銀杏の木の下で②(会心の一撃)
「銀杏の木の下で」の続き。
シリアス調に書いてみたかったようです。
「前にうちの両親が離婚していることは話しましたよね」
「ああ、聞いた。お母さんとそりが合わないってことも」
ひとしきり泣いて、落ち着いたわたしは、先輩と一緒にベンチに座り、いままで口にすることのなかった家の事情を少しずつ話し始めた。
「その人がですね、今日家に来るんです」
「なるほど」
わたしは自分が思っているほどポーカーフェイスではないらしい。
眉間に皺がよっていた、と聞かされたときは両手で顔を覆ってしまった。
「ほら、わたしってあまり頭が良くないじゃないですか?」
「それは否定したほうがいいのかな?」
少しでもリラックスできるようにだろう、先輩がほどほどに茶々をいれてくる。
否定されて成績上がるならそうしてもらうのですが、と私は軽く首を振る。
「それでですね、あの人、進路のことにも口出ししてきたんです」
「うん」
「昨日も電話で話したんですけど、なんて言ったと思います?」
「いや」
「大学くらい行ってちょうだい。これ以上私に恥をかかせないで、ですって」
「うん」
「今日来るのは話を煮詰めるためだと思うんです。たぶん塾とか家庭教師やらの手配をするつもりなんです」
「お父さんはなって言っているんだい?」
そうか。このことを言っていなかった。
「あ、すみません。わたし今、祖母の家なんですよ」
「えっ、お父さんは?、また入院とか?」
「ああ、違います、違います。祖母がですね、どうも体調が芳しくないようで、わたしが一緒に住むことになったんです。父は、そうですね、仕事がかなり忙しいみたいで、帰りが遅かったり帰ってこなかったりです」
「お父さん、大丈夫なのかい?それにおばあさんも?」
「ええ、今のところは」
嘘ではない。体は治りきっていないけど、それでもできる仕事がたんまりあるらしく、父は喜んで仕事に行っている。また体を壊さなければいいけど。
祖母については……、まだどうなるか分からない。「今のところ」大丈夫なのは事実なのだろう。ただしその先に不安があるだけだ。
「父はあのとおりの人なんで、放っておいてもと言うか放っておくのが一番と言いますか」
「あいかわらず手厳しいね」
「祖母のほうはですね、ヘルパーさんとか雇えばいいんですけど本人が嫌がりまして。まあ、自分のことは自分でできますしね。でも誰かがそばについていたほうが、ってなったんです」
「でも、それじゃ大変だろう?」
「ああ、そんなことないですよ。逆に楽になりました」
「?」
「学校が近いんですよ。距離が半分くらいになりましたから、遅刻しないで済みます」
これは実にありがたい。
「それに、祖母にはずっとよくしてもらってましたし、孝行できるチャンスですから」
そうだ、まだ他にも理由があった。
「先輩。最近ウチの近所で通り魔事件があったの知ってます?」
「ああ、TVでもやってたし、学校でも放送されてたからね」
そう、深夜十一時くらい仕事帰りのOLがナイフで切りつけられたとか。犯人はまだ捕まっていない。塾の帰りとか十分注意するようにとHRでも先生が言っていた。
「まあ、そういう条件が重なってですね、祖母と一緒に住むことにしたんです。父とも話し合ったことなのでご心配なく」
とりあえず嘘は言っていない。ただ言っていないことがあるというだけだ。
「まあ、父抜きであの人と対決しなくちゃならないんで、そのことについては気が重いです」
「俺、前に言ったよね。話を聞くくらいはできるから、溜め込む前に吐き出せってさ」
心配してくれているのは本当にありがたい。
「ああ、溜め込んでいたわけじゃなかったんですけどね。いろいろと急に来ちゃったものですから」
「大丈夫、なんだよね」
先輩が念を押してくる。問題は何をもって「大丈夫」とするかだ。
あの人の件はどうにかなるだろう。まずはそのことについてのみ返事をする。
「ありがとうございます。大丈夫ですよ」
「そうか」
「ええ」
これで話は終わり、のはずだった。けれど、やはり先輩は先輩で。
「大丈夫じゃないことがあるみたいだけど、言いたくなければ聞かないよ」
会心の一撃。
風が銀杏の葉を一枚二枚どこかへと運ぶ。葉擦れの音がまるで効果音のようにひとしきり。
「やっぱり先輩ってずるいです」
わたしは先輩の顔を両手ではさみ顔を近づけた。
「君ほどじゃない」
「わたしはただ性悪なだけですよ」
そのままわたしは唇を重ねる。せっかく乾いた頬をまた涙で濡らしながら。
くどい文章表現ゆえか文字数がかさんでいたので、前後半に分けました。




