ハグ?
「うん、やっぱ、かっこいいなあ」
帰り道、校門のところで、偶然先輩とバッタリ。
ちょっと一緒に歩く?というお誘いにホイホイついていくわたし。
うん、これは少し脈アリなのかな、
あ、この人のことだから、たいして意味はないんだろうな、とかいろいろ思いをめぐらせていたところ、隣を歩いていた先輩が突然立ち止まった。
その視線を追いかけてみたところ、その先にあったのは一台のバイク?
やっぱり男の人ってバイクに興味あるのかな?
「は? あれですか?」
「うん、ハーレー・ダビッドソン。いいよね」
いえ、あの……。あれ、会話が成立してしまったぞ?
「あ、もしかしてバイクとかに興味ある?」
なぜだ? なぜにそうなる。
「あの、先輩? 普通、バイクに興味ある女の子って少ないんじゃないかと……」
と返したら、すかさず。
「えっ、高橋さんが普通?」
なに、さらっと言いやがんですか!
まあ、ここでヘソを曲げるのは簡単なんだけど、毎度のパターンを踏襲するのも芸がない。
ここはグッとこらえて、しおらしく。
「ごめんなさい。バイクなんてどんなのがあるのかもよく知らないです」
「あ、そうなんだ。ふーん……」
どうもわたしは妙な誤解をされているらしい。あ、でも……。
「そうだ!あれなら知ってます。ほら、新聞配達のバイク。スーパーカブっていうんでしょ」
コケッ!おお、見事にヒザをカクン。
「いや、まあ、それだけじゃないけどね、新聞配達のは」
苦笑いする先輩。もしかしてウケタ? やったね。
「他になんか知ってる?」
ナゼにそこでつっこんでくる?
よく知らないって言ってるじゃないですか。
もしかして先輩ったらバイクに詳しい女の子が好み?
だったら他のコあたって……、くれなくていいけど、これ以上、無知をさらけ出したくはないわたし。
ん、いや待て。「バイクには疎い=女の子らしい」
お、この図式を強調できる?
そうだそうだ、そもそも知っているバイクなんてあまりないんだから、よしよし、この手でいこう。
わたしは人差し指を唇に当てながら、宙に視線を漂わせたりして、自分なりに可愛さを演出してみたり。
んで、かろうじて名前を知っているバイクはと……。
ありゃ、5、6個くらいしか出てこない。笑われちゃうかな?
「そうですねえ、あとは……、“ツュンダップ”とかですかね」
「なにそれ?」
「えーと、ドイツのバイクです。随分昔につぶれちゃいましたけど。あ、日本じゃ“ツェンダップ”っていわれていたのかな?」
「へー……」
「KS750という軍用バイクがかっこいいです」
ツュンダップだとこれしか知らない。
うーん、やっぱりちょっと恥ずかしいぞ。と、「軍用バイク」という単語でもう一つ思い出したバイクが。
「あ、そうだ。『陸王』も好きです」
知っているバイクの数少なさに、ちょっと恥じ入りながら答えるわたし。
ところが……。
「ちょっと待て!」
突然、手のひらを眼前で広げ、わたしを制する先輩。
「ちょっと待ってくれよぉ。うーんと、ドイツのは、まあいいとして、なぜに『陸王』なんだ?」
「え、だって日本のハーレーじゃないですか、名車ですよね? そのくらいならわたしだって知ってますよ」
日本のバイク史に燦然と輝く国内生産ハーレー。
先輩もハーレーが好きみたいだし、これを知っていたのは、もしかして高得点につながるかな?
先輩はすぃーっと息を吸い込みながら、少し睨みがちにわたしを見て……。
あれ、なにか変なこと言った?
あ、そういえば、あのタイプだったらアレもあったなあ……。
すると、わたしの思考を読んだかのように、先輩がそのメーカー名を口にする。
「じゃあ、もしかして“インディアン”とかも知ってる?」
「赤バイでしたっけ?」
たしか大昔?に警察が採用したのがそのメーカーのバイクだったはず。
「“チーフ”と“スカウト”くらいしか知らないです」
あら?今度は広げたその手でこめかみを押さえ頭を振る先輩。
やっぱりわたしの無知ぶりに頭痛くなってきちゃったとか? 困ったぞ。
「大丈夫ですか?」
と先輩に向けて手を伸ばしかけたその時、その手首をがっ!と掴まれ、強引に引き寄せられるわたし。
(あ、やだ、先輩ったら、こんなところで)
もしかして可愛さ強調作戦成功?
うわ、やったね。んじゃ次は正面からハグッ!の、ギュッ!かな。ウレシハズカシ、期待に薄い胸膨らますわたし。
とか思ったら、くるっと体を反転させられて……。
(え、後ろから?イヤン)
しかし、先輩の攻めはわたしの期待を裏切って。
ガシッ!
先輩の繰り出した技は、なんとスリーパーホールド!
ぐはっ!
「どこが「よく知らない」だ、こんの嘘つきがぁっ!」
先輩のぶっとい腕で圧迫される頚動脈。
く、苦しい。なんでぇ?
「こんくらいしか知らないんですもん、知っているうちに入らないじゃないですか?」
「ほお、なるほど~」
息も絶え絶えに答え、なんとか逃げ出そうとするも、完璧に極まってしまっていて。
「しむぅ」
あ、まずい。ホントにイっちゃいそう……。
タップ!
パンパンと腕を叩いてギブアップ。うみゅう……。
げほっげほっ。
知っているバイクの名前を言って、なぜにこうなる?
「ひどいですよ、先輩。死んじゃったらどうすんですか?」
涙目のわたし。ところが先輩は冷たい視線を浴びせて、「ちなみに聞くけど」と無視。
ちょっと、今の所業に関してはスルーっすか?
もう少し優しくしてくださいよ。
か弱い女の子にナニすんですか。これは本人でも疑問だけど。
けれどわたしの無言の訴えは取り上げられることなく、
「スタミナって言ったら?」
と質問を続ける先輩。ひどい。
けれど、先輩のご機嫌をとりたいとも思っているわたし。
つい即座に答えてしまうわけで……。
「メグロZ7ですか。しぶくて実に好みです」
ニコッ。先輩の顔がほっこり緩んで、思わずキュン。
(あ、かわいい)
と、また引き寄せられるわたし。
今度こそハグかな?と思ったら、ホントにハグされちゃった!
って、ちっがーう!こ、これは……。
ベアハッグ!
ぐぁあああっ!
今度はタップする間もなく、背骨ごと……
あ、イク……。
そして最後に霞む視界の隅に映ったのは
ハーレー・ダビッドソン・スポーツスター。
薄れゆく意識の中で、あぁ、たしかにカッコいいかも、と思ったり思わなかったり。




