2人目
「貴方のスキルは吟遊詩人です」
「…タンバリンでもいけますかね?」
「「………」」
case2:吟遊詩人
職業案内所にてスキルを鑑定してもらい外出たところで項垂れる。吟遊詩人。まあ、当たりではない。恐らくは。人気ないことは間違いないだろう。なんでも、味方を鼓舞したりモンスターを混乱させたり…所謂バッファーとかいうやつ。自分の火力は望み薄。これってさ、
「ぼっちが詰んじゃうやつー」
思わず愚痴が溢れる。
はぁーーーっとため息。
「お兄さん、どうかされました?」
項垂れていた頭を上げるまでもなく、身の丈には少し大きそうな聖職者のローブを身につけた少年がいた。
「あー、ちょっと自分の将来が思いのほか暗そうで」
〜事情説明中〜
「なるほど…」
「なかなかヘビーだろ?」
「でも!そんなに悲観することないんじゃないでしょうか!」
「ってもさー、パーティ組んでもらえるアテもないし俺自身何ができるかわかんないから売り込みようがないんだよなー」
んー、と少年は考え込む。と
「よかったら僕と冒険してみませんか?」
「えー、君と?」
「はい!こう見えて僕は冒険者でしてご迷惑でなければですけど」
「…少年。ありがとな。俺を慰めるためにそんな下手な嘘までついて、情けなくなるぜ」
「そんな!それに僕は嘘なんてついてませんよ!」
「だって君いくつよ?まだ成人もしてないでしょうが」
「…失礼ですが、お兄さんおいくつですか?」
「俺?17になるけど」
「あ、じゃあ僕のひとつ下ですね!」
「ほーん、そりゃまた冗談キツいなー」
「む!これ!冒険者証です」
「はーん?…はーん!?!?」
「で、少年いや兄貴。ダンジョン行くって流石に時期尚早じゃね?」
「ふふん!僕は見ての通り神職ですので回復魔法はお手の物です。欠点は火力ですがお兄さんのバフに期待して、いけるという算段ですよ!」
「まあ、危険じゃないなら」
あれよあれよという間に俺ら2人は街を出て近くのダンジョンへきた。
「ここで頻出するのはアンデッド系なので相性よしです」
「…俺にあんま期待しないでね」
「とりあえずお兄さんのスキル使ってもらえますか?」
「んー、こんな感じ?」
シャンシャン、シャンシャンとリズミカルにタンバリンを振るう。
「…」
「どう?なんか変わってる?」
「特段なにも感じないですね…」
「「………」」
なんとも言えない空気に包まれた。と、コツコツとなにかの音がする。犬だ。骨の犬が出てきた。
「おい、なんか出てきたぞ!」
「ああ、スケルトンで一般的な犬型ですね。とりあえず僕の力も見せますね」
十字架片手にほっ、というとその手は光り、犬の魔物が続いて光った。かなりダメージが入ったように見える。
「もういっちょ!っと、まあ2回でやっつけれるくらいですね」
1度目同様に攻撃すると魔物はバラバラと崩れた。
「やるじゃん兄貴!」
「いえいえ!たまたま単体だからよかったですが、複数いると集中できませんしこう上手くはいきません」
「あー、やっぱり沢山いるときもあるよなー」
「もう少し火力があればサクサク倒せるんですが」
火力か。タンバリンを鳴らしつつ口に出してみた。
「兄貴の攻撃力よ上がれ!」
「?わ、わっ!」
俺は先程はなかった手応えを感じた…と同時に疲労感に襲われる。兄貴もなにか感じたようで困惑している。
「ど、どうだ?兄貴」
「え、ええ、なんだか力が溢れるような感じがします!」
「そうか…わ、まずいぞさっきの足音!しかも多いぞ!」
言うが早いか先程の魔物と同じ方向から4体もの骨犬が現れた。相手は様子を伺っているようでジリジリ距離を詰めてきている。
「一旦引こ「任せて!」ぅええ!?」
十字架は先程より大きい光を放ち魔物側も先程より広い範囲が光り3体がバラバラに。撃ち漏らした1体が襲いくる。
「うらぁ!」
兄貴は正拳突きを繰り出し反撃。魔物はまたもバラバラに砕けた。
「すっ…げーじゃん、兄貴」
「は、はは。魔法もそうでしたが素手でもこんなに火力が伸びるなんて」
話を聞けば当然素手で攻撃など通るはずもなく、考えられるのはスキルによるバフのおかげだという。
「やはりお兄さんのスキルは破格の性能でしたね!」
「え、そうなんかな」
「ええ!僕の目に狂いはありませんでした!」
そんなこと言ってなかったじゃん。
あの後しばらく湧いてくる敵で訓練をし帰路に着く。
「持続時間はあるものの乱用は負担が大きそうでしたね」
「ああ、兄貴の白魔法でも疲労が取れないってことはMPってやつでスキル使ってんだな」
わかったことがいくつかある。バフの持続時間については相手が倒れるまで。戦闘を終えると消滅する模様。次に俺自身にもかけることができた。そして発動条件は[対象]と[内容]を指定することだった。対象は1人ではなくまとめてでも可能で、内容は攻撃力のほか防御、速さなど色々できる。ただしまとめてかける際には単体と比べ疲労感が大きく感じた。対象の数によって消費するMPが大きくなるようだ。ちなみにタンバリンは関係なかった。
「とりあえず、今日は助かったよ兄貴」
「そんな!僕は」
「いやほんとさ、頭真っ白かつお先真っ暗で結構参ってたんだわ。だから本当、ありがとな」
「お兄さん…」
「でさ、無理にとは言わないんだけど、俺とパーティ組んで貰えたらすげー助かるんだけど」
「も、もちろんです!むしろ僕でいいのかってくらいで、きっとお兄さんもっといいパーティでも引っ張りだこになりますよ?」
「だったら尚更兄貴のために俺の力を使わせてくれ。あんたは俺の恩人なんだから」
「…ありがとうございます!それではよろしくお願いしますね!」
「おう!こちらこそよろしく頼みます!」
コツ、と俺たちは拳を合わせた。
「あ、ひとつだけ」
「んー?」
「今後は兄貴じゃなくて姉貴で!よく勘違いされるんですけど僕、女性なので」
そのままスタスタと歩いて行く兄貴。いや姉貴。
「は?」
処理が追いつかず俺はしばらく動けなくなっていた。