第18話「吸精」
____吸える。
騎士の腕に噛みついた私がそう確信を抱いた瞬間、
「……んあっ!?」
騎士の口から喘ぎとも叫びともつかない声が漏れる。
そして、唇を通して、騎士の身体から光の粒子が私の身体に流れ込んで来た。
私は、自身の身体に流れ込んでくる、この光の粒子の正体を本能で察する。
光の粒子____これは、生命力そのものだ。
そして、私は今、”吸精”を行っているようだ。
インキュバスが持つとされる能力の一つ____”吸精”。
”吸精”の能力により、インキュバスは対象者の生命力を奪う事が出来る。
これまでの人生の中で、私は一度も”吸精”の能力を使用した事がなかった。
さらに言えば、そのやり方さえ知らなかった。
半魔であるため、本来インキュバスが持つとされる能力のいくつかが、私にはそなわっていないものだと思っていた。
しかし、私は、この危機的状況において、本能的に”吸精”の能力を発動させたようだ。
生命に対する危機感がこの能力を目覚めさせたのか、あるいは、騎士が与えてくれた刺激がこの能力を目覚めさせたのか。
兎に角、私は”吸精”の能力を使って、騎士から生命力を奪っていた。
私に大量の生命力を奪われた騎士が、意識を失って力なく地面に倒れ込む。
「……! 貴様、何をした!?」
私を取り押さえている二人の騎士の内の一人が驚き叫ぶ。
騎士の一人は私の腰から下を、もう一人は右腕をホールドしている。
私は半身を起こし、左右両方の手の平で、それぞれの騎士の肌に触れた。
途端、二つの手の平が光り出し____
「んうっ!?」
「はあんっ!?」
二人の騎士の口から喘ぎ声が漏れ出るのと同時に、その身体から光の粒子が私の身体に流れ込んでくる。
手の平を介し、”吸精”を行ったのだ。
一息に生命力を奪われた騎士達は、沈黙し、昏倒する。
「……な、なんだ、コイツ!? 何が起きたんだ!?」
謎の力で3人の騎士達の意識を奪った私に、他の騎士達が驚きの目を向ける。
「とにかく、取り押さえろ!」
新たに4人の騎士達が迫りくる。
「はあッ!」
「うわあっ!?」
私は掴みに掛かって来た先頭の騎士を軽々と投げ飛ばした。
宙を舞い、地面を転がる騎士。
力がみなぎっている。
”吸精”で生命力を奪い取ったせいだろうか。
今の私には、獣人に匹敵する身体能力がそなわっているように感じる。
私は地面を蹴り、自ら騎士達の中へと突っ込んでいく。
私の突進を受け、3人の騎士達が散り散りに吹き飛んだ。
「大人しくしろ!」
獣人だ。
獣耳を生やした騎士が瞬く間に私に迫り、両手を掴んでくる。
物凄い力で拘束される私。
さすがは獣人。もがいてもびくともしない。
だが、問題ない。
私は思い切り身体を騎士に押し付け____”吸精”を行った。
「ぬあっ!?」
間抜けな騎士の声が響く。
私と騎士、二人の身体を光が包み込み、光の粒子が騎士の身体から私の身体に流れ込んで来た。
”吸精”の発動条件は案外緩いようだ。
口で生命力を吸うのが一番簡単で効率も良いが、接触さえあれば、”吸精”は行える。
高い身体能力を誇る獣人も、”吸精”で生命力を奪われてしまえば、ただの木偶人形と化す。
獣人は私を解放して仰向けに倒れた。
「シロメ! 全員倒すぞ!」
ロッドが叫ぶのが聞こえる。
逃げるよりも戦ってこの場を収める方が良いと判断したようだ。
既に状況の変化を察し、攻勢に出たロッドが数名の騎士達を昏倒させていた。
「……全員、倒す____分かった!」
私は自身に言い聞かせるように頷き、力がみなぎるままに、やや遠方でこちらの様子を窺っていた騎士達に突っ込んでいく。
生命力をたくさん奪った所為か、私はあふれんばかりの戦闘意欲に支配されていた。
「ぎゃっ!?」
「うわあっ!」
「へぶっ!?」
騎士達の間から悲鳴が上がる。
次々と倒されていく騎士達に、リーダー格らしき騎士が顔をしかめ、手の平をこちらに向けてきた。
「くそっ、なんて強さだ! ええい、ならばこちらも問答無用で!」
こちらに向けられた騎士の手の平が紫色の光を帯びたかと思うと、同色の雷光がほとばしり、私に襲い掛かる。
まずい、やられる。
思わず、両腕を交差させて顔を覆う私だが、
「な、なにぃッ!?」
「……へ?」
騎士は驚きの叫びを、私は困惑の声を発する。
一直線に私に向かい来た紫色の雷光。
それが、私の手前で弾け、斜め後方へとそれていったのだ。
「くそっ、どうなっている!?」
再び、紫色の雷光を私に放つ騎士だが、結果は先程と同じ。
雷光は私の前で弾け、斜め後方へとそれた。
よく分からないが、彼女の雷光は私には当たらないようだ。
好都合。
私はリーダー格らしき騎士との距離を詰め、その頬に拳をお見舞いしようとした。
しかし、さすがはリーダーとも言うべきか、他の騎士達とは違い、こちらの攻撃にしっかりと対処する。
体術で私の攻撃を防ぎ、地面に組み敷いて来た。
「うっ!」
地面に背中をぶつけ、私はうめき声を上げる。
「なんのッ!」
「ぬあっ!?」
私は騎士の手首を掴み、”吸精”を行う。
騎士の口からは間抜けな声が上がるが____
「……うっ」
”吸精”を開始して数秒後、私は急激な満腹感と胸やけのような感覚に襲われる。
すぐに”吸精”を止める私。
胃の中から何か込み上げてくるものがあり、私は必死にそれをこらえた。
……気持ち悪い。
頭がくらくらとする。
恐らくだが、“吸精”にも限度があり、私はそれを越えてしまったようだ。
「……はあ……はあ……妙な事を……! お、大人しくして……いろ……!」
意識が朦朧としている様子の騎士は、それでも私を放さない。
しかし____
「シロメを放せ!」
騎士は後ろからロッドに殴られ、そのまま意識を失う。
「立てるか、シロメ?」
「……うん」
「そうか。だったら、すぐにこの場を離れるぞ」
気が付けば、騎士達は全滅していた。
私達が全て倒したのだ。
「……行こうか、ロッド」
吐き気をこらえながら、私は歩み始める。




