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第19話「インキュバスの能力」

 私とロッドの姿は再び路地裏にあった。


 ”吸精”の能力を使い過ぎた所為で、気持ちが悪くなっていた私だが、しばらく身を隠して休憩している内にだいぶ気分も優れて来た。


「……ふう……ようやく、落ち着いてきたかも」


 木箱の上で横になっていた私は上体を起こして、ロッドにそう告げる。


「もう平気なのか?」


「うん、大丈夫」


 私を心配そうに見つめるロッド。


 しかし、私が地面に降り立ち、体調を確認するようにぴょこぴょこと飛び跳ね始めると、安心した表情を浮かべる。


「……シロメ、つーか、お前さあ」


 ロッドが肩を組んでくる。


「お前、強すぎだろ。何だよ、あの強さ。俺より全然戦えるじゃねえかよ。アレでよく今まで、病弱だって嘘吐けたな」


 ロッドに頬をぐりぐりとされる私。


「……うん、まあ……でも、ロッドより戦えるは言い過ぎだよ。ロッドの方が全然強いと思う」


「いやいや、そんな事ねえだろ。お前、タックルで数人の騎士達を一気に吹き飛ばしてたよな。どんだけ馬鹿力なんだよ」


「あー……あれは、”吸精”の能力で生命力を奪ったおかげで、一時的に身体能力が上がってただけで……素の力だと、ロッドの方が上だよ」


 謙遜ではなく、事実、素の身体能力はロッドの方が上だ。


 私の身体能力も人間を基準として見れば上の方に位置するが、ロッドはもう一段か、二段ぐらい上の方に位置する。


 ロッドはじっと私の事を見つめて、


「シロメ、ぶっちゃけ、お前ってどれくらい強いんだ? いや、何が出来るんだ、お前は。さっきも、なんか妙な力使ってたけど。えーと……”吸精”だっけか……?」


「私のインキュバスの能力について知りたいの?」


「そうそう。今後のために正確にお前の力を把握しておきたい」


 確かに、仲間同士で手の内を共有するのは得策だろう。


 私は咳払いをして、


「インキュバスには”魅了”、”催淫”、”吸精”、”擬態”、”催眠術”、”支配”の能力が備わっているとされているんだけど……私が使えるのは”吸精”、”擬態”、”催眠術”の3つだけ。実を言うと、”吸精”もさっきまで使い方が分からなくて、あの土壇場で急に能力が目覚めたって感じだったの」


 通説では、魔族は生まれた時点で、その種族の全ての能力を使用する事が出来るとされていたが、私の場合、”擬態”と”催眠術”以外の能力が使えない状態だった。


「”吸精”と”擬態”と”催眠術”、か……それって、具体的にはどんなことが出来るんだ?」


「うーん、とね……まず、”擬態”なんだけど____」


 私は自身の白くて長い後ろ髪を掴み、


「私が”擬態”で出来るのは、髪の長さを変えたり、身体のラインを弄ったりすることぐらいかな」


 私は”擬態”の能力を使い、自身の髪を短くしたり、長くしたりした。


 ロッドが「おお、すげえ!」と目をキラキラとさせる。


「この能力のおかげで、一時的に完全に女の子の身体になれるから、今まで他の人に裸を見られるような機会があっても、性別を誤魔化せたの」


 サキュバスやインキュバスの個体によっては、”擬態”により全く別の姿、例えば犬や猫などの動物の姿になる事も出来ると聞くが、私は全くその域には達していない。


「シロメ、お前、身体のラインが弄れるって言ったよな?」


「うん、そうだけど」


「じゃあ、あれか、ボインボインになる事も出来るのか!?」


「ボ、ボイン……?」


「巨乳だよ巨乳! 巨乳になれるのかって聞いてんだよ!」


 ロッドが自身の胸の前で両手を上下させる。


 私は若干引き気味に、


「う、うん……まあ、可能だと思うけど……」


「マジかよ! じゃあ、やってくれ!」


「え、あ、うん」


 ロッドの圧におされ、私は自身の胸部を膨らませた。


「うお! すげえ! なあ、シロメ、触って____」


「ダメだよ」


 私はすぐさま元の姿に戻った。


 ロッドは残念そうにしていた。


 気を取り直して____


「……で、”催眠術”の能力なんだけど、これは……そうだね……」


 私はロッドに2本の指を立て、


「ロッド、これ、何本に見える?」


「……何本って……2本じゃねえの?」


 私は”催眠術”の能力を使用し、


「違うよ、3本だよ」


 私は2本の指を立てたまま告げる。


 すると____


「ん……あ、ああ……確かに3本だな(、、、、、、、)……あれ、おかしいな……さっき2本だって思ったのに____」


 私が”催眠術”の能力を解除すると、


「……! あ、いや、2本だろ、それ! あ、あれえ……? やべえ、頭がおかしくなってきた!」


「これが”催眠術”の能力。何かを思い込ませる力だよ」


 私は2本の指をロッドに示し、“催眠術”の能力でそれを3本だと思い込ませたのだ。


「で、最後に“吸精”の能力。正直、さっき目覚めたばかりで、詳しい部分は私もよく分かっていないんだけど、これは生命力を奪う力になる」


「触れるだけで騎士達を気絶させてたのは、その能力を使ってたんだな」


 私は頷き、


「奪った生命力で身体能力を劇的に向上させられるみたい。だけど、使用には限界があるっぽくて、使い過ぎると気持ちが悪くなる」


 ”吸精”は強力な能力だが、使用には注意が必要だ。


 恐らく、5人程度の生命力を奪った時点で、中毒症状が出る。


「成る程なあ」


 ロッドは腕を組み、


「ところで、シロメ、土壇場で”吸精”の能力に目覚めたって言ったよな」


「うん」


「他の能力はどうだ? その3つの能力以外にも、なんか目覚めたりとかしねえのか?」


「うーん……どうだろう……分かんないや」


 可能性はゼロではないだろうが。


「今まで、ハーフインキュバスだって事、隠さなきゃいけなかったから、能力について、色々と試したことがなかったんだよね」


 本来であれば、他の能力も使用したり、今扱える能力についてもより高度な使い方が出来たのかも知れないが、能力の使用を控えていたために、私はインキュバスとして未熟な状態に陥っているのかも知れない。


「よし、取り敢えず、お前の能力については把握した」


 ロッドは私の肩を叩き、


「もう動けるよな?」


「うん、行けるよ」


「おっし、じゃあ、移動再開だ!」


 能力の確認を終え、私達は再び路地裏を抜け出す。

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