第23話「次の一手」
国王就任パレードは大いに盛り上がり、私は国王としてその威信を内外に示すことに成功した。
そして、その日から私の元には各国の大使達が訪れるようになる。
私は”始まりの子供達”のリーダー的存在であるヴァールと外務大臣のアーサーを伴って彼らに対応し、各国を自陣に引き入れるべく努めた。
努めたと言っても、私は精々お飾り役で、重要な遣り取りは勝手知ったるヴァールとアーサーに任せた訳だが。
その一方で報告と連絡のためにヒイラギを一度クロガネ王国に帰すことにした。
私の国王就任に関わる情報は既にあちらにも伝わっているとは思うのだが、ヘイロンにはしっかりと筋を通しておかないといけないと思い、正式に今回の一件を伝達しておく。
国王就任から幾日かが経過する。
各国大使の訪問も落ち着いて来た頃、忙殺の日々に疲弊気味になっていた私の元にヒイラギが親書を携えてやって来た。
ヒイラギは恭しい態度で玉座に座る私にお辞儀をし、
「ヘイロン国王陛下からのお言葉です」
そう始めに述べ、落ち着いた口調で親書の読み上げを開始した。
読み上げは長々と続いたが、内容を要約すると、私の国王就任を歓迎し、両国の同盟関係を希望するものだった。
勝手にトリフォリウム王国の国王になった事を怒り出すのではないかと少しだけ不安だったのだが、どうやらそれは杞憂のようだった。
「ヒイラギ殿、後で私の自室へお越し頂きたい」
幾つかの遣り取りを終え、私は早々にヒイラギにそう告げる。
彼とは二人きりで話し合いがしたかった。
周囲に人がいると、国王と他国の大使と言う立場上、妙に余所余所しく、形式ばった会話しか交わせないからだ。
腹を割って話さなければならない事が山ほどあるのに。
「畏まりました、シロメ国王陛下」
最後まで恭しい態度を貫き、ヒイラギが退く。
私は側に仕えていたヴァールとアーサーに断りを入れ、ヒイラギに続くように直ぐに玉座から立ち上がり、自室へと向かう。
自室で待つ事数分、ヒイラギが約束通り訪れた。
「元気にしていたか、シロメ」
先程とは打って変わって、ラフな態度のヒイラギ。
そのいつも通りの声音に私は安堵を覚えてしまう。
「何とか。そっちはどうですか? そっちの状況は?」
急くように尋ねると、ヒイラギは「まあ、待て」と落ち着いた様子で椅子に腰を下ろしてから、ゆっくりと話し始める。
「こちらは取り敢えず、膠着状態が続いている。クトー王国とは多少の小競り合いがあるだけで特別の進展はなく、リリウミアに関してはアカツキの働きのおかげで、奴らの進撃は中断している」
つまりは、ある程度こちらの思惑通りに事が運んでいると言う訳か。
「……アカツキさん、本当に騎士団と交渉出来てるんですね」
交渉の実現に半信半疑だったので、素直に驚きと称賛の念を抱いてしまう。
「奴はただの研究馬鹿ではない。あれでも優秀な官吏である事に違いはないからな」
その優秀さに免じて普段の奇行を許容されている所はあるのだろう。
「そして、シロメ、お前のおかげで状況は好転の可能性を見せた。トリフォリウム王国始め、多くの国々がクロガネ王国の陣営に加入し始めている。いずれ、反撃の機会を得るだろう。ただし、油断は出来ない」
「と、言いますと?」
「外交に尽力しているのはこちらだけではない。クトー王国も次々とその陣営を拡張させている」
と、深刻そうに話すヒイラギ。
「あちらはヒト族牧場を有する経済大国だ。トリフォリウム王国に匹敵する資金力と他国へのコネを保有している。そのため、我々ではなく、あちら側に付く国も多い事だろう。そうでなくとも、クロガネ王国の覇権を良く思わない輩は多い。此度の動乱をクロガネ王国滅亡の好機と捉えている国もある筈だ」
”地下水道”内において、クロガネ王国はどちらかと言えば嫌われ者の類ではあった。
弱肉強食がモットーな魔族と言えど、オーガと言う種族に顕著な、暴力で無理矢理他者を従わせる支配の方法に反感を持つ者は存在する。
私も初めてヘイロンを目にしたのが、彼が属国の王を斬り捨てている所だったので、とんだ暴君だと思ったものだ。
だから、これを機にクロガネ王国を打倒しようと思い立つ者が現れるのも当然と言えば当然だった。
「始まってみないと何がどうなるか分らんが。兎に角、気が抜けないのは確かだ」
そう言葉を結ぶヒイラギ。
そんな彼に、私はここ数日考えていた計画を話してみる事にする。
「ヒイラギさん、クロガネ王国は二正面作戦を強いられている訳ですが、この苦労をあちらにも____リリウミアにも負って貰うって言うのはどうでしょうか」
私がそう口にすると、ヒイラギは「と、言うと?」と先を促してくる。
「何処かヒト族の国を焚きつけて、リリウミアと戦争させるんです」
「……ほう」
「そうすれば、クロガネ王国と同様、リリウミアは戦力を二分しなければなりません」
まだ、他の誰にも相談していない案だが、割と上手くいく自信があった。
トリフォリウム王国はヒト族の国とも繋がりを持っている。
そして、リリウミアをよく思っていないヒト族の国は地上にいくつか存在しているのだ。
それらを頼りに、リリウミアへの挟撃を実現出来ないかと思っているのだが。
「そうだな。実現出来れば、情勢は一気にこちらが有利になるな。試みの価値はあると思うぞ」
私の計画に前向きなヒイラギ。
「善は急げだ。俺はこの後すぐクロガネ王国にとんぼ返りの予定だが、お前もお前で思い付いたことは家臣達にでも相談して直ぐに実行に移すと良い」
そのアドバイスのもと、ヒイラギがクロガネ王国への再びの帰路についた後、私はヴァールとアーサーにヒト族の国を焚きつけると言う案を話してみる事にした。
「ヒト族の国を焚きつけ、地上でリリウミアとの戦争を起こさせる、ですか」
ヴァールは考え込むように沈黙した後、
「一つ、おあつらえ向きな国があります。ローズ連邦共和国です」
思い出したように、その名前を口にする。
「彼の国はダンジョンの利権を巡り、リリウミアと対立しています。ちなみに、ダンジョン以外にも幾つかの資源地を巡り争っているらしいです。そして、多くの議員が我々の顧客であり、秘密裏の親交があります」
説明するヴァール。
ローズ連邦共和国なら私も知っている。
リリウミアに居た頃、学校で習ったからだ。
仮想敵国と言えるほどリリウミアとは険悪な仲であり、そのため、あまり良いようには教えられなかった記憶がある。
「ローズ連邦共和国ですか。成る程、これは丁度良い」
と、口を挟むアーサー。
「実はあちらの内務大臣殿がシロメ国王陛下にご興味があるようで。是非、一度お会いしたいとの事です」
「ローズ連邦共和国の内務大臣がですか?」
少し驚く私に、アーサーは「ええ」と頷く。
どうやら地上のヒト族の国にまで早くも私の国王就任の情報は届いているようだ。
「陛下さえ宜しければ、ローズ連邦共和国にまで足を運んで頂きたいのですが」
アーサーの提案に私は黙って考え込む。
ローズ連邦共和国は高い国力と軍事力を持つ新興の巨大国家だ。
もし、これをリリウミアにぶつける事が出来れば、かなりの苦難を敵に強いる事が出来る。
ただ____
「ローズ連邦共和国まではどうやって行くんですか?」
「ここから北へと進んだ流域から、更に北へと進んだ先に彼の国の地下港があります」
「それって、移動にどれくらい時間が掛かりますか?」
「4日ほどの旅程になりますね」
つまりは往復で1週間以上の日数を要するという訳か。
戦争がいつ激化してもおかしくないこの状況で、あまり遠出はしたくはないのだが。
……とは言っても、やはりローズ連邦共和国の力は欲しい。
「分かりました。すぐに向かいましょう」
ヒイラギも言っていた。善は急げだ。
求める助力が得られるかは分からないが、この機会を逃すのは惜しい。
私はローズ連邦共和国へと赴く事を決めた。
「では、こちらも早急に足の用意を始めます。先方にも文で報せておきます」
そう言うと、アーサーは「失礼します」と断りを入れ、そそくさと何処かへ行ってしまった。
「陛下、我々も出立の準備を致しましょう」
ヴァールに目配せをされ、私も彼女と共に国を出る準備を始めるのであった。




