1,魔改造
「うっ……」
俺は目覚めと同時に苦悶の声を発した。
寝起きの気分は最悪だった。
頭は痛むし、全身が気だるい。
「起きたようね」
「な……こ……これは?」
聞き覚えのない女の声。
俺は自分がどういう状態にあるのかを知り驚愕した。
両腕両足を鎖で繋がった金具で拘束されている。
何か冷たく硬い石のような台の上に固定されているらしい。
「どういうことだ!」
叫んだつもりが空気が抜けるような声しか出ない。
拷問でもしようというのか。
だが俺を拷問したところでどうなる?
あたりは薄暗い。
地下室か、あるいは洞窟の中か。
松明の灯りが不気味に揺れている。
「今から貴方を魔改造するところよ」
「……改造だと」
「そう。こうすれば自分の胴体がどうなったかわかるかしら」
何者かわからない奴の手で頭を持ち上げられる。
「なっ……心臓が……ない?」
俺の胸のど真ん中に大きな穴が開いていた。
なんじゃこりゃ、と叫びたくなったが声にはならない。かなり体調がよくないとは思っていたが随分と風通しがよくなっていやがる。
「俺……死んでんのか」
「いえ。まだ、アンデット化はしていないわ。延命魔法で命を繋いでいる状態よ」
「どうするつもりだ」
「言ったでしょう。死なないために魔改造するの」
魔改造とやらのことはわからないが、死にかけている俺を救おうとしてくれているらしい。
だが──
「目的はなんだ?」
蘇生魔法を神殿で施してもらうためには一般人の人生三回分の収入が必要だっていうのが通説だ。
今のところ死んでないみたいだから蘇生には当てはまらないにしても、そんな大金は持ち合わせがないし稼げるあてもない。
命の代わりに対価を求められても払えはしないのだが。
「──戦ってもらいたいの。私のために」
しかし求められたのは金銭ではなかった。
俺は兵士だ。だから戦うのが見返りならできない相談ではないが。
「俺は……そんな強くないぞ」
「わかってるわ」
あっさりした返答に面食らう。
だが認める他ない事実だ。
俺は弱い。若いときには勇者パーティーに居てウェーイしていた事もあったが、長続きせずじきに追い出された。
しばらく冒険者はやっていたが現実は甘くなく、Bランクまで昇ったのが頭打ちでそこから先には出世できなかった。どうせたいして稼げないならってことで収入で安定する兵士になった。
そっからはダラダラと惰性で生きてきた。
だがそれも長くはなかった。たまたま警備についていた村が、えげつない災厄級のモンスターに襲われたのが運の尽きだ。
──ああ、そうだ。
俺は奴に胸を貫かれたんだったな……
左腕を酸のブレス攻撃にやられ、振り下ろされた爪の一撃が身体を貫通した。
そのときの情景が記憶に甦る。
まるでザコの死に様だ。情けなくてちょっと我ながら笑える。
「このまま作業を完了させるつもりだったけど、気がついたのなら貴方に選ぶ権利をあげる」
「選ぶだと」
「生きて戦うか、このまま死ぬか……好きなほうを選びなさい。もしも戦うことにもう疲れたのなら、このまま眠るのも──」
「いや──」
俺は彼女の言葉を遮った。
「どうせなら生きて戦うさ。なんだか知らないがやってくれ」
戦うのが条件なら兵士だったんだから変わりはしない。
何と戦うか選ぶ権利がないのも同じことだ。
それでまた死んだなら、死んでもともと。生きながらえるなら、この天使か悪魔かしらないが女の好きにさせてやればいい。
俺は、誰だかも知れない人物に身を預け、そのまま意識を失った。
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