第11話「謀略」
「只今より、脱獄犯クロバ、シロメ両名の拘束を執り行う。尚、シロメには脅威大の敵性魔族の嫌疑が掛けられており、その拘束に生死は問わない。また、その脅威の程度から、クロバの拘束も同様のものとする」
アンリエットの口から告げられた機械的な宣告。
要約すると、殺してでも良いから私達を捕まえろ、という事か。
いや、それは建前で、拘束を口実にした私達の殺害が目的なのだろう。
光に目が慣れて来たので、改めて、周囲の状況を確認する。
私達を囲う様に配置された大勢の騎士達。
見た所、聖日騎士団と聖星騎士団の騎士達の混ぜ合わせのようだ。
比率で見ると、聖日騎士団が2割、聖星騎士団が8割と言った具合。
母親は腰元の鞘から剣を引き抜き、
「……全く……びしっと隊列を組んで……どうやら、出待ちされていたみたいね」
そうだ。
この状況、どう考えても、待ち伏せされていたとしか思えない。
私達の脱獄を予測して、あらかじめ人員を配置させていたとしか。
何の理由も無しに、この深夜に、この場所に、これだけの騎士達を待機させておくなど、あり得ない。
「まあ、出待ちされた所でって話よね。この”剣聖”を止められるものなら止めてみなさいよ」
不敵に告げる母親に、アンリエットが肩をすくめながら、その前に姿を現す。
アンリエットの隣にはその妹のカーラもいた。
「これだけの人数と、この”英雄”マリー・ダランベールの血を引く私達姉妹を相手に勝利するつもりかしら」
アンリエットの言葉を母親は鼻で笑い、
「アンリエット、申し訳ないけど、貴方が100人いた所で、私には勝てないと思うわよ。剣を手にした私の強さ、貴方は間近で見て来たでしょう?」
母親の返しに、アンリエットは笑いを堪えるような仕草をして、
「剣を手にした、ね」
「……何がおかしいのよ」
アンリエットの態度を不審に思ったのか、母親が少しだけ警戒感を露わにする。
「だって……剣なんてどこにもないでしょう?」
アンリエットが告げたその刹那、母親の手にしていた剣が光の粒子となって消滅する。
「……な!?」
驚きに目を見開く母親と私。
「____【幻影の剣】」
勝ち誇ったように、アンリエットは告げる。
「カーラのスキルよ。剣を無から生成し、自由に消滅させる事が出来るの。貴方が手にしていた剣はカーラがスキルで作り出したものだったのよ。そして、今、それを消滅させた。貴方は丸腰になったって訳」
アンリエットは腹を抱えて笑い出し、
「剣がない今、貴方は【剣の加護】のスキルを発動させる事が出来ないわ!」
「……どういう事なの……私が手にしていた剣はカーラがスキルで作り出したもので……」
「アハハ! 貴方、ノエルに裏切られたのよ!」
困惑する母親にアンリエットは、
「馬鹿ねえ、クロバ! 何もかも私の手の平の上よ! これは全て、私の計画通りなの!」
高笑いをするアンリエット。横からカーラが「計画を考えたのはアンリエットお姉様ではなく私なんですけど」とツッコミを入れた。
「貴方達が脱獄の罪を犯すように仕向け、監獄の外に出た所で、拘束____いえ、殺害する。これが私の計画よ」
それから、アンリエットは計画の詳細を語り出す。
「まず、ノエル。彼女は最初から私達側のスパイだったのよ。一日だけ、カーラの代わりに拷問を行わせ、貴方に接触させる。そして、貴方に剣を忍ばせる約束をさせた。後はカーラが【幻影の剣】で剣を作り出し、貴方の寝床に仕込んでおく」
ノエルがスパイだったと言う事実に、母親は少なからずショックを受けているようだった。
「それと、麻痺薬。貴方、薬物耐性を得たとでも勘違いしているんじゃないかしら?」
「……勘違い?」
「日に日に麻痺薬の濃度を薄めていったのよ。3日前からは生理食塩水を投与していたわ」
どうやら、アンリエット達は母親が麻痺薬に対する耐性を得たと勘違いするように仕組んでいたようだ。
「薬物耐性を得て、剣も手にした。そんな貴方が脱獄を企てるのは火を見るより明らか。それと、気が付かなかったのかしら? 地下の拷問室に連れて行く際、私は敢えて裏口の前を通る遠回りなルートを移動していたの。貴方に、ここに逃げ道があるわよと見せびらかすために」
……そう言えば、若干だが違和感を覚えていた。
やけに何度も角を曲がって地下に移動する事に。
内部構造が複雑であるからだと思っていたが、そうではなかったのだ。
私達に逃げ道を教え、脱獄の際に、それを使用するように誘導していたのだ。
そして、まんまと誘導に引っ掛かり、私達は待ち伏せのポイントに姿を現してしまったと言う訳か。
「貴方は私の思惑通りに、脱獄して、ここに現れた。そして、剣もない状態で、大勢の騎士達に囲まれ、今、処刑されようとしている」
「……これは……一本取られたわね」
母親が大きな溜息を吐く。
「認めるわ、貴方の計画にどうやら私は完敗したようね____カーラ」
母親の敗北宣言にアンリエットは「え、カーラ? 私は?」と、自身への言及がない事に不満を表明する。
「アンリエット、貴方はただの使いっぱしりみたいなもんでしょ。計画を考えたのはカーラで、【幻影の剣】もカーラのスキル。ああ、それと、”インキュバス祓い”も、どうせカーラの入れ知恵なんでしょう?」
「……け、計画を実行に移したのはこの私よ!」
この狼狽え具合、どうやら、母親の指摘は図星だったようだ。
「でも、舐められたもんね」
母親は身構え、不敵に笑う。
「私は”剣聖”よ。剣を奪えば、それで勝てるとでも思ったのかしら」
「……ふん、強がりね」
アンリエットはつまらなそうに武器を手にする。
アンリエットが手にした武器は剣ではなく、メイスだった。
アンリエットだけではない。他の騎士達も誰一人として剣を装備していない。
恐らく母親への対策だ。
母親に剣を奪われ、【剣の加護】のスキルを発動されるのを恐れての事だ。
「……あら、それもカーラの入れ知恵かしら。剣を奪われるリスクを回避した訳ね」
「違うわよ! これは……イライザの助言よ」
「どの道、妹の入れ知恵じゃない。良かったわね、優秀な妹に恵まれて」
馬鹿にするような母親の発言にアンリエットは顔をしかめる。
「貴方、私を舐め過ぎじゃないかしら? この英雄の血を引くアンリエットを」
メイスの先端を母親へと向けるアンリエット。
母親は腰元の鞘を抜いて、それを構えた。
「さあ、かかって来なさい! この”剣聖”クロバ、例え同胞が相手でも、守るべき我が子のために容赦はしないわよ!」




