ボクはいつも軽やかに歩くセンパイの後ろをついていく
学校からの帰り道。センパイが後ろ手を組みながら、ボクの前を歩く。
足取りが軽そうに見えるのは、ボクと一緒だから?
なんて自惚れてみるのだけれど、それもあながち勘違いでもないような気がする。
だって、本当に楽しそうなんだもの。
時折風がそよいでセンパイの控えめなコロンの香りがボクの鼻をくすぐる。
昔の何かがよみがえってくるような、そんなどこか懐かしいような、
それでいていつも新鮮な香り。そんな時、ボクは幸せな気分にひたってしまう。
たぶん間の抜けた顔をしているだろうことは間違いないと思う。
ふと、センパイが立ち止まり、急にボクを振り返る。
それに合わせて立ち止まるボク。
だらしない顔を見られてしまったことで思わず顔を赤くしてしまう。
「ねえ、今日は時間、大丈夫なの?」
最近までボクは、今時の高校生とは思えないほど生活臭プンプンで、やれ買い物だ、やれ食事の支度だと家事に追われる日々を送っていた。
故あって実家を離れ、祖母の家で暮らし始めたけれど、長年続けてきた生活習慣はそう簡単には変えられず、学校帰りはなにかと用事を抱えていることが多かった。
とはいっても、この頃は帰りにスーパーで買い物をするくらいだけど。
「ええ、今日は買い物もないし、大丈夫ですよ」
「っそ。よかった。じゃあ、うち寄れるよね」
そしてまた、鼻歌を歌いながらスキップで前を進む。
ボクはスカートが翻るたび目を奪われるそのキレイな足と、「うち寄れるよね」の一言にあらぬ期待に胸を高まらせてしまう。
制服だから目立たないけれど、センパイはかなりスタイルがいい。
小ぶりの顔を支えるに十分な細い首。さほど大きくはないけれど、かといって小さいわけでもない胸。おそらく60cmをきっていると思われるウエスト。布地越しからも見て取れる豊かな腰のライン。スカートからソックスの間に見えるスラリとした素足。
要はボクが理想とする体型を具現化した人がセンパイなのだ。
校門を出てから一つ目の信号にさしかかるまで、ボクはこんな調子で、センパイの体の各部位をくまなく観察していた。
目つきがいやらしくなっているかもしれない。注意しないと。
センパイはかなりあけっぴろげな性格で、その手の話題を嫌ってはいないんだけど、
「エッチィのは好きだけど、いやらしいのはキライ」
と言ってはばからない人なので、ちょっと厄介といえば厄介なのである。
いったいどこで線引きするか、皆目見当がつかない。
ボクの視線はどっちなんだろう?
そしてそんなボクを、センパイはどんなふうに思っているのか、ちょっと不安でもある今日この頃なのだ。
さて、信号待ちの長い国道のおかげで、ボクはようやくセンパイの隣に立つことができた。
するとセンパイは、妖艶とまではいかないまでも、年齢から考えれば十分すぎるほどの妖しさをたたえた瞳でボクを見つめると、やおら耳元に口を寄せ、こう言ったのだった。
「こないだの続き、して、あ、げ、る」
一瞬にして顔を赤らめるボク。
ボクの不埒な考えなどすべてお見通しと、口元に浮かべた笑みは言っているようだった。
センパイの部屋。
「どうしたの?もっと肩の力を抜いて」
そうは言われても、こんなシチュエーションではそれは難しい。かろうじて「ハイ」と答えるけれど、ボクはかなりのぼせあがり、センパイの指し示す箇所を凝視するのが精一杯だった。
それでも深呼吸を繰り返しするうちに、センパイの言わんとすることが、おぼろげではあるけれど少しずつ理解できてきた。
「ここに……、そう、そう」
「こうですか?」
「そう。よく見てね」
センパイの優しい声を聞きながら、それでもボクははやる気持ちを抑えきれず、次のステップに進んでいく。
「あせらないの。時間はあるんでしょ」
小さな子供をたしなめるかのようにセンパイが笑う。
「でも……」
あれほど夢見たものが、もうそこにある。
この先にある喜びはいかばかりのもか。
ボクは欲求を制御できそうにないことを告げる。たぶん、このときボクは泣きそうな表情をしていたに違いない。
センパイはそんなボクを見て小さな息一つ。
「そうね。ここまできたら……、いいわ、じゃあ、そのまま、ね」
センパイの許可を得ることに成功したボクは、もう他のことなど一切考えることもなく、まさにがむしゃらにその行為を再開させる。
そしてボクは今まで知りたいと願いつつ、想像でしか味わったことのない感動をついに我が物とした。
終わった……。
テンションがまるでタンジェント曲線のように急上昇し、限界高度に達した瞬間はじけとび、垂直落下した気分。
一気に疲れが押し寄せてきたけど、まだそれに負けるわけにはいかない。
そしておそるおそるセンパイの顔色をうかがうボク。
「どう、ですか?」
けれどセンパイはすぐには答えず伏し目がちな表情のまま黙り込む。
判決を言い渡される被告のような気分になってくるボク。
さっきまでは上向きにドクンドクンといっていた鼓動が、今度は方向を変え下向きに響いているかのような気がする。
その時間はほんの数秒だったろうに、相対的感覚はそれを何十倍、何百倍にもする。
ああ、まさに審判の時。
そして視線をあげるとともにセンパイは口を開いた。
「ハイ、よくできました。やればできるじゃない」
目の前の世界が一段と明るさを増し、新鮮な光景となって目に飛び込んでくる。
「やったー!」
「ね、コツさえつかめば簡単でしょ」
「ありがとうございます」
そしてボクは返されたノートを満面の笑みで受け取った。
えっ、何の話だって?
やだ、センパイに勉強教えてもらってただけだよ。
なんだと思ったの?
えっ、なに、ボクが男だと思ってたって?
失礼しちゃうなぁ、もう。
ボクはレッキとした女の子だよ。自分のこと、ボクって言っちゃ悪い?
いい? 話を最初に戻すよ。
先週ね、ボクの数学の成績に難アリ、と知ったセンパイがね、
「私の復習にもなるし、よかったら見てあげるけど?」
って言ってくれて、センパイの家にお邪魔して勉強教えてもらったの。今日はその二回目。
一回目はね、基本的な勉強の仕方を教えてもらって、今日は実践でドリル集。
センパイの上手な教え方のおかげで、今まで投げ槍ならぬ投げ鉛筆であきらめてきた問題もさ、なんとかできるようになってね。嬉しくて嬉しくて。
解答欄に答えを書き込むって楽しいね。あまりにハイペースにこなしていくものだから、問題をよく見るようにってたしなめられちゃったりしてさ。
でも調子に乗ったボクは、早く問題を解きたくなっちゃって、課題で出された20問を一気に片付けたんだ。
しかもしかも全問正解。こんなの初めてだよ。ホント夢みたい。なんか数学が好きになりそうだよ。
えっ、なに?
最初のくだりは何だったんだって?
なにがさ?
だってセンパイはホント、キレイなんだよ。
ボクはレズッ気あるほうじゃないけどさ、それでもドキッっとしちゃうくらい。
そりゃ嫉妬だってあるけどさ、それ以上にさ、あんなふうになれたらなあ、って憧れているんだ。
なにさ、さっきからふくれっ面して。
騙したって?人聞きが悪いなぁ。
いったいなに考えたのさ!
あー、それ!それだよ!
そういうのが「いやらしい」って言うんだよ。
やだなぁ、ホントこれだから男の子って。
ミネコ先輩ネタです。
サブタイトルは別に書いていたお話のものだったのですが、
そちらは行き詰ってしまって
タイトルだけでも使っておこうかなと・・・




