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図書室と先輩~ぷらす♪~  作者: アデル
17/26

青は愛より出でて

先輩はいつのまにか卒業してしまったようです。





 名前を知らない木や花がたくさん、本当にたくさんあります。

 これも、そのうちの一つ、です……。


挿絵(By みてみん)


 線路沿いにある大きな家、広い庭。

 そしてそこに植えられているさまざまな木や花たち。

 その中で、わたしの目をひいたもの。

 枝先に白く丸い、あれは実なのかな花なのかな?


「先輩、あれってなんですかね?」


 一緒に歩いていた先輩に聞いてみる。


「先輩と呼ぶのはもうやめてくれ」


と言われたこともあったのだけれど、この人が卒業するまでのおよそ二年間、自分なりのこだわりを持って使ってきたこの代名詞を、わたしは今も使い続けている。

 近頃は諦めたのか、そのことでは何も言ってこない。


「うん? ああ、あれか……」


 植物には詳しくないことは、もう十分知っているのだけれど、時折横文字の長ったらしい園芸品種の名前をスラスラと言ったりすることもあって、その意外性を頼りにしてみる。


「うーん、わかんないけど、もしかしたらアレじゃね……。ほら、目が良くなるヤツ」


 言わんとするところはわかるんだけど、なんでそこで素直に名前が出てこないんだろう。面白い人。

 そう言われれば、形はそっくりのような気がするけれど、いかんせん色がその名前と合致していない。とりあえずそのことで反論。


「えー、でも白いですよ?」


「熟せば色付くんじゃね?よく知らんけどさ」


 こちらの「とりあえず攻撃」をよくわかっていると見えて、これまた、曖昧さ、いい加減さを前面に押し出して橋頭堡を築く先輩。


「えー、本当ですかぁ?ちょっと赤っぽいですよ?」


 16cmほど下から、疑いの上目遣い。

 けれど、これもすでに慣れたと言わんばかりに、目を泳がせながら「さぁ?」と笑いながら受け流す。

 ほんと、この人ってば、わたしの扱い方がうまくなってきた。

 あしらわれている、と言ったほうがいいのかもしれないけど、不思議と腹も立たない。それどころか……。

 と、おもむろにわたしの頭に手をおく先輩。


「よし、そんなに言うんなら賭ける?」


「へっ、なにを?」


「来週にでもまた来ようよ。したら少しは色付いているんじゃね?」


 埒もない論争に決着をつけられる最善手のつもりだろう。

 それもいいかな、と思いつつ、わたしは生来の天邪鬼さを発揮して、咎めの一手で少し意地悪を言ってみる。


(素直じゃないなあ)


「つまりは来週も”またここで”デートしよう、ってことですか?」


 ああ、そういえば「咎めの一手」って普通使わないのかな?

 将棋や囲碁でよく出てくる言葉だから、自分では何気なく口にしたりするんだけど、誰もそんなの使わないよ、って笑われたことがあるんだよね。

 ああ、マニアックなわたし……。

 話を戻して。


「ま、そゆこと」


 半分苦笑いを浮かべて先輩がそれを認める。怒っているふうにはみえない。打たれ強いなあ。


「何賭けるんです?」


「うーん、そうだなあ……。青くなってればオレの勝ち、ってことで……」


 ゾクッ! うっ、なんかイヤな予感……。

 ほんのちょっと考えた後、先輩は耳打ちをしてくる。


「……っていうのはどう?」


 耳打ち。つまり、あまり大きな声では言えない内容なわけで。

 わたしは条件反射的に思いっきり先輩の背中を叩く。


「ナニ考えてんですか、もう!」


「いや、ソレ考えているんだけど」


 少し照れているのはかわいいけれど、そんなこと賭けるかなあ。まあ、この人らしいけど。

 こう思ってしまうわたしもなんだか……。


「じゃ、わたしは……」


「“ラ・リーヴ”のケーキ、三つまでなら可」


 いきなり考えを読むなあ! エスパーか、あなたは?

 それはわたしのお気に入りのケーキ屋さん。

 食い意地を主軸に考えるパターンを読まれたことは悔しいけれど、既定路線を踏み外すのはこれまた本意でもなく。


「残念でした。今回は“ロンシャン”にさせてもらいます」


 ケーキなのは変わらない。わたしって……。

 6月終わり、わたしは先輩とこんなデートをした。

 賭けのことは、その日限りのたわいのない会話。

「次」の約束代わり。

 先輩はそう思っているのだろう。

 いつか忘れた頃に話題にして盛り上がる算段。わたしだってそう思っている。けれど……。

 賭けの内容が内容だけに、ついつい気になってしまうわたし。


 一週間後。

 わたしは二人で来るべき場所に一人でやってきた。

 先輩に用事ができてデートがお流れになってしまって暇つぶし。

 確かめずにはいられなかった、というのが本当のところなんだけどね。

 広い庭に羨望の念を抱きつつ、真っ先に視線を向けたのは、もちろん、あの白い実のなっていた木。

 はたして、何色になっているのか……。

 青くなっていれば先輩の勝ち。それ以外ならわたしの勝ち。

 さて、勝負の行方は……。


 そして今日。


「あの実、摘み取られていたみたいでなくなっていたんですよね」


 用事がてらあの道を通りがかったことにして、わたしがあの白い実の「その後」を話す。

 すると先輩は、あっけなく賭けのお流れを宣言。


「あっちゃあ、実物がなくなっちゃあ、賭けも成立しないなあ。残念」


 ズルイ人。

 ホントは知っているくせに。いつもこう。

 それにわたしのウソ見抜いているくせに。

 優しいと言ってあげればいいのだけれど、なんだかそれもちょっと癪に触るから優柔不断ということにしておこう。


 だから、あの実がいったい何だったのか、今も判らないということにしてあります。

 判ったら負けになっちゃうから。

 ええ、ズルイんです、わたし。

 でも本当は負けてもいいかな、って思っていたんですよ。

 ただ、さすがにこれがキッカケっていうのも、なんだかちょっと……、って思っちゃって。

 あの実ですか?

 ええ、摘み取られてなんかいませんでした。

 ウソっていうのはそれです。ごめんなさい。

 青くなっていたんだろうって?

 残念でした。変わらず白いままでしたよ。

 ただ、庭に家の人がいたものですから……。


 えっ?


 だから、それは「判らない」んですってば。

 わたしに負けさせたいんですか?

 何賭けたのかって?

 やだあ、そんなことまで言わせないでくださいよぉ。

 恥ずかしいじゃないですか。ナ・イ・ショ。

 ただですね、もう少ししたら負けを認めるつもりなんです。

「先輩の部屋で」「いい雰囲気」になったら、って条件付きですけどね。

 ちょっと期待しちゃってる今年の夏です。


いまだ、なにもない?二人

チャンスはいくらでもあったと思われるのですが、悉く逃してきたようです。

ほんと、このコはしょうもない。

でもまあ、なんとか仲良くやっているようです。

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