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勇者パーティを追放されたので伝説の鍛冶師を目指そうと思います

作者: セレンUK

「おー、今回はなかなかうまく出来たかな?」


 俺は手ぬぐいで汗を拭くと、目の前で打ちあがった一振りの剣を見つめる。


 俺の名前はユーゴー。

 見ての通り鍛冶師だ。

 山の中に籠って鍛冶の道を究めようと日々金属を叩き続ける23歳。

 今日もストイックに金属に魂を込めた所だ。


 さーて、一息つくか。

 と思った瞬間、外で爆発音が聞こえた。


「おいおい、厄介事は勘弁してくれよ?」


 小屋から出てみると、遠くで煙が上がっている。

 何かが爆発したのか。

 この辺りでそんな危険があるはずはないのだが。


「しかたない、様子を見に行くか……」


 今めんどくさがって、後々死体が見つかるのも目覚めが悪い。

 俺は打ちあがったばかりの剣を手に取ると、渋々煙の上がった場所へと向かうのであった。


 ・

 ・

 ・

 ・


 目的地に近づくにつれて俺の心は憂鬱になってきた。

 なぜなら、小規模な爆発音が連続して聞こえるようになったからだ。

 これは何者かが戦闘を行っているに違いない。


 草木をかき分け、音のする方向へと近づいていく。


 ……あーあ、外れくじだ。


そこには4mを超える巨大な体と骸骨の頭部に(いびつ)に肉が絡み合いモリモリとした筋肉を持った魔物と、それに相対する銀髪の女騎士の姿があったのだ。


「くそっ、こいつ!」


 剣を振るい、迫る魔物の剛腕を切りつける女騎士。

 太刀筋は悪くない。

 だが相手が悪そうだ。あれは死蝕鬼。

 大方、闇の魔術師の成れの果てだろう。


 切りつけた傍から、肉がミチミチとうねり傷口をふさいでいく。

 

 関わりたくないなぁ。

 俺は切実にそう思った。

 なぜなら彼女の鎧に刻まれた紋章は聖騎士のものだ。

 彼女たち聖騎士は法と秩序の守護者で絶大な権限を持っている。

 俺はそういうものから距離を取りたくてわざわざ山の中に工房を構えているのだと言うのに。


「し、しまった!」


 それまで死蝕鬼の攻撃をうまくさばいていた聖騎士だったが、慣れない山の中での戦いのためか木の根に足を取られてしまった。


 そこに容赦なく死蝕鬼の強烈な一撃が撃ち込まれる。

 ボロ雑巾のように吹っ飛ばされた聖騎士は何本かの木をへし折って最後に大岩に激突し、地面に倒れ込んだ。


 見ちゃいられないな……。

 俺はわずかながら聖騎士が死蝕鬼を打ち倒して山を去ることを期待していたのだが、その願いはかなわなかったようだ。


 とどめを刺すためか、死蝕鬼は倒れて動かなくなった聖騎士の元へと歩みを進める。


 ああもう、どこの素人だよ、大体なんで一人で戦ってるんだ。

 仲間はどうしたんだ仲間は。

 俺の平穏を奪った理不尽に怒りが込み上げてくる。


 ざっざっざっ


 大体税金で食ってるんだろあんたら聖騎士は。

 それなのに魔王退治は勇者に任せて一体何様だって言うんだ。


「おいこの木偶の棒、俺は今機嫌が悪い。見逃してやるからさっさと帰れ」


 倒れた聖騎士を今にも手をかけようとしている死蝕鬼に向かって啖呵を切る。


 ぐるるるる


 唸り声が俺への回答だ。

 思った通り知能は無いタイプか。

 交渉も出来ないからめんどくさいな。


 ぐるるあぁぁぁ!


 いいところを邪魔された怒りからか、どうやらターゲットを俺に定めた様だ。

 好都合だ。下手に聖騎士様を吸収されてもかなわん。


 さてと、せっかくだからさっき完成したこいつの切れ味でも試してみるかな。

 俺は鞘の無い抜き身のままのその剣をぐっと握る。


「そらよっと!」


 少し力を込めて、剣を振りぬいた。


 ぐぎゃぁぁぁぁ!


 俺の放った剣撃を受けた死蝕鬼が悲鳴を上げる。

 

 ぼしゅぅぅぅ


 俺の手の中の完成したばかりの剣が煙を上げて、そして刃の先から徐々に刀身が失われていった。


「ああ、こいつもダメだったか。

 いけると思ったんだがな、せっかくのゴブリン肉だったのに」


 消滅していく剣を見て、俺はため息を付く。


「しかも威力も今一つだったな。相手の原型が残ったままだなんてな」


 俺は目の前の筋肉だるま骸骨に目をやる。


 ぐるるるるっ!


 その歪に発達した筋肉から繰り出される無慈悲な一撃。

 だが、当たらなければどうという事はない。

 俺はひらりひらりとそれを回避する。


 当たらない攻撃にしびれを切らしたのか、骸骨の頭部から火球が放たれる。

 なるほど、こいつがさっきからの爆発の原因か。

 しかしまあ、拳の一撃のほうがましだったぞ?


 知能の無い化け物からの規則的な攻撃が当たるはずもなく、俺はひょいひょいとそれらをかわしていく。


 さてどうするか。

 徒手空拳で戦ってもいいのだが、死蝕鬼に触れると取り込まれてしまう。


「う、ううーん」


 俺が次の手をどうしようか熟考している間に聖騎士様が目を覚ましたようだ。

 良い展開だ。


「おい、そこの聖騎士、死にたくなかったら剣を貸せ!」


 そうそう、一番手っ取り早いのが彼女の剣を使う事だ。

 だが、気絶しているうちに勝手に使って、後から借りパクしたと難癖付けられても困るからな。


「え、一体、なんだ、誰だ貴殿は」


 案の定状況がつかめていない。


「今はそういうことを言っている場合じゃないだろ。

 あんたの手に負えなかったこいつの相手をしてやってるんだ、剣を貸してくれ」


「何が何だかわからないが、ええい、受け取れ!」


 俺に向かって剣をぶん投げる女聖騎士。

 こいつはチョロい!


「物分かりのいい奴は好きだぜ。そこでゆっくりと見物してな」


 俺は剣を受け取ると、力を込めていく。

 なるほど聖騎士が使うだけあっていい剣だ。

 これなら俺の力も引き出せるか。


「死蝕鬼よ、お前に恨みは無いが俺の平穏を乱した罪は償ってもらうぞ。

 エクスプロードスラッシャー!」


 剣から放たれた一撃が死蝕鬼を襲い、爆炎と共にすべてを焼き尽くした。


「す、すごい……あの死蝕鬼を一撃で……」


 この程度で驚かれても困るんだが、まあ死蝕鬼にてこずるような聖騎士だ、仕方がないのだろう。


「大丈夫だったかい、聖騎士さん。

 そちらの訳は聞かない。

 動けるようになったらすぐに山を降りることをお勧めするよ」


「貴殿は一体……」


 ぼしゅぅぅぅ


「やっぱりだめだったか。いい剣だと思ったのに」


 俺の手の中で崩れていく剣。


「あ、ああ、あああああああ、私の剣が!

 おじい様が国王様から賜った家宝の剣が!」


「すまんな、まあ命を失うことに比べたら安いもんだろ」


「うぐっ、それはそうだが、そうなんだが……」


「じゃあな、もう山には近づくんじゃないぞ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ、名前を、名前を教えて頂けないだろうか」


 ああー、やっぱりめんどくさいことになったよ。

 だれが好き好んで名前を教えるかって。

 体制側にくれてやる個人情報は無いっての。


「すまんな、他を当たってくれ。俺はただの鍛冶師、剣を造るので忙しいの」


 俺は手をひらひらさせて、その場を立ち去る。


「今の剣技……、そして消滅する剣……、もしかしてあなたはユーゴー様では?」


 うげっ、なんで俺の事を知ってるんだ。


「やはり、ユーゴー様なのですね。

 いくつもの華麗な剣技を携えたソードマスター、そして勇者様の仲間の一人。

 ですが……なぜ勇者様のパーティから抜けたあなたがこんなところに」


 思った以上に俺の事を知ってるぞこの聖騎士。

 ここでどてっぱらに一撃入れて気絶させて近くの村に放り込んでも、俺の事を知られてしまった以上これまで平穏に剣を打っていた生活に戻ることは出来ないだろう。


「俺の事は放っておいてくれ。俺は勇者パーティに戻ることはないし、魔王を倒す気もない」


「しかし、今魔王の脅威は着々と国を蝕んでいます。あなたがいれば今は足踏みをしている勇者様達もきっと魔王を討伐することが出来るはずです」


 この他人任せな言い方、腹が立って来た。


「あのね、そう言うのは国民の税金で食ってるあんたがた聖騎士がやればいいっての。騎士でもない一般国民を勇者だのパーティだのと祭り上げた結果がこれだよ。祭り上げられたこっちは迷惑だっての!

 国王からのわずかばかりの資金で旅立たされ、旅の資金は現地調達、魔物を退治して感謝こそされるものの、家計は常に火の車。野宿してそこらへんに生えてる草で空腹を満たしたこともあるっての!

 あんたら聖騎士にそんなことが出来るのか?」


「そ、それは……」


 申し訳なさそうな表情を浮かべる女聖騎士に、俺の怒りは留まることを知らない。


「俺達は、いや俺は頑張ってた。それでも皆のためならと頑張ってたさ。

 でもな、現実はそうはいかない。


 最初は良かったよ。俺のレベルも低くてさ。

 だけどいつのころからか、俺の力に武器は耐えられなくなった。

 見ただろ君の剣を。俺が本気で戦えばたちどころに消滅してしまう。


 さっきも言ったとおり、勇者パーティとは言え、貧乏なんだよ。

 ある日言われたね。俺はもうパーティにはいらないと。

 そりゃそうだ、戦うたびに武器を消滅させるような金食い虫をおいてはおけない。

 そう、俺は勇者パーティを追放されたんだよ!」


「そんなことが……」


 しまった、熱くなってしゃべりすぎた。


「だから放っておいてくれ。誰にも今日の事は言うんじゃないぞ。

 俺がここにいることもだ。俺は平穏に剣を打ちたいんだ」


「もしや、ユーゴー様はご自身のための剣を……」


 あーあー、勘のいい子は嫌いだよ。


「そうだ。俺は自分の力に耐えうる剣を造り続けている。

 っと、忘れるところだった」


 俺は大切な事を思い出した。


 そうそう、死蝕鬼は珍しいからな。

 俺は、初手で切り落とした死蝕鬼の腕を見つけると、俺が会得したスキル『無限の冶金(デ・レ・メタリカ)』でそれを金属の塊に変換する。


「よしよし、こいつならまた一味違った剣が出来るかもしれないな」


「ま、まさかそれは禁呪!」


 あー、勘がいいと思ったのは気のせいだったみたいだな。

 しかし禁呪と誤解されたままなのも困る。


「このスキルは『無限の冶金(デ・レ・メタリカ)』というエクストラスキルだ。

 このスキルはこの世の万物すべてを金属に変えることが出来る。

 取得した方法は秘密だ。以上」


「『無限の冶金(デ・レ・メタリカ)』……」


 そうそう、だからもう放っておいてね。


「なるほど、そのスキルで未知の金属を探し出してユーゴー様の力に耐えられる剣を造っているということですね!

 ええ、私も是非お手伝いさせてください。

 そして完成の暁には真の勇者を名乗って魔王を討伐しましょう!」


 え゛、手伝いとかいらないから。必要ないから。

 大体なんでそんなに話が飛ぶのさ。

 なんだよ真の勇者って、まっぴらごめんだよ。


「いや結構。俺は一人でやるよ」


「そうは言ってもですね、何かと物入りでしょう。

 先立つものはお金です。幸い我がシュミット家は裕福なのです」


「いいいい、そう言うのいいから。

 俺は人見知りなの。

 わかるだろ、信頼してた仲間に追放されたんだぞ。

 だから一人でやりたいの」


「どうしてもですか?」


「どうしてもだ」


「そうですか、残念です。でしたら先ほどの家宝の剣の代金、お支払いください」


「ちょ、ちょっと待て、あれは君も納得しただろ。命よりも高価なものはないって」


「いえ、納得はしていません。それにあの剣は私の命よりも大切なものなのです。さあ、お支払いいただけますね?」


「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……」


 これだから金持ちは、聖騎士は嫌いなんだ。


「分かったよ、金は払えない。その代わりに君の望みを聞いてやろう」


「ありがとうございます!

 そしたら早速住み込みでお手伝いしますね!」


「え゛、そんなこと言ってなかったぞ」


「ええ、今言いました。何でも望みをとおっしゃったのでここぞとばかりに今言いました。

 それとも家宝の剣の代金をお支払いに?

 あれは街の一等地で家が3件ほど建てられる金額ですが」


「あーあー、分かりました。好きにしてください。

 俺の邪魔さえしなければどうぞ住み込みでもなんでもやってくださいっ!」


「ありがとうございます!

 このエリーナ=シュミット、命にかけてユーゴー様のお世話をさせていただきます!」


 こうして俺の工房には騒がしい女聖騎士が住み着くことになった。


 彼女と共に剣を打ち、そして歴史に名を残すのはまた別のお話となる。

お読みいただきありがとうございました。


面白かったとか続きを読みたいなとか思われました場合は、評価ポイントを付けていっていただけるとありがたいです。


次回作として書き始めるかどうか、人気があれば考えてみたいと思います。

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[良い点] なるほど、強すぎて追放されるパターンなんですね。戦闘する度に財布と相談しなきゃいけない勇者パーティも珍しい! 短編なのでこれからの展開は妄想になりますけど、世界中の珍しい魔物や強い魔物を…
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