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島国の冒険者  作者: 御嶽の山と天竜の川
初めての依頼
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第3話 初めての依頼と戦闘


 跳び掛かってくるウサギに対して体を捻って咄嗟に避ける僕。

 しかし、不意を突かれた為にバランスを崩して転んでしまった。


 正面から突っ込んでくるウサギ、左腕を盾にして顔への直撃をさける。

 もう、ほぼ直感に従った結果だ。

 その直後、とてもウサギが体当たりしたとは思えない程の衝撃が盾にした左腕に走った。


 しかしウサギはここでミスをおかした。

 顔を守る腕ではなく胴体を狙うべきだったのだ。

 痺れが走る左腕でウサギを地面にはたき落とし、右手で体を跳ね上げる。

 当然右半身が跳ね上がれば左半身はすごい勢いで地面にぶつかるだろう。

 しかし、そこにあるのは地面では無い。

 ウサギだ。


 ごきゃぁ

 渾身の一撃!そんな効果音が聴こえて来そうな音がしたが、ウサギはまだ生きていた。

 それどころか立ち上がって再び体当たりをかまそうとしてくる。


 僕の肘はウサギの丁度首の所に当たった筈だ。

 それでも生きていると言うことは致命傷では無かったと言う事だろう。

 全く、魔物の生命力の高さは異常にすぎる。


 突進してくるウサギであるが、今回は不意討ちでない上に少しばかりの距離もある。

 しっかりと立ち上がった上で楽に回避できた。

 当然只、かわすだけではなくてちゃんと黒檀の杖でカウンターも仕掛けてある。

 下から上に、ウサギの首目掛けてえぐりこむ様に杖を突き入れたのだ。

 そのまま上にポイッと言う感じで跳ね上がげてやる。

 思ったよりも重かったが突進の勢いを利用出来た為、ウサギは近くの瓦礫に頭から突っ込んだ。


 死んだかな?

 しばしの残心のあと、恐る恐るウサギの体を杖でつついてやる。

 反応はない。

 よかった。

 どうやら完全に死んだようだ。


 このウサギ。

 魔物であるからか結構重たい。

 昔、テレビで見たウサギは簡単に持ち上げられる位軽そうだった。

 角の生えた頭を瓦礫から引き摺り出していたらそんな事を思い出した。

 そのままコンクリートの柱の影に引きずって行く。


 さて、目の前にある角の生えたウサギの死骸。

 図鑑では一角ウサギと言う名前だったか。

 革、角、それに肉が剥げた筈だ。


 ウサギの体を仰向けにひっくり返して首の頸動脈を切ってやる。

 こうした血抜き作業を挟むことでより肉が美味しくなるのだ。

 これで買い取りもいい値段になるだろう。


 一通りの血抜きを終えて、これ以上血が出ないようだ首を紐でくくってリュックサックに入れる。

 一気に重くなったそれを背負う前に、抜いた血の臭いが飛散してしまわないように、周囲にある砂利やら土やらを血溜まりに掛けておいた。

 マナーであると同時に、これ以上魔物が寄って来ないようにする為だ。

 僕は肉を食べるのは好きだが自分の体をむしゃむしゃされるのは御免だ。



 重いリュックサックを背負って瓦礫の山を乗り越える。

 直ぐに崩れてしまう足場の上に居るときに魔物に襲われてはたまらない。

 さいわいにも無事乗り越える事が出来た。

 精神的に少し疲れたので、まだ原型が残っているビルの一つに入って休憩することにした。



 元々は飲食店だったのだろうか。

 カウンター席がぐるりと奥への通路を囲っていたその廃ビルの一階は少しカビ臭かった。

 直ぐに敵を発見出来るように大ガラスが無くなってしまった店内の、出入口付近の柱に背を落ち着ける。

 座ると立ち上がるのが辛くなるので座りはしない。


 なんとか勝てたか。

 初めての戦闘だったが、それ故に不様だったな。

 敵の発見に遅れた。

 その為に怪我をするところだったのだ。

 装備は、気に入っていたフード付きローブの袖に穴が開いてしまい、手甲の方も少し傷がついている。

 警戒を密に。

 それを教訓にすべきだろう。


 反省、反省。

 いくらしてもしたり無い。

 杖術でも、剣道でも、格闘技でも、天才達は直ぐに先へと行ってしまう。

 一度の戦いからいかに多くの事を学びとる事が出来るかが大切なのだ。

 僕が知ってる天才達の多くはそれを容易くこなしてしまうが、凡人である僕にはなかなか難しい事だ。

 だからせめてしっかりと、反省点は洗いだしておこう。

 食への情熱と、生き汚なさだけは誰にも負けない自信がある。

 そこだけは負けてはならないのだ。



 一応の休憩を終えると、今にも崩れ落ちそうなビルを出て行く。

 もう気持ちはウサギ肉に傾いてしまっている。

 休憩中に肉は食べてしまうことに決めたのだ。

 皮と角は売って宿代に回す予定だ。

 解体も自分でやれば、一晩の宿代位にはなるだろう。


 道の脇に幾つか薬草や食べられる野草を散見したので採取して、あと2.3の通りを曲がれば北門にたどり着くといったところ。

 小さな交差点の角に立っている二階建てのビル。

 嫌な予感がしたので他より慎重に、ビルの角からそっと顔を除かせると、その先には一匹の犬がいた。

 魔物の一種で確か、魔犬だったかな。

 その体つきは筋肉質で中型犬位の大きさ。

 毛並みは黒っぽくてごわごわしていた。


 距離は20㍍程離れていて、向こうはまだこちらに気づいていなさそうだ。

 地面を嗅ぎ回っていた。

 

 昔は犬を食べる文化の国もあったそうだが、旨いのだろうか。

 とてもではないが食べれそうには見えない。

 何より僕は犬派なのだ。

 ちなみに猫もかわいいと思う。

 どちらにも良いところがある。

 それで良いと思うのだが。


 いや、問題はそこでは無い。

 不意討ちでない限り負ける事は無いと思う。

 で、あれば否やはない。


 杖をビルの横に立て掛けておく。

 近くの瓦礫から手に取りやすい大きさのものを選んで、音を発てないようにそっと拾い上げる。

 そしてそれを振りかぶって、おもいっきり魔犬に投げつけた。

 結構な速度で飛んで行った瓦礫は、魔犬の脇腹の上、丁度肋骨のある部分に命中。

 

 ギャウンッ!


 突然のことに驚いたようだが安心してくれ。

 直ぐにそんな事も感じられなくなる。

 ローブの留め具を外し、魔犬に向かって駆け寄りながら刀の柄に手を添え、居合いを放つ。

 吸い込まれるようにして魔犬の首に向かって行く刀の刃。

 しかし、流石に距離がありすぎた為かその狙いは外され、向かって右の前足を切り落とすに留まった。


 

 距離をとり、忌々し気にこちらを睨み付けてくる魔犬。

 その足からは血が流れ出している。

 刀を八卦に構えて、お互いにぐるぐると回りながら相手の隙を伺う。

 しかし魔犬は突如、身を翻して逃げようとした。

 そんな隙を見逃す筈もない。

 恨みを持たれた相手は、隙あらば徹底的に叩けと、そうおばあちゃんも言っていた。

 滑るように踏み込んだ足。

 放たれる刀の振り下ろし。

 そして反転し、襲い掛かってくる魔犬の牙。

 え⁉


 考えるより先に、体の方が勝手に動いていた。

 刀の振るわれる先がずれて、魔犬の頭蓋に打ち下ろされる。



 死ぬかと思った。

 僕の前に転がっているのは魔犬。

 その死骸だ。


 頭蓋をかち割られたその死体は最後に僕にぶつかって、その体液で服を染めた。

 お陰で数少ない僕の洋服が血やらなにやらで大変なことに。

 臭いがひどいので宿屋まで白い目で見られそうだ。


 ため息しか出ない。


 確か魔犬からはよく魔石が剥げるんだったか。

 それをせめてもの慰めにしよう。

 魔石が剥げなければ、僕はきっと猫派に転向するだろうな。

 なんと気無しに、そう思った。


 魔犬の死体は背負うには大きすぎるので紐で結わえ付けて引きずって行く事にした。

 こんな所で解体はしたくない。

 D級冒険者とか、もっと上位の冒険者にもなると、空間拡張がされた魔法の袋を持っていたりするからな。

 僕も早く手に入れたいものだ。



 そうして引きずって行くと、霞みの向こう側に見えてくるものが在った。

 僕が出ていった北門である。


 

戦闘シーンって難しいですね。


楽しんで読んで頂ければ幸いです。

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