3人目
「よう!ポンコツー!」
「…誰が」
「アンタに決まってるでしょ!」
「やかましいわ」
「なんでこんなやつが主人かねー」
「なりたくてなったんじゃないっての」
「「「はぁー」」」
case3:死霊術
魔王軍予備軍所属の私がある日目覚めたスキルは所謂当たりの死霊術。ただ、
「よう!ポンコツー!」
「うるさいよ、てか呼んでないのに出てくんな」
「いつ出てこようがアタシらの勝手でしょー?」
このうるさいやつら。片っぽは骨の鳥。もう片っぽは骨の猫。でもサイズは手のひらにも乗るくらいだ。こいつらがとにかく厄介。勝手に出てきては好き勝手言いやがる。こっちの言うことなんて聞きやしない。挙句に
「お、死霊術師の嬢ちゃんじゃねえか。どうだ?使える奴は呼べるようになったか?」
「いや…」
「おいおいー、やめてやれよー。みてみろコレ!このちっちぇーのいるだろー?」
「やいや、失敬!あんまり小せぇから見えなかった!」
「「がははは!!」」
「………」
いたたまれなくなり、足早に立ち去る。
「やい!ちっとは言い返したらどうなんだ!ポンコツー!」
「そうよ!アタシたちだって立派な使い魔でしょー!?」
「っ!!」
「「あっ!」」
私はあいつらからとにかく離れたくて思い切り走った。近くの林に入り込み振り切ることができた。
「はぁ、はぁ…ふぅー」
息を整えながら同期の言葉を思い出す。
「なぁ、聞いたか?あそこの女、死霊術だってよ」
「マジ!?一発エリート確定じゃんか!俺なんてよー」
「いやそれがどうもな?呼べるやつが2体だけみたいなんだよ」
「はぁー?なんだそれ?死霊術ったら山程手下召喚して一旅団組めるのが普通じゃねえの?」
「なー、しかも戦力にすら期待できないらしいぜ。きっと辺境に飛ばされて終わりだな」
「へー、そんなやつもいんのな。やー、そう考えると普通の魔法職の俺も捨てたもんじゃねーな」
「ほんとほんと、まともにやれるだけ感謝だな」
補給を終えた彼らが立ち去った後も私は情けなさからしばらく動く気になれなかった。
「同期の言う通りきっと配属されるのは田舎の辺境だろうな…里のみんなにも顔向けできないしこのまま埋れて終わるのかな…」
深いため息をついてしまう。
ガサガサ、と林が揺れた。もうあいつら嗅ぎつけたのかと目を向ける。
「おや、こんなところで誰かに会うなんて珍しいね。なにやらお疲れのようだけど、どうかしたかい?」
「あ、いえ、その…」
「ふふ、そうだ。立ち話もなんだから」
ローブに身を包む女性は手をパンパンと叩く。
「わ、わわ!」
パキパキと地面から現れた骨が椅子やテーブルに形を成した。そばには1体スケルトンまで。
「まあまあ座りなよ。悩みがあるならお姉さんに話してごらん?」
呆気にとられていると椅子に腰掛けて彼女は言う。
私は思わず言った。
「弟子にしてください!!」
「へ?」
「そっかー。同じ死霊術でも結構違いがあるものなんだね。私の場合は質こそアレだったが数はそこそこ出せたからなー」
「やっぱり才能なんでしょうか…」
「んー、そうだ!ちょっとその子たち召喚してみてよ」
「は、はぁ。その、言いづらいんですけど喚び出し方がわかってなくて…」
「ああ、それなら簡単だよ。頭で念じれば出てくるはず」
「や、やってみます!」
ぐっ、とあいつらの憎らしい顔を思って念じた。
「うぉ!なんだよポンコツー!せっかく魔鳥とよろしくやってたのによー!」
「そうよ!アタシだってイケメン猫あと少しで落とせてたのにー!」
現れるやいなやギャーギャー騒ぎ出す。
「すみません、こんなうるさいので」
「「こんなってなんだ!!」」
うるさい使い魔をよそに彼女を見るとあんぐり口を開けている。
「あの…?」
「喋ってる…喋ってる!?え、なにこれすごい!」
彼女は目を輝かせ2匹を細かく観察しだした。
「い、いててて!おい!丁重に扱いやがれ!」
「あ、やだちょっ、くすぐったいー」
彼女は2匹の抗議を無視して夢中で弄っている。しばらく待つと気が済んだらしい彼女が言った。
「いやーごめんごめん。あんまりレアな子だったから夢中になっちゃった!」
解放された使い魔は共にぐったりして動かない。
「おそらくだけど原因がわかったよ」
「え、本当ですか!?」
「うん、彼らはどうも古代種のようだね。それも知能のあるユニークモンスターだよ」
「はぁ…」
「つまり、この子たちで君の召喚できるキャパいっぱいまで使っちゃってるってこと」
「ええ!?それってなんとかならないんでしょうか」
「不服かい?」
「あ、いえ、でもやっぱり大群とまで行かなくてもある程度多く召喚できた方がいいかなって…」
「ふむ」
彼女は少し考え込むと、パチンと指を鳴らした。すると、辺りが地響きで包まれる。
「な、なにを…?」
「まあ見てて」
言うが早いか、地面が割れさらに巨大な腕が天に伸びる。その後も地響きは止まず辺りの林が跡形もなくなる頃には巨大なスケルトンが顕現していた。
「ちょっとデカすぎたかな…?」
「ちょっとなんてもんじゃないですよ!」
ゆうに10数mはあるであろう巨人がコチラを見下ろしている。
「これはいったい?」
「うん、彼らの相手をしてもらおうと思って」
「へ?彼ら?」
「そ、彼ら」
と巨人を仰ぐうちの使い魔を指差す。
「いやいや、いやいやいや!!どう考えてもこいつらじゃ無理ですって!」
「どうして?」
「どうしてって…それは」
「まあ無理もないか。実戦でたこともないんだもんね。ねぇ、君たち」
彼女は使い魔の前で屈む。
「あれ、倒せる?」
「こいつ次第」
「そーね」
使い魔は私を見る。
「わ、私?」
「てめえがシャキッとしねぇから俺らまでポンコツなんだよ!このポンコツー!」
「そうよ!なにが悲しくてこんな主人についちゃったのかしら!こっちのお姉さんの方がいくらかよかったわ!」
「おや、私はいつでも歓迎するよ?」
「おべっかに決まってんでしょ!アンタんとこもやーよ」
「んで、てめーはやる気あんのか?ポンコツー」
「やる気って…」
「この子たちの言う通りアレに勝てるかは君次第だよ」
「で、でも」
「難しいことは考えなくていい。ただ、彼らに勝つよう命じればいい」
「わ、わかりました」
私は使い魔の前に膝をつき言った。
「た、戦って!」
「「……」」
「アナタたちがやれるっていうなら私の魔力全部持ってっていい!だから!!勝って!!!」
「へっ!最初っからそんくらいの気概持ちやがれ」
「全くよ。まあ見てなさい」
そういうと彼らからオーラが立ち昇りメキメキ音を立て一瞬鋭く輝いた。突然の眩さに閉じた目を開くと
「竜…?それに虎…?」
それぞれ5mほどの凄みを放つ巨体となっていた。
「まあ、上出来だろ。こいつはこれが限界だろうけどな」
「そっちこそ、そのしょっぱい身体が精々でしょうに」
「んだと?」
「なによ?」
そのままギャーギャー言い合いを始める。
「ちょ、ちょっと!いいから早く戦いなさいよ!」
「は、ハハ…」
「?お姉さん?」
乾いた笑いを出すお姉さんの視線を追う。相変わらず骨の巨人がいるだけ。が、突然ガラガラと瓦解し始めた。
「どうなって…?」
「アタシがトドメさしたのよ!」
「いーや、オレが与えたダメージのがでかい!」
ギャーギャー言い合う中で聞こえた。
「…もしかしてアナタたちがやったの?」
「「当たり前だろ!」でしょ!」
理解できずポカンと口を開け骨の瓦礫の山を見つめる。
「いや、まさかこれ程とはね」
「お姉さん」
「古代種とは本来現代じゃ考えられない破格の戦闘力を持っていたと言われていてね?故にその使役が死霊術師の夢と言われているんだけれど、契約は不可能とされていたんだよ。なにせそれを呼ぶには膨大な魔力が必要と考えられていたからね」
「それじゃあ」
「うん、君はどうやら途方もない魔力を有しているようだ。それも2体だなんて、とても考えられないよ」
「はぁ…」
気がつけば使い魔はいつもの姿に戻り尚いい争いをしている。
「もしかしたら既に私を超えているかもね」
「…あの!正式にお姉さんの弟子にしてもらえませんか?」
「え、ああ、それは構わないが」
「私、死霊術なんててんで素人だしお姉さんの下で勉強したいんです!だから!」
「うん、こちらこそよろしく頼むよ」
「よかった…あ、軍団長にお話しないと」
「ん、それなら心配ないよ」
「え?」
「アレも私の使い魔だから」
瞬間冷や汗がとめどなく溢れ出す。私は、
「…お姉さん、失礼ですがどこの所属の方ですか?」
「所属はないんだ。魔王だもの」
私はとんでもない方に弟子入りしていた。