団だ。
恐らく、夜間パトロールの騎士で、私達を捜索している訳ではなさそうだった。
近くの物陰に身を隠す私達。
そのまま騎士が通り過ぎるのを待っていたのだが____
「そこ、何故そのような物陰に身を隠しているのですか」
騎士が立ち止まり、こちらに声を掛けてくる。
……しまった、見つかったか。
「私には【気配察知】のスキルがあります。なので、そこで身を隠していても、私は誤魔化せませんよ」
どうやら、”見つかった”のではなく、”察知された”ようだ。
ロッドが小声で、
「どうする、奇襲を掛けるか?」
その問い掛けに、
「……ちょっと待って……試したいことがあるから」
「試したいこと?」
私は頷き、ロッドの返事を待たずに騎士の前に姿を現す。
私の姿を目に留めた騎士は、こちらの身に付けている囚人服に気が付くと、
「……ん? その格好……貴方、まさか、先程連絡の入った脱獄____」
私は騎士との距離を詰め、その瞳を覗き込み、
「バスティナ監獄を脱獄した囚人は北の方角に逃げていきましたよ」
”催眠術”の能力を使用し、そう騎士に告げる。
すると____
「……脱獄囚は北の方に逃げたのですが?」
一瞬だけ間があり、騎士が尋ね返す。
「はい、貴方は今すぐに騎士団本部に帰還し、脱獄囚が北の方角に逃亡した旨を報告しなければなりません」
「……報告しなければならない」
私の言葉を復唱した騎士は、
「ご協力感謝します。今直ぐ、騎士団本部に報告してきます」
そう言い残すと、騎士は颯爽と私の前から去っていった。
一人取り残される私。
しばらくすると、ロッドが姿を現し、
「おい、何をしたんだ、シロメ」
「”催眠術”の能力を使ったんだ」
私は騎士が去っていった方角を指差し、
「あの騎士に、脱獄囚、つまり私が北の方角に逃げていったって思い込ませたの。そして、それを騎士団本部に報告するように刷り込ませた」
北の方角は私達の目的地とは全く別の方向だった。
つまり、あの騎士は誤った情報を仲間達に広めることになる。
「”催眠術”の効果は最長で12時間ぐらい継続する。例え、”催眠術”が解けて、あの騎士が違和感に気が付くような事があったとしても、既に誤情報が広まった後になると思う」
今からおよそ12時間後、あの騎士は正気に戻り、己のおかしな認識に気が付く。
脱獄囚らしき怪しい人物が、脱獄囚は北の方角に逃げたなどと宣い、その情報をいとも容易く信じ、上に報告した自分の馬鹿げた行動を不思議に思う事だろう。
そして、私に化かされたと理解する。
だが、誤情報は広まり切った後で、訂正した所でどうにもならない。
私の説明にロッドは、
「すげえ! さすがだぜ、シロメ! 強い、賢い、可愛い! 三拍子揃って完璧じゃねえか!」
「う、うん……えへへ」
肩を組み、私を褒めちぎるロッド。
……ところで、”可愛い”は余計ではないか?
でも、私は満更でもなかった。
「お前、マジで頼もしいのな。病弱天使シロメちゃんとか思っていた俺は何だったんだよ」
……本当に何なの、そのあだ名は?
「これで騎士団の目が違う場所に向いてくれるわけだし、俺達は安心して身を潜める事が出来るって訳か」
ロッドは再び前を歩き出す。
私はその後に続いた。




