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第12話「”剣聖”の力」

 私の母親、“剣聖”クロバは人間だ。


 人間と言う種族は、ヒト族の中では支配種と呼ばれる存在になる。


 支配種と聞くと、あらゆる能力が他種族を上回る、最も優れた種族のような印象を受けるが、そうではない。


 人間が支配種と呼ばれる所以(ゆえん)は、その政治能力の高さだ。


 では、身体能力が最も高いとされるヒト族の種族は何か?


 それは獣人だ。


 いや、正確に言えば、その混血種のハーフ獣人が最も高い身体能力を持つ。


 ところで、もう一度言うが、私の母親は人間だ。


 しかし、その両親は人間ではない。


 母親の両親、私の祖父母にあたる人物は、どちらともハーフ獣人だった。


 母親には祖父からも、祖母からも人間の遺伝子が受け継がれたので、その種族は人間となったが____それでも、何かしら、身体能力の遺伝があったのかも知れない。


 母親はスキルなど関係なく、素の状態で異常な身体能力を誇っていた。





 夜気が震える。


「……!」


 驚きに目を見開くアンリエット。



 一撃____鞘による打撃が母親から放たれ、メイスで防御したアンリエットを後方へと大きく吹き飛ばす。


 アンリエットの身体が騎士達の隊列に突っ込み、周囲にどよめきが起きた。


「あら? ”英雄”の娘、この程度かしら?」


 挑発するように告げる母親に、カーラが迫る。


 【幻影の剣】のスキルで剣を生成し、斬撃を母親に浴びせようとして____


「遅い!」


 母親はカーラの剣を危なげなくかわし、身体を捻って、その脇腹に蹴りを入れた。


「……うっ!」


 回避動作をするカーラだが、母親の攻撃には間に合わず、アンリエット同様、後方で陣取る騎士達の中へと吹き飛ばされていった。


「……いたた……やってくれたわね、クロバ……」


 騎士達の中から再びアンリエットが姿を現し、


「少しだけ、舐めてたわ……まさか、【剣の加護】が無い状態で、これ程までやるなんてね……でも、こっちには数の力がある」


 アンリエットはメイスを天へと掲げ、


「突撃開始!」


 アンリエットの合図と共に、それまで待機状態にあった騎士達がメイスを手に母親へと殺到する。


 対する母親は身を屈め____砲弾の様に前方へと駆けて行った。


 土埃と共に、人体が紙屑の様に宙を舞う。


 母親の突進を受け、騎士達は次々と吹き飛ばされていった。


 相手方から痛々しい悲鳴が上がり、月が綺麗な静かな夜は、地獄の宴会場へと化す。


「囲んで叩きなさい!」


 アンリエットが怒号を飛ばす。


 隊列に切り込んで来た母親を、包囲して取り押さえる命令が下された。


 騎士達が己を鼓舞するように口々に大声を発し、母親に押し寄せる。


 そして、再び、人体が宙を舞う。


 誰も母親を取り押さえる事は出来ない。


 物量で圧し潰そうと試みる騎士達だが、それは叶いそうにないようだ。


 母親の戦いぶり____いや、暴れっぷりは、到底ヒト族のそれとは思えない。


 大怪獣が騎士達を蹂躙している。そんな印象を受けた。


「……なんて馬鹿力なの……! ええい! シロメを人質にしなさい!」


 アンリエットが私を指差し、甲高い声で叫ぶ。


 どうやら、私を人質に取り、それで母親を脅して動きを封じる作戦を思い付いたようだ。


 アンリエットの命令を受け、数人の騎士達が私の元に走り寄る。


 伸びた手が私の肩を掴んだ。


 しかし____


「はあッ!」


 気合の声と共に、私は騎士の腕と襟首を掴み返し、投げ飛ばした。


 騎士の身体はすぐ真後ろにあった壁にぶつかり、そのまま事切れたように、地面へとずり落ちる。


 私が騎士を投げ飛ばして気絶させた光景に、迫りくる後続の騎士達が目を見開いていた。


 ____イケる!


 私は地面を蹴り、硬直状態にあった騎士の一人の鳩尾(みぞおち)に膝蹴りを叩き込んだ。


 不意打ちのような一撃を貰い、崩れ落ちる騎士。


 私は騎士の一人を倒した勢いのまま、その隣にいたもう一人の騎士のこめかみに肘打ちを放つ。


 強烈な肘の打撃を頭部に受け、もう一人の騎士も昏倒した。


「な……!? こ、こいつ! 舐めるなアッ!」


 こちらの予想外の反撃に、激昂した騎士がメイスを手に襲い掛かって来る。


 私はメイスをかわし、身を屈めて、騎士の顎に思い切り拳を叩き込んだ。


「へぶっ!?」


 と、間抜けな声を発して仰向けに倒れる騎士。


 4人____私を人質として捕らえるべく襲い掛かって来た騎士を、全員返り討ちにした。


 私の奮闘に、アンリエットはあんぐりと口を開けて、


「……え? ……う、嘘……どういう事なの……?」


 困惑した様子のアンリエット。


 その間抜け面に母親は思わず吹き出して、


「アハハ! 何よ、その顔! 鳩が豆鉄砲を食ったようなその顔は!」


 騎士達を蹴散らしながら、母親がアンリエットをからかう。


「シロメは私の子供よ。”剣聖”の子供が弱い訳ないでしょ」


「……え、でも……身体が弱いって____あ、それも嘘だったって事……!?」


「貴方、シロメの事、脅威大の敵性魔族だって自分で言っていたじゃない。自分の発言も忘れたの?」


 母親に呆れた視線を向けられるアンリエット。


 ”剣聖”の子供シロメ____私は、決して病弱などではない。


 魔族である事を隠すために身体が弱い振りをしていたが、実際は、それなりに身体能力が高く、また母親からは護身術を習っていた。


 そのため、並みの騎士と対等に戦えるくらいには、私は強い。


 母親と比べれば、かなり見劣りするが。


「ああ、もう! 兎に角! シロメを捕えなさい! 数で押すのよ数で!」


 アンリエットの命令で大人数の騎士達が私に殺到するが____


「させないわよ!」


 敵陣で大暴れをしていた母親が、猪のような突進をもって、私の前に駆け付ける。


 母親の進行上にいた騎士達は無様に宙を舞った。


「さあ、かかって来なさい!」


 私を捕らえに駆け付けていた騎士達に叫ぶ母親。


 その力強い背中に、私は安堵を覚え____騎士達は、”剣聖”との対峙に絶望を伴った恐怖を感じていた。


「……こんな化け物……勝てる訳がない……」


 騎士の誰かがそう呟いた。


 その言葉をきっかけに____


「あんなの、どうやって倒すのよ」

「私達が100人、いや1000人いても勝てないわよ」

「もう諦めて撤退した方が」


 騎士達の間で、敗戦ムードが広がる。


 そんな部下達の様子にアンリエットは顔をしかめ、


「こらッ! 貴方達! 怯むんじゃないわよ! 相手はたったの二人よ!」


 アンリエットは叱咤するが、騎士達の敗戦ムードは消え去らない。


 すると____


「魔法よ! 魔法攻撃の集中砲火を浴びせるのよ!」


 アンリエットではない、騎士の一人がそう叫んだ。


 途端、騎士達が口々に、


「魔法ね!」

「そうだ! 魔法だ!」

「これだけの人数の魔法を一斉に放てば!」


 騎士達が次々と魔法を放つ準備を始める。


 ある者は詠唱を開始し、ある者は魔法陣を描き出し、ある者は瞑想に入り____各々が各々のやり方で、魔法を放とうとしていた。


 アンリエットはと言うと、


「……!? ちょっと、貴方達! なにやってるの!? 止めなさい! 勝手な事しないの!」


 命令も無しに、勝手に行動を開始する騎士達を制止しようとするが、“剣聖”と言う規格外の敵に対する恐怖と焦燥により、騎士達は聞く耳を持たない状態だった。


「命令を聞きなさいッ! クロバに魔法は____」


 アンリエットの言葉を掻き消すように、魔法は怒涛の勢いで放たれた。


 火球が、氷塊が、土塊(つちくれ)が、雷撃が、私達の元に迫りくる。


 高密度の魔法攻撃に、しかし、母親は動じない。


「シロメ、後ろでじっとしていてね」


 静かにそう告げる母親。


 次の瞬間____ほぼ全ての魔法攻撃が、母親の身体に吸い込まれていった。


 そして……。


 母親の身体から、先程吸い込まれていった魔法攻撃が、そっくりそのまま騎士達の方へと放出された。


 火球が、氷塊が、土塊(つちくれ)が、雷撃が、騎士達を襲う。


 騎士達は地獄の様相を呈していた。


 跳ね返された魔法攻撃を受け、各々が悲痛な叫び声を上げる。


「____【魔法カウンター】」


 母親は呆れた様子で告げる。


「受けた魔法を放った相手に跳ね返す私のスキルよ」


 跳ね返された魔法攻撃により、ほぼ全壊状態となった騎士達を虚ろな目で眺めるアンリエットに、母親は____


「駄目じゃない、アンリエット。私が【魔法カウンター】のスキルを持っている事、しっかりと周知させなきゃ」


 小馬鹿にしたように母親は言う。


 アンリエットは頭を抱えて、地面に座り込んでしまった。

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