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カルマン嬢と恋愛譚  作者: じじ
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パメラの許し3





 顔を上げた先には、いつの間にか小奇麗な男が立っていた。彼は杯についた埃を軽く払うと、パメラを見た。


「こんなところで何をしているんだい?」


 男は優しい声で言った。パメラが屈んだまま怯えたように彼を見上げると、男は困ったように微笑みながら、もう一方の手を差し出した。


「驚かせてすまない。僕はモーリス・ドローシェだ。一応この屋敷の持ち主でね」


 パメラは彼の手を取ると、小さな声で名乗った。


「パメラはこんなところで何をしていたんだい?さっきの子たちは君の友達かい?」


「友達なんかじゃないわ。私の大事な首飾りを盗んでここに隠したのよ。返してほしいなら自分で取りに行きなさいって。だから私、この杯を……」


 彼女はそこでモーリスが屋敷の主であるのを思い出して、消え入りそうな声で「勝手に入ってごめんなさい」と言った。

 モーリスは杯とパメラを交互に見た。


「ちっとも構わないさ。持ち主が言っているんだ。気に病むことはないよ」


 彼は銀の杯を机の上に戻すと、もう一度パメラに微笑みかけた。彼の端整な顔立ちに彼女はしばらく見惚れていたが、はっと我に返り尋ねた。


「モーリスさんはここに住んでいるの?」


「まさか! 住んでいたのは祖父だよ。僕は父からこの屋敷を譲り受けたんだ。でも、古くなってるし危ないから、そろそろ取り壊そうという話になってね。今日は屋敷の様子を見に来たんだ」


「壊してしまうの?」


 パメラは彼との会話が途切れないように、次々と言葉を投げかけた。彼は快くすべてに答えてくれた。


 気づけば夕日が空を赤く染めていた。

 パメラは話している間も、モーリスを見つめていた。モーリスの整った顔立ちだけでなく、優しげな話し方や物腰の柔らかな立ち居振る舞いは、パメラの心を掴んで離さなかった。彼女はモーリスとの別れを惜しんだ。すると、モーリスはパメラに囁いた。


「君ともっと話がしたいな」


 今夜きみの家に行ってもいいかい? モーリスは彼女を覗きこむようにして見つめた。パメラは頬を夕日のように赤く染めると、俯きがちに「ええ」と答えた。


 首飾りを持って帰ってきたパメラに、少女たちは驚いた。いじめっ子たちは面白くなさそうに彼女を一瞥しただけで、もう悪口を言ったりからかったりはしなかった。他の少女たちは好奇心に声を弾ませ、魔物はいなかったかと口々に尋ねた。

 パメラは澄ました顔で、誰もいなかったわと答えた。モーリスとのことは自分だけの秘密にしておきたかったからだ。


 その晩、彼女は眠らずモーリスを待っていた。

 ふいに外から声が聞こえた。モーリスがパメラを呼んだのだ。窓を開けると、夜闇から彼が姿を現した。


「中に入ってもいいかい?」


「ええ、もちろんよ」


 彼は屋敷でそうしたように、そっとパメラに囁いた。


「君のことが知りたい。何か話してくれないか」


 彼女は戸惑いながらも、彼が自分を知ろうとしてくれたことを嬉しく思い、話を始めた。

 モーリスはパメラの話を楽しそうに聴いてくれた。彼女は嬉しくなって、喉が枯れるほどたくさん話をした。夜が明けることになると、モーリスはまた来てもいいかと尋ねた。もちろんだと答えると、彼はパメラに優しく笑いかけて帰っていった。





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