あなたはビキニ派?スク水派?
海なんかね、嫌いなんですよ、ええホント。
「みんなで海行かない?」
始まりはミネコ先輩からのこのメール。あ、ミネコ先輩っていうのは小峰先輩のこと。
友達にそう呼ばれているからと、わたしにも使用許可を出してくれたってわけ。
さて、いつも思うのだけれど、ミネコ先輩のメールは簡潔この上ない。用件以外のことは滅多に書かない。
「だって字をうつのって面倒くさくない?」
と言っていたけれど実に同感。
メールはおろかケータイそのものが苦手、というわたし。親近感を覚えずにはいられない。
けれどこれには困った。海に入るということは、すなわち水着にならないといけないわけで。(当たり前?)
胸とわき腹のボリュームを交換できないものかと日々悩んでいるわたし。
性格はともかく(悪意はない)容姿端麗なあの人と? うぅ、隣に立ちたくないぞ。
わたしの返事。
「みんなって? あんど いつですか?」
「部の連中に声かけてるところ。明日」
あ、あしたー?急すぎませんかぁ?
けれどわたしの躊躇は次のメールでころっと。
「ジンも来るよ」
「いきます」
即座に返信。わたしって……。
「お兄さんに車だしてもらえることになったから迎えに行くね」
待ち合わせ場所を近所のコンビニにしてもらい、わたしはケータイを折りたたむ。そして、一番肝心なことを思い出す。
「あ、水着!」
あ~う~。
一緒にプールに行くような仲の良い友達なんていなかったものだから、(そもそも友達がいなかった)持っている水着といえばスクール水着。
さすがにスク水というのは……。
時計を見ればまだ11時。どうしよう、水着買いに行こうか。
今なら少し安くなってるかも。財布の中味と要相談。
おそるおそるのぞいてみる。記憶に間違いがありますように……。
まあ、人生、得てしてこういうものだよね、うん。
自分の記憶が確かなものであることは喜ぶべきことなんだけど、それを無条件で許容するかどうかは別の話で。はぁ……。
「う~、しかたない。主婦財布出すか」
わたしは二つの財布を持っている。
すなわち、女子高生としてのお小遣い財布。
もう一つは、食費その他生活を切り盛りするための「主婦財布」
正直、こっちに手を出すのは、負けた気分になるんだよなあ。
う~、でも背に腹は変えられない。福澤さん、とりあえずこっち来て。
今月は無駄遣いしちゃったから、一葉さんさえいないの。
そしてわたしは、うしろめたい気分を誤魔化すために、無理やり明日のことに頭を切り替えながら、水着を買うために家を出た。
他に誰が来るんだろう?
写真部の人だったらみんな知ってるし、楽しめるよね、きっと。
このときわたしは「先輩と海」にすっかり舞い上がり、ミネコ先輩の性悪な思惑に気付きもしなかった。
そしてなんとなく思ったのは別のこと。そういえばミネコ先輩ってお兄さんいたっけ?
やられた……。
「ヤッホー」
コンビニの駐車場にやってきた車から真っ先に降りてきたミネコ先輩。
続いて降りてきたのは眠そうな顔を隠そうともしない先輩と、対照的に元気いっぱいの、前に会ったことのある先輩の甥っ子ちゃん?
あれ、だいぶおっきくなってる。はやいなぁ。
後部座席にはもう誰もいない。
あれっ、他の人は?
「えっ、これで全員よ」
とミネコ先輩はニッコリ。
すると助手席から20代半ばかなと思える女の人が
「じゃあ、なんか適当に買ってくるから」
と運転席に向かって言いながら降りてくる。
「あ、おはようございます」
わたしは困惑気味になりながら挨拶をする。
「おはよう。今日はよろしくね」
そして店内に入っていくのを、先輩の手を振りほどいた男の子が追う。
あれぇ、なに、この展開は?
「わたしもなんか買ってくるね。高橋さん、朝は?」
「あっ、もう済ませました」
思わず素で答えるわたし。いえ、そうじゃなくてですね……。
けれどそんな追求をかわすかのようにミネコ先輩はさっさと店に向かう。
「ジンはおにぎりかなんかでいいよね」
「ああ、よろしく」
よろしくじゃなーい。
ミネコ先輩の後姿から視線を移し、頭をかいている先輩を、そのつもりはなかったんだけどギロリ。
「先輩、どういうことです、これって」
混乱がおさまりつかないまま聞いたものだから、思わず詰問調。
対する先輩は両手を胸の高さで広げて、ドォドォ。わたしゃ馬ですか?
「友達って高橋さんのことだったんだ」
「?」
話が見えない。ちゃんとわかるように説明してくださいね。
「いや、あのね……」
わたしの目を見て話し出したと思ったら、なにやら違和感。
あ、眉間のしわなんて見ないでください。もう、先輩ったら。
なんだかしどろもどろ状態なのは、もしかしてわたしが怒っていると思っているから?
いけないいけない。カワイク攻めるんでしょ。そのためにアレ買ったんだから。
わたしは息を深く吸い込み、両手で頬を軽くマッサージ。
表情を柔らかくしたつもりなんだけど、効果あるかしら。
たぶんに言い訳がましい言葉が間に入るせいで、要領を得づらい先輩の話。
かみくだいて言うと、どうやらこういうことらしい。
家に先輩のお兄さん家族が遊びに来ていた。海にでも行くか、という話になり、荷物持ち、あんど甥っ子の遊び相手を買って出た。誰か誘えば?とのお兄さんの言葉に、面倒くさがりの先輩は、ちょうど回覧板を持ってきたミネコ先輩に声をかけた。お兄さんとも幼馴染だから、自分ではいい人選と思ったようだ。
するとミネコ先輩が「友達誘っていい?」
おおらかなお兄さんは快諾し、そして昨日のメールになったという……。
やられたぁ!
お兄さんて先輩のお兄さんのことですかぁ?
そうだよね。たしか兄弟は下に弟さんがいるだけって言ってたじゃない。すっかり忘れていた。
それにしても、ミネコ先輩ったら……。
「写真部の人に声かけてるって……」
「いや、おれもそう思ってたのよ。矢沢さんあたりを誘ってると思ってた」
矢沢さんというのはミネコ先輩と仲のいい写真部の人。
「したらさ、高橋さんのうちの近くじゃん。もしかしてって思ったけど……」
「やられましたね」
わたしと先輩は、あらためてミネコ先輩の魔女っぷりををしみじみと感じ入ることになった。
けれど全然悔しくない。それどころか……。
先輩はどうなのかしら、と思ったら、しみじみ一言。
「まったくアイツもなぁ。ま、いいけどね」
ミネコ先輩に振り回されてきたのは昨日今日に始まったことじゃない、と言わんばかり。
いままで相当苦労したんだろうなあ。
二人の人間関係、というより力関係が如実に表されている一言に、なんだかとても可笑しくなって思わず吹きだしてしまう。
どうやらわたしの怒りがとけたと思ったか先輩も安堵したみたい。
「んじゃさ、そういうことで今日一日、ヨロシク」
「あ、はい。こちらこそ」
こうしてミネコ先輩の性悪な罠にはまったわたし。でも念願の「先輩と一緒に海」だし、まあよしとしましょうか。
そんなふうに前向き?に思ったところ、先輩が顔を少しにやけさせながら小声で聞いてきた。
「ねっ、そういえばさぁ、高橋さんの水着って、どんなの?」
こら、いきなりそれですか! こうなりゃ。
「先輩の予想としては?」
「うーん、ビキニ?」
それ、予想じゃなく希望でしょ。
「えーと、何もつけないとか……?」
ほーぉ、それはもはや欲望といっていいレベルですよね。
ニッコリと笑顔を作りつつ、先輩の足を踏んづけるわたし。
「あ、ごめん。定番のスク水でお願いします」
おっと、ニッチな要求ですね。
ニッコリ。さらにグリグリと。
「痛い、痛いって」
まったくもう!ほんと、困った人だ。でも……。
店員さんにすすめられ(のせられ)、思い切って買ってしまったのはバンドゥ。
フリルがついていてツルぺタも目立たない(と店員さんが言っていた)
バッグの一番下には、実は持ってきてあるスクール水着。先輩のどちらのご希望にも対応できるぜ、ふふん。
はてさて、どちらをつけようかしら?
まあ、お約束ですよね。
凹凸に乏しい上半身のせいなのか、はたまたサイズが微妙だったのか、
波ザップーン。プハッ!…?…あれ?…!!
ずれる、ずれるとき、ずれれば、ずれた。Oh my God!
はい、ずりあがっちゃったんですよ。
はぁ、素直にタンキニ買っておけばおけばよかった…。




