第15話「絶望の中」
「で、どうしますか、コレは?」
「どうするって、何が?」
「このまま殺すのか、それとも、研究サンプルとして拘束しておくべきか。我々はどうするべきですかね?」
「研究サンプル?」
「大結界アマテラスへの完全な耐性を持つ魔族。そのメカニズムを解明する必要性があると思うのですが。そもそも、インキュバス自体、かなり希少な種族ですので、その生態を調べるためにも、コレは貴重な資料です」
「聖星騎士団としては、それが総意になるのかしら?」
「いえ、インキュバスであれば、即刻駆除しろとの意見もあります。聖星騎士団に限らず、上でも意見が割れていますね」
「うーん、そうねえ____」
アンリエットとカーラが何やら話し込んでいる。
気が付けば、私は騎士達に囲まれていた。
……これから、私はどうなるのだろうか?
私の今後について、議論が展開されていたが、その内容が全く頭に入ってこない。
もう、何も考えたくない。
きっと、これは悪い夢なんだ。
その内、目が覚めて、起きた時には母親がいる。
そして、今までと変わらない日常がまた始まって____
「……そうだ、これは夢なんだ……夢に違いない……違いない……違いない____」
「あの、コレ、黙らせて良いですか? さっきからブツブツと気持ち悪くて仕方がないんですよ。思考の邪魔になります」
「勝手に殴って黙らせれば良いじゃない」
「まあ、そうですね」
後頭部を殴られ、私は地面に倒れた。
痛みはあった____筈なのだが……その感覚が何処か遠く感じる。
ふと、私は目の前を見つめる。
そこに、母親の姿があった。
絶命し、既に動かなくなった母親が。
その亡骸を侮辱するように、5本の剣は突き刺したままの状態だった。
母親が何をしたと言うのか。
インキュバスに勝手に子供を孕まされ。
純粋な正義感から出産を決意して。
家族に勘当され、一人で子供を育てて。
その子供が、実は半魔で。
後ろ暗い思いをしながら、それでも母親として愛情を注いで。
半魔を産み育てたが故に、投獄させられ、拷問を受けて。
そして、尊厳を傷付けられながら、死んだ。
母親はリリウミアとヒト族のために戦った”剣聖”だ。
皆のために勇敢に戦った騎士だ。
そして、ただ、自分の子供を愛しただけの、優しい母親だ。
平和に生きる事を望み、リリウミアに盾突こうなどとは微塵も考えていなかった。
それどころか、常に模範的な忠義の者であった。
では、何故?
何故、母親がこんな理不尽な目に?
どういう事なんだ、これは?
この現実は一体?
ああ、神様。
……聞いていますか、神様?
こんな世界、許されてもいいのですか?
貴方は、一体何をしているのですか?
正しい心の持ち主が踏みにじられ、邪悪な心の持ち主が笑う。
そんな運命を、黙って受け入れろと?
これが、世界のあるべき姿だと?
「ああ、もう! うるさいです! まーた、ブツブツと何か言い始めましたよ、コレ!」
「頭おかしくなってるわね、ソレ」
「鬱陶しいんで、気絶させます」
前髪を掴まれる。
カーラが不愉快そうな瞳を私に向けていた。
「むー、まるで人形ですね。何の反応も無い。これでは拷問のしがいがありません。目が覚めたら正気に戻ってくれていると助かります」
カーラが拳を固める。
そして、それを私に振るおうとして____
「……!?」
突然、一陣の風が吹き抜けた。
肌に感じる風圧。
次いで、騎士達の悲鳴が上がった。
「しっかりしろ、シロメ!」
誰かに手を掴まれた。
「逃げるんだよ、シロメ!」
気が付けば、私の周りにいた騎士達は、アンリエットやカーラを含め、皆、吹き飛ばされていた。
そして、私の目の前には、
「……ロッド?」
「行くぞ、シロメ!」
ロッドが____親友の少年がそこにいた。
茶髪に快活な顔つきの少年。
ロッドは焦ったように私の手を引き、
「ここから逃げるんだよ! 走るぞ!」
「え? え? え……と……?」
「ああ、もう!」
困惑状態にある私に痺れを切らしたロッドは、
「身体、失礼するぜ!」
私を強引に背負い、前屈みになるロッド。
「飛ばすぜ! しっかり、掴まっててくれよ!」
ロッドの身体が赤い光を放ち出したかと思うと____
「うわッ!?」
私を負ぶったロッドは、砲弾の様に夜空へと飛翔した。
身体にかかる重圧に歯を食いしばる私。
後方から____
「逃がすな! 追いなさい!」
アンリエットの怒号が飛ぶ。
空を翔けるロッドは、息を吸い込むと、
「____爆ぜよ、破壊の焔!」
途端、後方で爆発が発生し、夜の闇を、瞬間的に昼のように照らした。
爆風が私の背中を押し、思わずうめき声を発する。
「……このまま、逃げ切る!」
叫ぶロッド。
身体にかかる重圧がさらに増し、景色が驚く程、速く流れ始める。




