第6話 初めての依頼と完了
「お次の方、どうぞ」
僕の前に2.3人列になっていたので、最後尾に並んでいたが、少しすると順番が回って来た。
「今日は、今泉さん。朝に依頼を貰いました宇野 信一です。お陰様で無事に依頼を果たす事が出来ました」
そう言って頭を下げると、今泉さんは目を瞬かせて、
「まあ。今朝の人でしたか。依頼は達成出来たんですね。少し驚きました」
と、言ったが、達成できていなかったら資金難で死んでるか、魔物に食われて死んでるかだ。
どちらにしろ達成できていないと生活出来ない。
この依頼、結構ギャンブル要素が高かったのだ。
で、最後に問題が1つ、残っている。
「ええ、お陰様で。処で依頼の品は、ここで提出して、鑑定もやって貰えるんですか?」
そう、それは即ち、採取した物に値が付くか、ということである。
ここで値が付かなければただ無駄に体力と精神力を消費した事になってしまう。
目に力も入ろうという物だ。
今泉さんはと云うと、少し慌てた様子で、
「はい、こちらで提出、鑑定まで可能ですよ。ここの窓口は買い取り業務もしていますから」
と、身振り手振りを交えて説明してくれた。
少し可愛い、と、思ったのは内緒だ。
内心、そんな事を感じていた事は少しも顔に出さず、
「では、依頼の確認と、採取物の買い取りと鑑定をお願いします」
心なし微笑みを浮かべる事を心がけて、背負っていたリュックサックを、どさりと受付台に置き、受付台が汚れ無いように下にぼろ布を敷いてから、中から『メイキュウアブラギグ』の株を全て、並べて行く。
朝来た時に、新人に見える冒険者がそのまま獲物をどさり、と置いて受付台を汚してしまい、注意を受けていたのを見ていたので、その点に抜かりは無い。
人の振り見て我が振り直せ、とはこのことである。
・・・その新人冒険者は買い取り金額の減額食らってたから、ナ。
此で行動を変えなければ嘘である。
一方今泉さんの方は、
「こんなに一杯採って来たんですか!貴方、才能あるかもしれませんよ」
結構驚いてくれた様だ。
でも、ソロのままだと色々厳しいから早く強く成りたいな。
と、思う。
いや、パーティーも組みたいと思ってはいるんだけどね。
なかなか難しいだろう。
そもそも僕はコミュニケーション能力が高い方ではない。
そんな人間が一度流れた、自分だけいい食べ物が食べたいから冒険者になったんだー、なんて情報を簡単に覆せるとは、到底思えない。
そもそもの話、コミュニケーション能力が高ければこんな苦労もしていないんだし。
・・・悲しいのは現実だね。
今泉さんは一株一株、葉の裏までしっかりと調べて、何やら手元のノートに記入していた。
そうしてから顔を上げてキリッとした表情をして、
「買い取りの方は24株の内こちらの19株が可能です。また、残り5株は根元の茎が折れている為、残念ながら買い取りは出来かねます。次からは布か何かでくるんで持って来るといいでしょう」
と言った。
どうやら依頼は成功の様だ。
ありがたい。
これで今日も布団で寝られる。
心なしかホッとした面持ちで居たらしい。
何かほほえましい物を見るような目で見られていた。
僕は一つ咳払いをして、リュックの中から一角ウサギの角と、梱包された皮を出し、さらに用心の為に胸ポケットに入れておいた小指の爪程のちんまい魔石を取りだして、カウンターにカランと置いた。
今回の採取依頼で、街の外に出たので、ついでにこれ等の買い取りもやって貰おうと思った訳だ。
ほかにも採取した野草、薬草はあるのだが、そちらは自分で食べる方に回したい。
そもそも僕はどちらかと云うと田舎育ちなので、食べられる野草とかは覚えている。
と、言うか通学路の脇に生えているそれ等を採って御飯の足しにしたり、売ってこずかいを稼いでいた。
その繋がりで、家にあった植物図鑑を大体は暗記してしまった程だ。
ただし食べられる植物限定で、だけど。
とにかく薬草は専門の業者に回した方が実入りが良いだろうし、野草はそもそもあんまり数が無い。
そうして取り出した物も全部買い取ってもらい、依頼書に印をもらったら、大体2日分の食費になった。
やはり一番買い取り額が高かったのは魔石だった。
これは新人冒険者の生活を支える為に、政府が補助金を出しているからだ。
・・・ひん曲がった見方をすれば、魔石をもっと欲しいからと金で冒険者を釣っていると、云う見方も出来るか。
いや、さすがにそれは無いよね。
無いはずだ。
一通り売り付けると、『定期魔術研修申込み』について話をしておく。
「『定期魔術研修申込み』、ですか? 確かに可能ですが、良かったですね。定員20人で、宇野さんが最後の一名ですよ」
なんと、滑り込みで受講できるようだ。
しかし、危なかったな。
最後の一名とは、これは良い事があるかもしれない。
ほら、残り物には福がある、とか言うしね。