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第27話「不穏な酒宴」

 リリウミアのダンジョンは冒険者達を閉じ込める牢獄だ。


 しかし、実態として、その牢獄に陰鬱で窮屈な雰囲気はない。


 美食に酒に女にその他多くの娯楽____誘蛾灯よろしく、内部には冒険者達を引き寄せて離さない欲望の輝きが満ちている。


 力無き者が儚い命を落とすダンジョンは、強者にとっての楽園なのだ。


 そんな昏く、猥らな光に満ちたダンジョンの街には、一層の喧騒と絢爛とを放つ場所が出来上がっていた。


 中心には多くの酒樽が並べられ、周囲を眩く派手な灯りが彩る。


 冒険者達は酒と美食を手に、思うままに騒ぎ立て、美女達の接待を受けていた。


 クローバー・ハウスが主催する酒宴。


 日頃の感謝の気持ちを込めてと開催されたそれは大きな盛り上がりを見せていた。


「……全く、酒盛りとはどう言った魂胆だ?」


 シートの上に胡坐をかき、ちびちびと酒を飲むマルールが怪し気な視線と共に尋ねて来る。


「冒険者達と信頼関係を築くにはこれが一番と思いましてね。それと、昨日の無礼に対するお詫びと言う事で」


 私はにっこりとした笑みを浮かべ、空になったマルールの盃に酒を満たして行く。


 マルールはそんな私の態度に、一層疑いの視線を強める。


 あれから____昨日、マルールと別れた後、私は酒宴を開くべく、その準備に奔走した。


 美酒美食をかき集め、ダンジョンを管理する騎士団に酒宴を開く許可を取った。


 この宴の目的、表向きはクローバー・ハウスと冒険者達との親交を深めるものとしているが、無論、真の目論見は違う。


 私は今宵、ここで、冒険者の反乱を引き起こすのだ。


「では、存分にお楽しみください」


 私はマルールに愛嬌良く告げ____そして、行動に移る。


 辺りを見回すと、多くの冒険者達が程よく酔い、気が大きくなっていた。


 ……良い具合に仕上がっている。


 私は場が整いつつある事に微かに口角を上げ、酒宴の光が届かない闇へと進んで行く。


 狭い通路の隅。私は隠していた木箱の中から、甲冑とハンマーを取り出し、装備する。


 全身の動作に異常がない事を確認。


 謎の覆面冒険者と化した私は獲物を求め、目抜き通りへと出た。


「……いた」


 三人一組で街をパトロールする騎士達を発見。


 特段の警戒もないまま街を歩く彼女達は、私にとって無防備な獲物だ。


 私は意を決するように息を大きく吐き、


「はあっ!!」


 騎士の一人にハンマーで殴り掛かった。


「ぐべっ!?」


 頭部をハンマーで殴られ、地面に倒れる騎士。


「……へ?」「……なに?」


 他の二人の騎士達は突然の出来事に、呆然と立ち尽くしている状態。


 そんな中、私は倒れた騎士に、容赦の無い追撃を加えていく。


 頭蓋骨が砕ける音が響き、血飛沫が飛び、やがて騎士が絶命した所で、残りの騎士達が慌てて剣を抜き、


「き、貴様、何をしている!?」


 毅然と剣を構える二人の騎士達。


 しかし、威勢の良さとは裏腹に、その表情は心ここに非ずと言った具合だった。


 未だ、状況が上手く飲み込めていないのだろう。


「冒険者の解放を!」


 私は出来るだけ低い声でそう叫び、騎士に殴り掛かる。


「な、早____」


 言い切る前に、騎士の一人を昏倒させ、間髪入れない追撃で、その頭を粉々に潰した。


「冒険者の解放を!」


 再び叫び、残った一人の騎士に向き直る。


「……ひ、ひえ」


 恐怖に顔を引きつらせる騎士。


 私は【威嚇】のスキルでその恐怖を更に倍増させる。


 すると、騎士は両目に涙を浮かべて逃走し、私はその背後を見送った。


 騒然となる周囲。


 私は大勢の人々が見守る中、騎士の血でハンマーを濡らす。


 そして、近くの壁に”冒険者の解放を!”と騎士の血で綴り、その場を立ち去った。


 ____その後、私は同様のことを街の各地で繰り返す。


 冒険者に扮し、冒険者の解放を謳いながらパトロール中の騎士達を襲い、その内の一人を敢えて逃す。


 そうする事で、ダンジョン内で冒険者が反乱を起こしていると言う情報が広がっていった。


 地底に生臭い血の臭いと共に不吉な空気が漂い始める。


「もう良いかな」


 頃合いを見計らって、甲冑を脱ぎ捨てる私。


 あちこちで騒ぎと混乱が起きている街中を進み、私は騎士団の詰め所のような場所に駆け込んだ。


「た、大変です! 大変です! 兎に角、大変なんです!!」


 と、慌てた演技をしつつ、近くにいた騎士に縋り付く。


 騎士は目を白黒させ「お、落ち着いて下さい」と私をなだめた。


 私は騎士の両肩を強く掴み、


「酒盛りをしていた冒険者達が反乱を起こしました!」


 慌てた口調で訴えかけると共に”催眠術”の能力を用い、


「”酒宴の場にいる冒険者達を取り押さえないと、大変な事になりますよ”」


 そう騎士に信じ込ませる。


 能力の効果か、騎士は血相を変えて、


「酒宴の場にいる冒険者達を? 分かりました、直ぐに対処します! 情報提供感謝します!」


 そう言って、私の言葉に微塵も疑いを抱かず、奥へと駆けて行く。


 これで、騎士達の間に、酒宴の場にいる冒険者達が反乱を起こし、実際に数名の騎士達を殺したと言う情報が出回る事になるだろう。


 実を言うと、酒宴の許可を騎士団から取る際、冒険者達の間に不満とストレスが溜まっており、その所為か反乱を企てている者達がいるので発散の場を設けた方が良いと進言し、微妙に伏線も張っていたりもしたのだ。


 私はすぐに踵を返し、今度は酒宴の場を見渡す事が出来る高い建物へと移動した。


 眼下には地底の闇を吹き飛ばす人工の光の群れが広がっていた。


 ここからなら、酒宴の様子も、その周辺の様子も確認する事が出来る。


 冒険者達は未だ呑気に酒を楽しんでいたが、中には街中がきな臭くなりつつある事に気が付いている者もいた。


「おい……何か、周りの様子がおかしくねえか?」


 不安気にそんな事を口にする冒険者達が増えつつある中____


「貴様達、そこを動くな!」


 騎士の怒号が響く。


 酒宴の場は、いつの間にか大勢の騎士達に囲まれていた。


「な、何だ……こ、これはどう言う事だ?」


 冒険者達は戸惑いの表情で騎士達を見遣る。


 酒の酔いも手伝って、困惑の度合いは計り知れないものとなっている事だろう。


「武器を持っている者は直ちにそれを放棄し、両手を開いた状態で挙げよ!」


 騎士が命令するが、戸惑いの中にある冒険者達はそれには従わず、きょろきょろと周囲を見回していた。


 そして、そんな冒険者達の様子に騎士達は激昂し、


「命令に従え、この薄汚い冒険者共が!」


 顔を真っ赤にして、怒声を発する。


 騎士達の怒りは頂点に達していた。


 それもその筈。


 彼女達は既に街の各地で無惨に撲殺された仲間の姿を目にしている。


 あの酷い有り様の死体を見れば、同じ騎士として怒りを覚えずにはいられないだろう。


「……良い具合だ」


 私は眼下の景色を眺めつつ、満足気に呟く。


 騎士達は怒りで我を忘れており、冒険者達は酔いと突然の出来事でパニック状態に陥っている。


 即ち、今この場に、冷静な判断が出来る者は存在していない。


 一触即発の空気が漂っており、切っ掛けさえあれば、今すぐにでも大きな戦闘が始まる事だろう。


 私は右手を前へとかざし、反乱勃発の最後の一石を投じる事にする。


「”騎士達を皆殺しにせよ”」


 ”支配”の能力改めオルドーノを発動する。


 すると、私を中心にインキュバス紋が広域へと展開された。


 トリフォリウム王国にいる間、ヒト族の家臣がいたので、私は名を新たにしたこの力の鍛錬を行っていた。


 力に関わる認識を改めた結果か、鍛錬の成果か、私はオルドーノの新たな能力を開花させる事に成功。


 従来は個に対する作用に限られたこの力を、集団に対して作用させる事が出来るようにした。


 ただし、集団に対し命令を行った場合、効果が十全に発揮されない場合があったり、個体ごとに効果の強さが異なる事が分かっている。


 だが、対象が精神的に不安定であったり、理性や判断能力を失っている場合は、集団に対する命令でも、そのような効果の半減が無い事も判明していた。


 丁度、今現在冒険者達が酒で酔っ払っている場合の様に。


「騎士達を皆殺しにしろ!」


 冒険者の誰かがそう叫び、腰元から剣を抜いた。


 それを皮切りに、同様の声が幾つも続く。


 オルドーノは酒によって理性の一部を失っていた冒険者達に、その効果を十全に発揮していた。


 最早暴徒の集団と化した冒険者達に、騎士達も武器を手に取り戦闘態勢に入る。


 そして、戦いの火蓋は切られた。


 武器同士がぶつかり合う音が響き、血潮が酒宴の場を赤く塗り替える。


 冒険者の接待をしていたクローバー・ハウスの従業員達は既に退避しており、彼女達が戦闘に巻き込まれる心配はない。


 さて____


 火を付けておいて、傍観しているだけと言うのも、冒険者達に申し訳ない。


 私は冒険者のような服装に着替え、“擬態”の能力で顔の造形を変えた上で、ダガーを手に戦場へと繰り出す事にした。


「はあっ!!」


 ダガーを振るい、騎士を一人また一人と仕留めていく。


 相手は聖星騎士団。


 他の騎士団に比べ、戦闘能力は然程高くないためか、容易に倒す事が出来た。


 突如戦場に現れ、騎士団相手に無双する私と言う存在に、騎士達も冒険者達も皆ぎょっとしていた。


「おい、アンタ、昨日のお嬢様だろ」


 と、私の元に駆け寄り、耳元で囁いて来たのはマルールだった。


 “擬態”の能力で別人に扮していた私だが、彼はその正体に気が付いたらしい。


「随分と上手な変装じゃねえか」


「バレちゃいましたか。結構はりきって変装したんですけど」


「ふっ、俺は勘の良い男だからな」


 一瞬得意気な笑みを見せたマルールは、それから私をきっと睨み付け、


これ(、、)、お前の仕業なんだろ。よくもやってくれたな、てめえ」


 凄んでくるマルールに私は肩をすくめる。


「だったらどうします?」


 試すように尋ねると、マルールは吐き捨てるように、


「責任取って、俺達に付き合いやがれ。嫌とは言わせねえぞ、そんだけの腕持ってんだからな」


 と、私の肩を叩くマルール。


 一緒に戦えと言う訳か。


 言われずともそうするつもりだが。


 私が「勿論です」と答えると、


「つーわけで行くぞ、お嬢様」


「……行くって?」


「決まってんだろ。リリウミア騎士団ダンジョン支部にだよ。騎士共の本丸をぶっ叩く!」


 そう言って私の腕をマルールは強引に引っ張り、「聞け、反乱軍の同志諸君!」と声を張り上げる。


 そして____


「賽は投げられた! 騎士団からダンジョンを奪い取るぞ!」


 今、冒険者達の反旗が翻った。

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