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島国の冒険者  作者: 御嶽の山と天竜の川
初めての依頼
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第7話 初めての依頼と不幸中の幸い


 ギルドですべき事を全て終えると、ほくほく顔で通りを歩いて行く。


 初めての依頼にしてはなかなか良い結果に終わった用に思う。

 今回の成果は、食費に換算して2日分。

 これは3食、食べられるだけ、くっそ高っかい野菜類までバランス良く取っての計算だから、実質はもっとあるだろう。


 この現代では、お金はほとんど仮想通貨で換算されるので、データの移し変えができるマネーカードが一般的だ。

 だがしかし、硬貨や紙幣が消えた訳ではなくて、ギルドや最後にたった一つ残った国営の銀行で差し替えをする事もできる。

 ここら辺はわりかし複雑なのだが、元々全てマネーカードで行われていた経済活動が、ダンジョンの地上進出で一気に滞り、経済活動がストップしてしまったらしい。

 要するに、マネーカードの信用が無くなってしまったのだ。

 それを打破するために、旧時代のマネーカード。

 即ち硬貨や紙幣を導入して、それが今でも使われている、と云う事だ。


 だから僕が今持っている財布はとても重い。

 硬貨や紙幣で依頼料を払ってもらったからだ。

 もちろん重いのは気持ち的に、だけどね。


 とは言えマネーカードの方が持ち運びには便利だ。

 なのになぜ硬貨や紙幣に?

 と云うのもマネーカードはそれ自体に結構お金が掛かるのだ。

 もっと高位の冒険者のギルドカードにもなると、それ自体がマネーカードになるそうだが、今の僕には夢のまた夢。

 だから今、僕の懐はとても暖かい。


 だけどこれより二週間後。

 魔術の講習を受ける為に何日も依頼をこなせない日が続くだろう。

 だから残念な事に、稼いだお金は貯蓄しないといけない。

 当然、食費もだ。

 ・・・ぐすん、悲しい。


 どうにも百面相を演じていたようで、通りですれ違って行く人がぎょっとしていた。

 少しだけ、本当に少しだけだけど恥ずかしくなった。

 いや、白状しよう。

 とっても恥ずかしかった。

 どうにも気分が高揚している様だ。

 例えるならば、初任給をもらった新人サラリーマン?

 うん、少々浮かれても仕方ないな。


 とても恥ずかしかったので、逃げる様にして脇道にそれる。

 いくつか角を曲がるとようやく落ち着いてきた。

 大通りに比べ、人通りも少なく、両脇から曇り空を被い隠す様にして建っている2.3階建ての建物は大分ボロボロだ。

 おそらく修理等も殆んどされていないのだろうな。

 両手を広げると手の先と先が触れそうな程に道幅が狭い通り。

 転がっているゴミ箱からは、何か形容し難い腐臭が漂ってきている。

 いつの間にか所謂裏通りと、呼ばれている所にきてしまった様だ。


 不味い。

 これは非常に不味いぞ。

 ダンジョンの侵攻から早うん十年。

 初めこそ生き残った全ての人は一致団結して対抗していたそうだが、これも人間の業なのか、どこにでも悪い事を考える人はいるもので、少しでも余裕ができると、他人から暴力で身銭を巻き上げる、質の悪いやくざ者みたいな人たちもいるのだ。

 もっと早く産まれたかったな。

 なんて、思わないでもないけれど、その時はやくざ者みたいな人たちが存在する余裕もなかったと云う事なのでやっぱりこのままでいいや。

 やくざ者、やくざ者と言ってはいるけれど、彼等もまた、その街の秩序を一定に保つ為に必要な存在なのだ。

 だからと言って僕がボコられて金品を巻き上げられるのは御免なので早くこの通りから逃れないといけない。


 結構焦ってしまったので小走りになってしまったのが悪かったのか、どこかで曲がる所を間違えた様だ。


 ・・・つまりは、迷った。


 はい⁉

 ちょっと待ってくれ。

 いや、待って下さい、お願いします天の神様仏様そして道の神様の道祖神様。

 不味い、不味すぎる。

 このままだとやばい奴らに囲まれてリンチされて無一文になってしまう。

 だが、そんな心配ももうしなくても良くなった様だ。


「おい、止まれ。痛い目に合いたくなければ俺たちに金を渡しな」


 後ろから地の底の呼び声のような声が聞こえてきたので、錆の浮いた機械の様に首をギギギッと回すと、そこには柄の悪そうな3人の男達が立っていた。

 挙動不審に裏通りをうろちょろしていたのが悪かったのか、どうにもいい鴨認定されたみたいだ。


 こちらに声をかけてきた男は黒い髪を短く刈り込んだ大男で、丸太のように太い腕を組んで仁王立ちをしていた。

 腰には肉厚の長剣が提げられている。

 その影に立っているのは、長身の男と小男だ。

 長身の男の手には直刀が握られており、背を壁に預けてこちらににまにまとした視線を送ってきている。

 小男は煤けた茶色のマントを羽織っており、得体のしれなさを醸し出していた。


 心配じゃあなくて、これ等を切り抜ける為に頭を使わないといけない様だ。

 指し当たってすべき事はなんだろう。

 頭を働かせてみても早々いい知恵が出てくる訳もない。


「ええと、僕は最近此処にきたばかりでして、こういう時、まずどうしたらいいか分からないんです。どうしたらいいんでしょう」


 取り合えず、会話を試みる事にした。

 不幸な人違いの可能性に掛けた訳だ。


 痛い。

 会話によって隙でも出来ないかなー、と思っての行動だったが、下手にそんな事をしたのが間違いだった。

 男達はそんな僕にげらげらと笑い始めたが、それを隙と感じた僕はすかさず背を向けて逃げ出した。

 そんな行動をとられたら、不幸な人違いである可能性は無いだろうから。

 まあ、それを間違いだったとは思っていない。

 僕はむしろ勇気のある方だっただろう。


 で、あっという間に追い詰められた僕は、裏路地の土の上に抑えつけられている訳だ。


 駄目だ、此処から逃げおおせられる自信が欠片も湧かない。

 倒れた時に唇を切ったようで、口の中に鉄臭い血の味を感じながらどうにかして逃げようと体をよじってみるも、僕を上から押さえつけている大男はどうしたという事も無さそうである。

 むしろ、体をよじった事によって腰が痛い。


 その時、その場に居た誰も予想しなかった事が起こった。

 だけどそれは僕にとって今日一番の幸運だった。


 いつの間にか彼等の後ろに人影が一つ。

 その人影は無造作に歩いてきて、困った様にこう言った。


「なぁ、てめぇらリンチの最中のところのようだが少しいいか?通行の邪魔だ。退け」


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