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最強のスキルってなんだろう  作者: にげたい
4/4

4人目

「で、私のスキルは…?」

「はい。錬金術ですね」

「錬金術…」

「はい。頑張ってくださいね」

ひらひらと手を振る受付嬢を尻目に鑑定所を後にした私は叫んだ。

「か、勝ち組だー!!」


case:4 錬金術


「じゃあこの素材複製しといてね」

「はぁ」

「あとあの鉱石2キロほど集めてきて」

「え、えぇ」

「それから食獣植物の蔓を5メートルほど頼むよ」

「………」


「やってられっかぁ!」

工房を出たところで私は叫んだ。スキルの鑑定から半年、現在私は錬金術に造詣が深いといわれる発明家の先生の助手となっていた。最初こそ右も左もわからない私に錬金の仕方、フィールドワークのいろは等それっぽい指南をしてもらったが、私が発明の材料をつくり出せるようになると味を占めたのか資材調達のすべてを丸投げされるようになっていた。

「とんだブラック上司だよ。地雷だよ。もう辞めたい…」

そもそも私は街の外に出ることのない職業に就きたいと常々考えていた。どんな職業でも適正スキルの有無で待遇は変わるもので万が一冒険に出ないといけないスキルが発現したらと日々怯えていた。そんな中私は内地向けスキルランキングで商人、薬師に続いて肩を並べる錬金術を手に入れたわけ。私は思った。勝ち組だ、と。それがどうですか。今や私の仕事の9割はフィールドワーク。それはもう、冒険者だ。ぐちぐち小言を吐き出しつつ先日自前で作成した気配を薄くする布を羽織る。覚えた錬金術から生まれた逸品だ。発明家のような複雑な機械は作れないものの、素材の組み合わせで変わったモノを作ることができるのが錬金術だ。ちなみにこれは一般的な布とカメレオン型の魔獣の核を合わせたモノだ。

「さっさと終わらせて帰ろ」

そそくさと鉱石、蔓を採取し工房へ戻った。


「先生、頼まれてたものとってきましたよ、っと」

ゴトン、と工房の机にそれぞれ並べ言う。

「うわ!君、いつのまにいたの」

「たった今帰りましたけど」

「なんかぼやけるんだけど、なに?この布」

ピラっと布をつまんで先生が言う。

「フィールドワーク用の気配を薄くする布ですが」

「ほぇー、また変わったもの作ったね」

「安全に仕事するための産物ですよ」

皮肉を込めて返すと先生は少し考え込み言った。

「例えばさ、自由に形を変える金属とかって作れる?」

「金属…ですか?やったことないですけど、どうかなぁ」

「そんな代物があれば僕の研究も飛躍的に進むんだけど」

「はぁ…」

「じゃあできた暁にはそれなりの金銭と暇をあげるから頑張ってみてよ」

「!!」

先生はそういうと素材を持って工房の奥に引っ込んでしまった。


「自由に形を変える金属ねぇ」

お金と休暇を貰えるとあって意気揚々と取り組んだものの全く目処が立たない。淹れてあったコーヒーもすっかり冷めてしまっていた。そもそも金属は硬いからこそ重宝されるものであって形が変わるように柔らかいものだと意味がないのではないか。ぐつぐつと煮え切らない思考を断とうとコーヒーを淹れなおそうと残りのコーヒーを煽ったときにハッとした。

「液体の特性を交えたら…」


目覚めの一杯を飲もうとキッチンへ向かったところで工房に彼女がいることに気がついた。

「おはよう。君が徹夜なんて珍しいね」

「おはようございます、先生」

カチャカチャとコーヒーを淹れる準備をしつつ彼女に話しかける。

「それで、一晩で何か掴めたかい?」

「ええ、できましたよ」

「…なんて?」

「自由に形を変える金属、できました」

そういうと彼女は鈍色の液体が入ったバケツを指さした。

「これが?」

「名付けてスライム合金です」

そう言い彼女はバケツをひっくり返す。ゴトン、と床で音を立てた金属塊は次の瞬間にはドロドロと床に広がった。が、パチンと彼女が指を鳴らすと液体は立方体に形を変えた。

「…触ってみても?」

「どうぞ?」

コンコンと叩いてみるも通常の鉄塊のような手応えが返ってくる。柔らかくもなければ水っぽくもない。

「これは一体…」

「名前の通り、スライムの核と鉄、水銀を掛け合わせたモノです。指の音で液体と個体を切り替えることが可能なんですけど…」

するとスライム合金は球体に変わりピョコピョコ跳ね始めた。

「この通り、スライムを核にしたせいか動き回るんですよね…」

はぁ、と彼女はため息をつく。が、

「素晴らしい…素晴らしいよ!」

「これ、欠陥ですよね?」

「そんなことはない!これで停滞していた研究はなんとかなりそうだ!このスライム頂いてもいいかい!?」

「はぁ、いいですけど」

「ありがとう!疲れているようだし少し休んでくるといい。そうそう、報酬も用意しておくから夕方にまたおいで」

僕はスライム合金を抱えると再び作業部屋へ戻った。


「先生、夕方来いって言ってたけどなんの用事だろ」

陽も落ちようかという頃私は工房の扉を開いた。

「おかえりなさいませ、マスター」

「あぁ、ただいま…?だ、だれ?マスターって?」

「?もうお忘れですか?」

「えっと、あなたみたいに綺麗な人知り合いにはいないはずなんだけど」

「あぁ、姿が変わったせいですね」

と、彼女はいうやいなや指を鳴らし鈍色の球体になった。

「まさか…」

「そう!今朝のスライムだよ!」

バン!と作業場の扉を開くと同時に先生が叫ぶ。

「さっきの姿は一体…」

「そう、実は僕はゴーレムの研究をしていたんだがどうにも手詰まりでね、君に頂いたスライムくんをベースに形状の記憶や声帯パーツを組み込んで今し方完成したんだよ」

「は、はぁ」

「いやぁ、こんなに創作意欲の湧く発明は久しぶりで年甲斐もなくはしゃいでしまったよ」

ポリポリ頭を掻きながら先生が言う。

「それで、マスターって?」

「うん、彼女を君の助手にと思ってね。僕はほら、これからこの成果を学会に持ち込もうと思ってね。しばらく留守にするから後は自由にしてくれていいよ。半年か下手すればもっとかかるかもだけど」

「えぇ!?」

「じゃ!後よろしくね!あ、お金はテーブルに置いてるから持っていってね」

そういうと先生は飛び出していってしまった。

唖然としていると足元の球体が言う。

「指パッチン頂けますか?」

「あ、ああ、はい」

パチンと鳴らすと球体は先程の女性に姿を変えた。

「ふむ、自分で人型になれないのは不便ですね。改良の余地あり、です」

「そ、そうね」

「これからどう致しますか?」

「ん、ここのところ働き詰めだったからしばらくゆっくりしようかな」

「左様ですか。では私はマスターのそばについておりますのでなんでも申し付けてください」

「あ、ありがとう。貴方、どうしてそんなに賢いの?」

「先生が私を作り上げてから時間がありましたので使用人の極意という書籍を読んでおりました」

「それでそんな口調なのね。それにしても先生ったら成果物である貴方を持って行かなくてよかったのかしら」

「それについては心配ありません。私の分裂体をいくつか持っていかれましたので」

「…分裂体って?」

「はい、私は金属を含むと体積が増えるようなのでいくらか切り離して先生にお渡ししました。残念ながら私のように知能は持ち合わせておりませんでしたが問題ないとのことでした」

どうやら私の知らない間にスライム合金は高い知能と特殊な技能を発現した様子。ピクッとなにかを感じたのか彼女は外を見つめている。

「どうかした?」

「翼竜です」

「へ!?」

慌てて外に出てみる。がなにもいない。

「もう!冗談やめてよ…ね」

ズガン、と背後になにかが落ちてきた。ゆっくり、ゆっくり振り向くと

グギャアァアアア!!!

5メートルはくだらない体躯から絶望必至の咆哮を繰り出してきた。いくら街外れに構えた工房とはいえ街の結界の範囲内だ。魔物、さらにいえば上位種など出るはずもない。が、現に目の前に現れた。終わった。死んだ。そう思ったとき翼竜ワイバーンは再び啼いた。

グギャアァアアア!!!!!

しかしそれは悲痛を訴えるような苦悶の音だった。見れば全身を穴が穿ち出血している。そのまま怪物は崩れ落ちた。

「危ないところでしたね、マスター」

「ほぇ?」

「お怪我はありませんか?」

「う、うん。ないけど…これ貴方が?」

「ええ、身体の一部を高速で発射しました」

「えぇ…」

「引きました?」

「そりゃ引くよ!こ、この翼竜!1人で対峙したらまず命はないモンスターだよ!?」

「隙だらけだったのでつい」

「瞬殺していいモンスターじゃないからね!?」

「というわけで戦闘はお任せあれ、です」

どこか誇らしげな彼女に毒気を抜かれてしまう。

「…いつまでも貴方じゃやりづらいわね」

「というと?」

「キュー。貴方の名前は、キュー」

「なるほど。気に入りました」

「そ?よろしくね、キュー」

「はいマスター。さしあたってこの翼竜を換金することを推奨します」

「でも、こんな巨体どうやって」

パチンとキューは指を鳴らし球体になると上半分が平らになり下半分から手のようなものが伸び翼竜を上に積んだ。

「なんでもありね」

「万能スライムです」

キューの顔は見えないけど多分ドヤ顔だ。


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