表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/155

第25話「ヴォルコフ卿との対面」

 クネウム王国____グールの国であり、ローズ連邦共和国までの最寄りの港が存在している。


 私達はこの国で2日間滞在した。


 ここで会談の最終調整を行うらしい。


 シシは滞在中にローズ連邦共和国の内務大臣と連絡を取り合っていたようで、頻繁に伝書鳩(ただの伝書鳩ではなくデビルダヴと言う名の魔物らしい)を飛ばしていた。


 その間、私は国王であるニルと面会する。


 グールは二足歩行の狂暴な獣の様な見た目をしているが、その風貌に反して穏やかな気性の魔族だった。


 いや、穏やかと言うより、鈍いと言った方が良いか。


 会話のテンポが異常なほど遅く、そのため、少々コミュニケーションに苦労したが、私はどうにかニルの機嫌を取り、クロガネ王国の陣営に引き入れる事に成功した。


 会談の調整が終わると、私達は港から流域を北上し、ローズ連邦共和国の秘密の地下港に到着し、地上へと出た。


 ……久しぶりの地上だ。


 時刻は夕暮れ。


 私達は厚着をした上で日傘を差し、太陽を凌ぎながら目的の場所へと向かった。


 ローズ連邦共和国は国全体が寒冷地に位置しており、そのため、暖炉の排気用の煙突が目立つ街並みを有している。


 私達が到着した場所は、比較的最近に整備された区画の様で、道路の舗装が真新しかった。


 やや暗い路地を経由し、人で混雑する繁華街に出る一行。


 夜になるにつれて人混みが増して行く街並みの中、私達は一つの建物の中に入った。


「ここは?」


 と、建物の中に入ってから短くシシに尋ねると、


「クローバー・ハウス____我々の経営する売春宿です。中々のものでしょう?」


 そう言って、シシは綺麗に飾り付けのなされた屋内を誇らし気にアピールする。


 クローバー・ハウスと言うのは売春宿の名前らしい。


 内装を観察しながら、階上へと移動し、私はとある一室へと連れられた。


 机と椅子があるだけの簡素な部屋だ。


 ここは事務室の様な場所だろうか。


 シシに促され、椅子に腰掛ける私。


「しばし、お待ち下さい」


 シシはそう言うと、一人部屋を抜け出す。


 その数分後____


 身なりのしっかりとした男性を引き連れ、シシが戻って来た。


 私は立ち上がり、男と向き合う。


「お初にお目にかかります、シロメ国王。私、ローズ連邦共和国の内務大臣を務めております、イワン・ニカラーイヴィチ・ヴォルコフと申す者です」


 男が丁寧に名乗り上げたので、私もそれにならう事に。


「トリフォリウム王国国王シロメです。この度は会談の場を設けて頂き、感謝致します、ヴォルコフ卿」


 私が名乗り返すと、シシが「どうぞ、おかけください」と私の対面にヴォルコフ卿を促した。


 イワン・ニカラーイヴィチ・ヴォルコフ____ローズ連邦共和国で内務大臣を務めているこの男は、裏でトリフォリウム王国のサキュバスを始めとした魔族達と通じていた。


 地上と”地下水道”との交易の便宜を図るヒト族の一人で、ローズ連邦共和国内でトリフォリウムのサキュバス達がお店を出せているのも、彼のおかげらしい。


 ちなみに、かなりの頻度で売春宿を利用する大切な顧客でもあるとの事。


「しかしまあ、トリフォリウム王国にも遂に魔王が」


 着席したヴォルコフ卿は、何か探るような瞳で私の事を見つめている。


 その表情には若干の戸惑いがあるように見えた。


 当然だ。


 どこからどう見ても子供にしか見えない国王(実際、子供である)を前にすれば、常人はそのような反応をする。


「実際に目にして、随分と驚かれた事でしょう。このような若輩者が一国の主を務めているなどと」


「いえ……そのような」


「困惑は当然です。しかし、どうか、その御慧眼で正しく見極めて頂きたい。私が君主たる器の持ち主であるのかを」


 敢えて触れ辛い話題を持ち出すことで、私は男に対し、やんわりとだが、なめられないように警告を発した。


 子供だからと軽んじてくれるなよ、と。


「さて、ヴォルコフ卿____」


 挨拶もそこそこに、私は早速切り出す事にした。


「リリウミアのダンジョンが欲しくはありませんか?」


「ぬ? ……ダンジョン、ですか?」


 突然そのように持ち掛けられ、ヴォルコフ卿は意表を突かれたと言った表情を浮かべる。


 私が口にしたのは、今現在進行中の戦争の話でも、トリフォリウム王国の政情の話でもなく、ローズ連邦共和国の利権に関わる話題だった。


「貴国はかねてよりダンジョンの利権を巡ってリリウミアと対立して来た。しかし、リリウミアの軍事力は強大で、貴国は彼の地からの撤退を強いられ続けている。そうですよね?」


「ええ、全くその通りですが」


「そして、現在、貴国は水面下でダンジョンの奪取計画を練っている。我々を通じてダンジョン内の冒険者達に反乱を起こさせようとしているのもその一環です」


 私は強い視線でヴォルコフ卿を見つめ、


「単刀直入に言います。今が奪取の絶好の機会です。軍を動かし、リリウミアに攻め入るなら今なのです。リリウミアは現在、”地下水道”に騎士団を派遣し、戦争の只中です。派遣された騎士団には対魔族の戦闘組織である聖日騎士団だけではなく、聖月騎士団や聖星騎士団も含まれています。つまり、リリウミアはそのほぼ全軍事力をこちらに向けているのです」


 力説する私。


 ヴォルコフ卿は興味深そうに耳を傾けていた。


「成る程、承知致しました」


 しばし口を閉ざしていたヴォルコフ卿が、見透かす様な視線をこちらに向ける。


「どうやら、存外、陛下は切れ者のようだ。いえ、これは無礼な言い回しでしたね。申し訳御座いません」


 ヴォルコフ卿は謝罪するように頭を下げ、私の目を真っ直ぐと見つめて来る。


「陛下は我々をけしかけ、リリウミアの戦力を二分する事が目的。そのためのエサとしてダンジョンの利権にまつわる対立に目を付けた」


 こちらの思惑を素早く見抜くヴォルコフ卿。


 その通りだ。


 泣きつくように助力を求めるよりも、利益を提示して自らリリウミアとの戦闘に踏み切らせる方が得策だと思った。


 そうした方が借りを作らない。


「けしかけるなどとは随分な言い様です。まるで、我々が騙そうとしているかのようだ。私はただ、互いにメリットのある提案をしているに過ぎません」


 実際、ヴォルコフ卿やローズ連邦共和国を謀る意図などない。


 相互に恩恵のある話をしているつもりだ。


「仰る通りです。事実、我々にとっても有難い話に違いない」


 と、好感触を示すヴォルコフ卿だが、


「しかし、今すぐにと言うのは難しいかも知れません」


「それは何故です?」


 難色を示すヴォルコフ卿にその理由を尋ねる。


「軍を動かすのにもタイミングがございまして。特にヒト族の社会は色々な思惑が絡むものです。今はその時(、、、)を待つしか御座いません」


 含みのある言い方をヴォルコフ卿がしたので、


「……その時(、、、)とは?」


「ダンジョン内における冒険者達の反乱です。その引き金がなければ我々は動けません」


 断言するようにヴォルコフ卿は強い口調で述べる。


「独裁国家とは違い、何か事を起こすのであれば、民衆にそれを納得させるだけの材料を示さなければならない。ただの為政者の思い付きで(いくさ)など出来はしません。その納得させる材料たり得るのが冒険者達の反乱なのです。ダンジョンで反乱が起きれば、周辺地域の治安維持と言う危急の目的と大義名分のもと、軍を動かす事が出来ます。加えて、反乱に乗じる形で開戦すれば、こちらの優位から戦いを始める事が出来る」


 ヴォルコフ卿の説明に私は「成る程」と頷いた。


「反乱が起きさえすれば、すぐにでも軍を動かして頂けるのですか」


「そうですね。それこそ、絶好の機会ですから。しかし、色々と手を回してはいるのですが、中々あちらの機が熟していない様子で。反乱の勃発は先の話になるかと」


 男の言葉に私は不敵な笑みを浮かべる。


「であれば、私がその反乱を起こさせてみせましょう」


「……なんですと」


 言い放つ私にヴォルコフ卿が困惑の表情を浮かべる。


 そんな彼に私は畳み掛けるように、


「約束して頂けますか? 私が近く冒険者達に反乱を起こさせるので、ローズ連邦共和国にはその機に乗じて、軍を動かして頂きたい」


 ヴォルコフ卿はしばし黙り込んだ後、


「本気ですか、陛下? 言っておきますが、それが容易い事なら、反乱などとうに起きていますよ。そのために、我々は手を尽くしてきたのですから」


 疑うような視線を向けて来るヴォルコフ卿に私は尚も不敵な笑みを浮かべ続ける。


「であれば、とくとご覧あれ。トリフォリウム王国に君臨した魔王シロメの手腕を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ