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図書室と先輩~ぷらす♪~  作者: アデル
15/26

熱帯夜

蒸し暑い夜はイヤですね。

 眼下を貨物列車が過ぎる。ゆっくりとした動きから、徐々にスピードをあげてゆく様を、私はケータイ片手に眺めていた。

 そして最後の車両が過ぎるのを待ち、送信ボタンを押す。


 『今会えますか?』


 返信が来ることはない。そんなことはわかってる。

 夜中の三時過ぎ。

 深夜は電源を切ると言っていた。あの人がこのメールを見るのは明日の昼くらいになるだろうか?こまめにメールチェックなどする人ではない。

 バカなことをしていると自分でも思う。多分自虐的な笑みを浮かべているだろう。

 一人で街をさまよって結局何処にも行けず、跨線橋の上で頬杖ついているなんて滑稽にもほどがある。

 明日、あの人にメールのこと聞かれたら、「ちょっと寂しかっただけです」とでも言おうか。

 頭を冷やすつもりでいたけれど、今日も熱帯夜。無為な時間を過ごしたことも手伝って、ぬるい風が余計に私の心にささくれを残す。

「バカみたい」

 吐き捨てるようにつぶやいて、私はケータイをたたむ。

 塒がないわけじゃない。戻ろう。ただ眠るために。ただ体を横たえるためだけに。そしてその方角に向けて足を向けたとき、あの人専用に設定した着信音が、横を通り過ぎる車の音よりも大きく響く。

 !

 まさか……。なんで?


「今何処にいる?」


 通話ボタンを押すと、いきなり怒気をはらんだ声が私を詰問する。

 地元ターミナル駅北側にかかる跨線橋の名を告げる。


「10分で行くから待ってろ。絶対そこから動くなよ」


 それだけ言うとあの人は電話を切った。

 なんで?電源切ってるハズじゃなかったの?

 え、どうして?

 そして頭の中を整理しきれないうちに、あの人が自転車でやってきた。

 実際何分だったんだろう?10分もたっていなかったと思う。


「ああ、良かった。いたか」


 私のそばで、ハンドルに顔を突っ伏すようにして、大きく息を吐くあの人。


「あの……」


 私はどうしていいかわからず、ただおろおろするばかり。


「うーんと、まあいいや。とりあえずな……」


「えっ?」と伏せ気味だった顔を上げた瞬間


 パシッ!


(あ…れ…?)


 一瞬何が起こったのかわからなかった。後を追うように右頬がしびれるように熱くなってきて、そのとき初めて、自分が平手打ちされたのだとわかった……。


・・・・・・・・・


 ……痛い。


「ほれ、行くぞ」


「あの……、何処へ?」


「決まってんだろ。ウチだよ、ウチ」


 この後、先輩は有無を言わさずといった感じで、わたしを自分の家に強制連行する。

 家にあがると年配の女性が待っていた。先輩のお母さん?


「ああ、おかん。ただいま」


 何か言わなくてはと思うのだけれど、言葉が出てこず、あわてて頭だけをさげる。

 こんな形で初対面を迎えることになるなんて……。


「今はいいから、とりあえず休みなさい」


 厳しい口調。呆れているんだろうな。

 連れて行かれた部屋にはすでに布団が用意してあった。


「ああ、俺ので悪いんだけど」


 着替えろというのだろう、Tシャツが渡された。


「とにかく休んでくれ。話は起きてから聞くから」


 先輩の顔をまともに見ることができない。


「ごめんなさい」


ようやく声を出したとき、わたしの頭に手を置き、先輩はため息を一つ。


「おやすみ」


 渡されたTシャツは思った通りブカブカだった。





(知らない天井だ……)


 目を覚ました時、その場所にまるで見覚えがなく、一瞬の混乱が起こる。


(あれっ、ここどこ?)


 頭がうまく働かない。上体を起こし、寝呆けたままゆっくりと室内を見回してみる。

 そして徐々に意識が覚醒するとともに「なぜ自分がここにいるのか」を思い出し……。

 わたしは本当に頭を抱えてしまう。


(あ~、やっちゃった~)

やっぱり、やらかしてしまったようです。

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