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3,地竜来襲

 


 タニアから、ほぼ死の宣告にあたる発言を聞かされた翌日のこと。小さな村はにわかに慌ただしくなった。


 例のモンスターが接近中だということだ。


 山菜を狩りに出た村人が高台から遠方に、ゆっくりだが接近する巨体を目撃したと。


 こういう可能性もあろうかとは考えられていたので、村人全員が粛々と避難を始めた。

 タニアとしてはここで奴を迎撃するつもりかと思ったのだが、意外にも出発する村人と行動をともにすると言われた。

 奴と戦うとは言われていたが、そうしないならそれでも文句はない。俺としては黙って着いていくだけだ。



 しかし、それも半日のこと。



 違う道を進むと言って俺とタニアは村人たちの集団を離れた。


 俺は何かと世話を焼いてくれた村娘にひとしきり礼を言ってから別れた。

 いい子だった。

 恩はなるべく返したいから安全なところまでは護衛がてら同行してやりたかったが、俺はタニアからは離れられない運命だ。



「私たちがモンスターを仕留めたって噂が広まるのは避けたいわ」



 二人になるとタニアはそう言った。

 一緒に逃げたのは村人たちにそう見せておきたかったらしい。

 仕留める前提なのにまず驚くのだが。


 たぶんこの少女がすごい魔法の使い手なのは間違いない。

 だから何かの強力な魔法でモンスターを倒すつもりで、呪文の詠唱中に時間を稼ぐのに俺が囮として必要なのだろう。

 そう考えると理解できる気はする。


 結局俺たちは人のいなくなった村に戻って、モンスターの襲来に備えた。


 そして奴が来た。






 地鳴りの様に響く足音。


 山がひとつ動いているかのような巨体。

 竜種に数えられるにはどことなくシルエットがずんぐりしているがドラゴンの一種には違いない。


 動きは早くないので攻撃範囲から逃げさえすればそうそう殺されはしないが、分厚い皮に狂暴な爪と牙のため倒すのは至難の技だ。


 冒険者ギルドからはSクラスモンスターに種別されている災厄級の化け物。

 それがこいつ、ガイアドラゴンだ。



「どうする?」

「戦うのよ」

「それはわかってる。だから、どうやって倒すのか作戦を聞いてるんだ」



 タニアはニヤリと笑う。



「力押しでいいんじゃない」

「は?」

「胸に左手を当てて唱えなさい──【魔身解放(ましんかいほう)】と」

「何言ってんだ、こんなときに!」



 意味がわからない。

 そうこうするうちにも、ガイアドラゴンが迫ってくる。



「いいから、早く」

「こ、こうか……【魔身解放】ッ!」



 新しい心臓がひときわ大きく鼓動するのがわかった。


 同時に信じがたいほどの力がみなぎるのも感じる。

 俺は一瞬にして自分が強くなったことを本能的に知覚しながらも、そのことに戸惑った。



「どう? 今ならあいつに勝てるわ。でも、力の解放は時間制限があるからね。開始からの心拍が百と八回、打つまでのあいだしか続かないわ……──さあ、さっさと復讐(リベンジ)を済ませるのよ!」



 ──血が沸くように熱い。

 ──視界が鮮やかに冴え渡る。

 ──歓喜を思わせる高揚感が……


 俺を狂気にも似た戦闘意欲に奮い起たせる──



「──!」



 俺は剣を抜く。

 タニアめ、まさかひとりでガイアドラゴンをやらせるつもりだったとはな。


 とんでもない無茶ぶりだが、みなぎる力が俺に根拠のない自信を授けてくる。

 とりあえず以前ほどには奴に瞬殺されることもなさそうだ。


 ()()()()()()()()()()じゃないか。

 今の俺を支える標語みたいな文句を心中に唱えると、俺は思いきって飛び掛かった。


 タニアが言ったように強くなるのが短時間なら、戦いになるかどうかを試すのも早めに済ませるべきだ。

 やってみてこれはやはり歯が立たないとなれば、タニアも戦略的撤退を認めるに違いない。


 そんなことを思っていた俺だが、予想に反して俺はガイアドラゴンを蹂躙した。

 もはや敵はでかいだけの、のろまな蜥蜴でしかなかった。


 致命傷をもらった爪の攻撃も、馬鹿みたいに遅くて簡単に避けられてしまう。



「Sクラスが……こんなもんかよ!」



 俺は剣を突き立てガイアドラゴンの喉を破り、奴の息の根を止めた。






「やったのか……」



 放心する俺に、軽い足取りでタニアが歩いてきた。



「初めてにしては上出来ね」

「おう……なんか……すごい身体になったもんだな」



 タニアは当然のことといった顔をしている。この結果が予想の範囲内ということらしい。

 この得体の知れない少女のおかげで俺は規格外の強さを手に入れたようだ。



「ええ、そうね。とても強い身体になったわ。でも問題もある」



 タニアは呪文を唱えた。

 水の幕を張って鏡を作り出す魔法だった。



 俺はそこに映った自分の姿を見た。



 悪魔のような禍々しい容姿に変わった俺がそこにいた。

 絶句するうちにやがて魔法の鏡に映った姿は、もとの人間の容姿に戻る。

 どうやら【魔身解放】が続く拍動の時間を過ぎたらしい。



「身体が変わっているうちは、魔族と呼ばれる種族に限りなく近い姿になるの。不要な誤解を受けないためにも、絶対に他人にその姿を見せないように気をつけて」



 タニアの言葉に、神妙にうなずくしかなかった。


 魔族なんて見つかったら冒険者ギルドで緊急討伐依頼が告示される案件だ。

 冒険者に追われる人生なんて想像しただけでもうんざりする。



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