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図書室と先輩~ぷらす♪~  作者: アデル
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タクシードライバー

不安は不安のままでは終わらない。

 建物から外に出ると、襟元に張り付いてくる寒気に私は一度身震いをする。

 そしてケータイを取り出す。好きではないけど、時計代わりにしているので、これはこれで無いと困る代物になっている。

 電源を入れる。23時20分。途端、着信音が響く。設定音が発信者も知らせる。開ければ画面には「センパイ」の文字。私は一瞬躊躇したものの通話ボタンを押す。


「はい、アデルです」


「ああ、ようやくつかまった」


 電話の向こうでため息が聞こえる。


「あ、すみません。電源切っていたので……」


「なんでさあ。待ってたのに、全然連絡ないから心配するじゃん」


 何気無い一言だったにちがいない。他意は無いのだろう。言葉通り心配をしてくれたのだということに疑いの余地は無いと思う。

 しかし言葉というものは、それを発した人間と、それを受け取る側には温度差というものがある。常に同じ意味合いを持つとは限らないのだ。

 ささくれた私の心は、その言葉にほんの小さなトゲを見いだし、それを10倍、20倍にも膨らませてしまう。


「すみません。でも行けないって言ったはずですし、それについては謝ったじゃないですか」


 自分の声が好戦的になっているのがわかる。売るなら買ってやると言わんばかりだ。

 しかも約束をドタキャンしたのは私だというのに。


「いや、そうじゃなくて」


 私の口調に思わず怯んだか、先輩の声が一歩後ずさる。


「連絡くらいくれたっていいんじゃないか」


 私は、相手が至極真っ当な反論を口にしてきたこと、それ自体に敵意を剥き出しにする。


「電話するなんて一言も言ってないじゃないですか」


 苛立ちを隠さないまま、怒鳴るように言う。

 どうしてこうなんだろう。自分の言葉に理不尽な怒りを余計に燃え立たせてしまう悪い癖。


「それに……」


 私はこの間も足早に歩き続けていた。一人二人とすれ違う人がいる。

 この時間、この場所に来る人に笑顔などない。それが私の苛立ちをさらに募らせる。

 そして言うつもりのないことまで、勝手に言葉となり口をついて出てしまう。


「心配してくれなんてお願いした覚え、ありません」


 言ってはいけない言葉。瞬間、自分自身で驚き、戸惑う。

 舌打ちが聞こえた。そして大きなため息の後、沈黙が続く。私は歩を緩めない。

 通用口を出たところでタクシーが待っていた。

 私は運転手にちょっとだけ待ってくれるように声をかける。


「センパイ?」


 沈黙が長すぎることに気付き、私はあわてて話しかける。しかし、時すでに遅し。電話は切れていた。

 喪失感が私を包む。

 やっちゃった……。

 ケータイを折りたたむ手が少し震える。

 どうして……。

 どうしてこうなんだろう……。

 せっかく心配してくれたのに、その人に当り散らして……。

 でも今の私にとって、それは考え続ける対象にならなかった。

 もういい。もういいや、どうなったって……。

 タクシーに乗り込み、行き先を伝えると家に着くまで流れる外の風景を見ることのみに集中した。

 他に何も考えないように。心得た運転手さんは、私の相槌を期待するでなく、それでも私を気遣うように一人で世間話に花を咲かせる。

 中島みゆきの「タクシードライバー」を思い出す。苦労人なのかな、やっぱり。

 そして料金を支払う際にも、私をまじまじと見つめて一言。


「まあ、いろいろ大変だろうけど、あまり気を落とさないで頑張るんだよ」


 それは私が乗り込んだ場所のことを言っていたのだと思う。胸がつまりそうになった私は、かろうじて頭を下げることでそれに答える。

 走り去るタクシーを見送るようにして、時間を確認するとちょうど0:00。

 私のクリスマスイヴはこうして終わった……。


性懲りもなくやらかしてしまいましたね。



後日談は書いていなかったので、続きの「仲直りエピソード」はご想像にお任せです。

およそひと月半、やさぐれます。


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