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図書室と先輩~ぷらす♪~  作者: アデル
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ネバーエンディング・ラヴストーリー

「あふっ」


 唇が触れるか触れないか、ぎりぎりのところで、わたしは力の入りきらない腕で先輩の胸を押し返す。

 声がもれてしまったのは、もしかしたら続きを期待していた心の奥底が不満を表したのかもしれない。

 けれど……。

 俯きながら聞こえるかどうかのかぼそい声で、ようやくわたしは言う。


「あの……、やっぱり、こんなところじゃ……」


「なんで?」


「だって……、人が来るかもしれないし……」


 図書室の片隅。

 書架の陰になって入り口からも司書室からも死角になっている場所。

 とはいえ、いつ何時、誰が来るかも知れず。

 なんとか保っている羞恥心を盾に、ますます消え入りそうな声でわたしがそう答えると、先輩はわたしの両手首をつかみゆっくりと開き始める。

 自然、気を抜けばくずれそうになってしまいそうだったわたしの体は、先輩に引き寄せられる形となって、顔をその胸にうずめる格好になってしまう。


「大丈夫。誰も来ないって」


 いったい何の根拠があってのことなのか、定かではないのだけれど、わたしはその言葉に安堵を覚えてしまう。

 そして、先輩の胸に目を閉じて頬をすりつけながら、頭をなでてくれる先輩の手の感触に一瞬の至福を感じてしまうのだった。


「だから、ね」


 耳元で先輩が囁く。

 同時に息を吹きかけられたものだから、わたしは反射的に体をこわばらせてしまう。

 ただでさえ立っているのがやっとの状態だったのに、膝に力が入らなくなって、先輩の肩にあごを乗せて、しがみつくようにして先輩の体をつかむ。


「ふぁっ」


 これが自分の声なのか。

 嫌がるそぶりをしながらも、トーンが昂ぶり始めた気持ちの証拠とばかりにうわずっている。

 いつのまにか、先輩の右手はわたしの胸にあてられている。

 左手は離れることを許さない意志を示すかのように、力を込めてわたしをひきつける。

 錯覚とわかりつつも、布地越しに感じる先輩の手のぬくもり。

 わたしは思わずその背に両の手を回してしまう。


「ようやく、その気になってくれた、かな」


 楽しそうに言う先輩は、今どんな顔をしているのだろう。そしてわたしは。


「こっち見て」


 恥ずかしかったけれど、もう抗う気力もない。いわれるがままに先輩の顔を見上げる。

 魔力を持つかのような眼がわたしを捉える。

 ああ、この眼。初めて会ったときから、何かを感じずにはいられなかった、この眼。 いつのまにかわたしを虜にしてしまったこの魔眼。もう逃げられない。

 そして先輩はもう一度わたしの耳元に口を寄せて、耳たぶをもてあそぶようについばむ。


「ね、このままボタンはずすのがいい?それともさっきの続き?」


 ベストの上からわたしの胸をさすっていた右手の動きを止めて、意地悪そうに先輩が聞いてくる。

 わたしは手の動きが止まったことに少し不満を感じながら、おそらくは真っ赤になっているであろう顔をふたたび俯かせる。

 わたしは、はしたないというものがどんなものなのかを実感しながらも、嫌悪感どころか新しい自分を発見する。


「あの……、どちらでも。先輩のお好きにしてください」


 恥ずかしさが限界を突破すると、正直な自分しかいなくなる。

 今、わたしは先輩のどんな要求にでも応えられそうな気がする。


「いい子いい子」


 先輩はあやすようにそう言うと、器用に指を繰りながらボタンをはずし始める。

 それと同時に左手をわたしの背筋をなぞるようにしながら、後ろ首にあてがう。


「やっぱり順序よく行かなきゃ、ね」


 先輩の顔が近付いてくる。優しい眼。閉じられる。

 待つだけでなく、みずから迎え入れるように頤をそらすわたし。

 観念したわけでなく、それがわたしの望み。今まで否定し続けていたわたしの本心。解放された喜びがわたしを包む。


「先輩……」


 思ったわけでなく、そう呼びかける。

 すると、眼を閉じながら顔を寄せるスピードを少し緩めて先輩が応えてくる。


「ダーメ。「まこと」って呼んでくれなきゃ」


 女子生徒二人だけの図書室にチャイムが響く……。





「こんな感じでいいですか?」


 昼休み。ミネコ先輩のいる教室に出向いたわたし。

 授業中に内職で書いたものを渡す。


「うわっ!私が攻め?」


 ミネコ先輩、「攻め受け」はどちらかというとBL用語です。



 ことの始まりは昨日。やっぱり図書室で。


「タッカハシさーん?」


 先輩の影響か、ミネコ先輩まで入り口で一言を発するようになってしまった。

 あのぉ、先輩がた、オネガイ、カンベンシテクダサイ。


「ねぇ、高橋さん」


 ミネコ先輩は、わたしのところまでくると、突然ミルクキャンディーの袋をカウンターに置いた。


「?」


「高橋さんてさ、文章書くのうまいよね」


「はい?」


「『図書室便り』のオススメ情報とか高橋さんが書いてるんでしょ?」


 校内の掲示板に張り出される図書室便り。正確に言うと、図書委員会月報『花咲く未来便り』

 その中の「今月の一冊」はこのところわたしが書いている。ミネコ先輩はそのことを言っているようだ。


「関先生にチェックしてもらって、だいぶ手直しをしてからですけど」


とは言いつつ、今月のは一発OKだった。ちょっと自慢。

 もっとも、最初の頃は、誤字脱字、誤用が多すぎて全文が真っ赤に添削されて返ってきたけど。


「それでね、高橋さんにお願いがあるんだけど?」


「はいぃ?」


 う、これはなんか嫌な予感。あ~、でも逃がしてはくれないんだろうなあ。

 しかたなく話を聞くと、やっぱり……。

 友達に同人誌をやっている人がいるそうで(田島さんというらしい)、今度めでたく初号を出版?することになったらしいのだけど、メンバーの一人が骨折して入院してしまったとのこと。

 その人が担当していたスペースが、このままではうまらないので、詩とかイラストとかかける人紹介してとミネコ先輩に頼んだみたい。

 うーん、さすがミネコ先輩。幅広い交友関係だ。

 でもですね……。

 わたしになにをしろっていうんですか~!


「私はそういうの無理だし、知っている子で、頼めるのって高橋さんしか思い浮かばなかったの。ね、お願い!」


 なるほど、キャンディーはこのためですか。

 わたしがミルク味好きだって先輩から聞いたのね。

 でもですね……。


「同人誌ってジャンルがあるじゃないですか?BLとかですか?」


「あ、ううん。一応ノージャンルって言ってたけど、今回抜けちゃった子ね、百合ネタ書いてたみたいなんだって。だからできれば……」


 なんですとぉ~! わたしはノーマルっす!それは無理っす!

 バン!

 突然、ミネコ先輩がカウンターに右手をついた。


「なんだったら、コレつけるから!」


 そっと右手を挙げるミネコ先輩。

 と、そこには2枚の写真。


「映りがいいのを選んできたわ」


 それはおそらく写真部の活動をおさめた写真。

 一枚目は「先輩」が他の部員と笑いあっている。

 二枚目は「先輩」が机に突っ伏して眠っていて……。


「やります!」


 あ~、わたしって……。


「で、いつまでに書けばいいんですか?」


「それがね、あしたまでだって……」


 いきなりわたしを拝むミネコ先輩。

 うぉい!




「タッカハシさ~ん。オッケーだって~」


 いえ、だからそこで声をあげないでくださいな。

 放課後、図書室にやってきたミネコ先輩。 わたしが書いたものを、友達に渡してOKをもらったらしい。


「ありがとね。結構ウケてたわ」


「そうですか。お役に立ててなによりです」


「一応伝言。田島ッチがね、よかったらウチのサークル入らないかって」


「いえ、それは勘弁してください」


「ふふ。まあ、そういうだろうと思ってわたしのほうで断っておいたわ」


「ありがとうございます」


 ただでさえ学校不適合生徒なのに、同人誌なんかにのめりこんじゃったら、もう目も当てられない。堕ちるところまで堕ちてしまうじゃないの!(全国の同人メンバーさん、ごめんなさい)


「それでね、礼がしたいんだけど」


「えっ、そんないいですよ」


 先輩の写真もらったし。


「でも、キャンディーとアレだけじゃ、なんか私の気が済まないのよね」

先輩の写真を「アレ」って……。

 それにしても、それこそ「アレ」なんかでお礼してもらうってのもなぁ……。


 !


 と、そこで一つ閃いた。

 いつも助けてもらってばっかりなんだけど、なんというか「してやられた」感がハンパないから、ちょっとイタズラ、仕掛けさせてもらっちゃお!


「じゃあ、そうですね。どうでしょう、わたしが書いたアレ、やってもらってもいいですか?」


「えっ」


 口に手を当てて目を丸くした先輩。


(ガッチャ♪)


 うぉっし!成功。


「なんてね、冗談です」と続けようとしたんだけど……、


「え、いいの?」


とそれより先にミネコ先輩が聞いてきた。


(えっ)


 見ると、なんとなく目が輝いている。


(えっ)


「アレ読んだとき、本当にやってみたいって思っていたの」


(えぇっ!)


「なんか逆にご褒美よ。うれしい!」


 超高速移動でカウンターに入ってきたミネコ先輩。わたしの手首をガッとつかむ。


(えぇ!)


「高橋さん……、ううん、アデル。さ、行きましょう。あっちで、あの通りのことしてあげる」


「えぇっ?」


 わたしは死角となっている片隅に連れて行かれ……。


(あぁ、しまったー! この人『バイ』だったんだぁー!)


「あふっ」


 唇が触れるか触れないか、ぎりぎりのところで、わたしは力の入りきらない腕で先輩の胸を押し返す……。


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