第2話 初めての依頼とその内容
防衛都市はコンクリート製の城壁に覆われた中規模の自治体ほどの大きさだ。
資源が無い為かトタンや木の板、粗製コンクリートで補修された家屋やマンションは今では宿屋や店舗として利用されていた。
その為とても美しい町並み、という感じはしなくて、どちらかというと混沌とした雰囲気を漂わせている。
それは死が他より身近であるからなのか。
多くの人々が行き交う町の中央の大通りには露店が建ち並び、非常に良い匂いを漂わせていた。
ついつい買い食いしたくなるのを押さえるのが大変だ。
串焼きの露店で何かの赤身串焼きを三本買ってしまったのはご愛嬌だろう。
脂身が少なく噛み堪えがある肉は咀嚼するのも大変だ。
しかしこんなに安く肉が食べられるのは良い事だろう。
ちなみに串焼きは一本五百円だった。
地元では到底考えられ無い価格だ。
様々な雑踏が耳に響いてくる。
地元ではなかった事だが、3日も居ればさすがにもう慣れた。
行き交うおんぼろ自動車(魔物から剥げる魔石のエネルギーで動く)と人々の網目を縫う様にくぐり抜けて行く。
途中の露店で毒消しの薬と粗製のポーションを買っておく。
ポーションはダンジョンで発見されるか特殊なスキルと機材を使わないと造る事は出来ない。
しかしそれだと冒険者に行き渡らない為、ポーションを薄めて造られたのが粗製ポーションらしい。
効果の程は、まあ、無いよりまし?それぐらいか。
ちなみにお値段は3000円だ。
これでもう残りの資金は無くなった。
・・・ぐすん・・・
そうして向かうのは瑞穂第2防衛都市の四つある正門。
その中で北にある門だ。
◆◇◆◇◆◇◆
東京の浅草にある雷門。
それをコンクリート製にして無骨に大きくしたかのような北門。
そこを他の冒険者と一緒くたになって潜るとそこはもう、安全の保証なぞされていない世界だ。
冒険者は基本、自己責任。
とは言え流石に挨拶位はしておこうか。
門の両脇に立っているギルド職員さんに、片手を挙げて挨拶をすると、「大変だろうが頑張れよ」と、言われたので「頑張って来ます!」と、元気に挨拶を返した。
防衛都市の外。
とは言え僕の様な新人が多く居る所だ。
そんなに強大な魔物は居ない。
むしろ居たら泣く。
ここら辺の魔物は軽鎧さえ着ていれば大怪我する事はまず無い、と言われている。
しかし、だからと言って油断は出来ない。
小さな油断で命を落とした例は快挙に暇が無いのだから。
油断大敵と言う事だ。
ここら辺に居る魔物は事前に調べてある。
この3日間、何もしなかった訳もないのだ。
僕の主武器である刀の習熟は勿論、食糧の買い出しや点検。
やることは沢山あった。
現在の持ち物は、水筒とリュックサック(冒険者御用達)、それに入っている回復ポーションが一つに携帯食糧セットとサバイバル道具。
それにダンジョンの侵食領域内では使えないが、通信端末と軽くなった財布。
武装は?
実家から抜け出す時になけなしの金で買った日本刀と解体用ナイフ。
それに革製の手甲、脚甲、鎖かたびらを中に着こんでいる。
あと、実家にあった黒檀の杖だ。
今回の依頼では戦闘は主では無いので視認性を下げるために着物の上から灰色のフード付きローブを軽く羽織っている。
これがなかなか気に入ってしまった。
戦闘になったら直ぐに外せる様にしておこう。
防衛都市の外だからといって直ぐに魔物に襲われるということはない。
気を張りすぎても、緩め過ぎてもいけないのだ。
そこら辺の匙加減は大変難しい。
本来ならばパーティーの仲間同士で補う所なのだが、パーティーを結成出来なかった僕は一人なのですべて自分で補わなければならない。
うん。
いくら警戒しても足りるという事は無いな。
慎重に行こう。
まずは目的地にたどり着く所からだ。
時間ができたら戦ってみるか。
◆◇◆◇◆◇◆
依頼書ではここら辺だったか?
崩壊したビルの瓦礫のそばで立ち止まって周囲を軽く見回す。
腐り落ちた歩道橋に傾いだ信号機。
元々は自動車だったのだろうか?その下にはいくつものスクラップが転がっていた。
それより先はうっすらと霞んでいてよく分からない。
敵は居ないようだ。
探しているのはある種の植物である。
何でも回復ポーションの原料の一つで、ダンジョンの侵食領域でしか採取できないらしい。
名証は確か『メイキュウシマカンアブラギク』とか言う長ったらしい名前だったか。
依頼書ではこうだ。
◆メイキュウシマカンアブラギク採取依頼◆
メイキュウアブラギク(略称)10株分の納品
期限・なし
ダンジョンにしか分布しておらず、瓦礫地帯の比較的乾燥した薄暗い所に生える。 花の色は黄色、群生していて花弁が卵形をしている。 草丈は低く10㌢程。 株を近くの土ごと採取する事。
*採取日より2日以上経過したものは納品できません。 状態が悪すぎても同様です。
*採取する株数によって追加報酬有り。
ここはビルが瓦礫と化していて乾燥したちょうどいいボイントだと思うのだが。
辺りを警戒しながらだと作業効率が下がるが命には変えられない。
ふと、瓦礫と瓦礫の間や影を見ると、有るわ、有るわ。
大量に群生していた。
・・・探し回ると結構有るな。
そんな僕の目の前にあるのは20株程のメイキュウシマカンアブラギクの入った採取袋。
背負って見ると結構重たい。
これだけで2、3㌔はあるだろう。
ここら辺が限界かな。
これ以上の物を背負ったままの戦闘は危険だ。
そう判断して、採取を終えた。
腕時計を見てみるともう少しで昼を回りそうだ。
リュックサックから携行食糧を取り出して口に運ぶのだが、これは果たして食べ物なのだろうか。
・・・食べられない訳ではない。
そうではないのだが、なんと言うか、長方形のデンプンとたんぱく質で出来たパサパサのパン?
不味くはないが間違っても美味しくはない。
なんとかして水で携行食糧を押し流すと完全に昼を回ってしまっていた。
出発の準備を整えて立ち上がると、感じる視線。
視線の先に目をやるのと、
角が生えたウサギが此方に翔んでくるのは同時だった。