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図書室と先輩~ぷらす♪~  作者: アデル
13/26

夏の風

そういうお年頃です。

 自転車置き場から、わたしは急いで校門に向かう。

 先輩と待ち合わせ。

 男の子を家に呼ぶなんて初めてのこと。しかも……。

 心臓のドキドキが止まらない。

 さっきまであんなに積極的だった自分が信じられない。

 でも、ここまできたら引き返せないし、またそのつもりもない。

 勢いでするようなことではないことも判っているけど、こういうことってある意味、勢いが必要なんだよね。

 そう、今の気持ちに正直に生きるなら……。

 それにしても、ロマンチックというには程遠い展開になってしまった。

 どっちかというと「先輩の部屋で」ってのが第一希望だったんだけどな。


(けど、しょうがないよね。したいんだもの!)


 はしたない本心をひたかくし、校門で所在なげにたたずむ先輩に声をかける。


「お待たせしました」


「あ、うん」


 事の成り行きに戸惑っているのがありありとわかる表情。もうちょっと、シャキっとしてもらいたいなあ。

 こっちも、ちょっとこわいんですよ。

 それを素直に出さない自分もどうかとは思うけど。

 しかも、ずるいことにいろいろな作戦パターンも立てちゃってるし。

 そんなことを考えながら先輩の顔を覗き込む。


「どうしました?」


 いつもならポンポンと言葉を発する口がなかなか開かない。と思ったら


「ごめん。調子に乗ってた俺が悪かったんだけど、さっきのあれ、ナシにしよう」


いきなり真顔になって謝る先輩。


「えっ?」


 その言葉に、今度はわたしが戸惑う番。


「カッコつけるわけじゃないんだけど、なんか…、なんか違うって思うんだよね」


 かなりその気になっていたわたしの中で、サーっと何かが引いていく。


「それに高橋さんて、今一人暮らしでしょ。そこに上がり込むわけにもいかないし。うーん……、だからさ……、ごめん」


 そのまま、先輩は頭をかきむしり黙り込む。

 父親が腰の手術をし、いまだ入院中。だからいまわたしは実家で一人暮らしとなっている。

 だからこそ誘ったのだけれど、うーん、それが逆にアダとなってしまった。

 わたしはわたしで、着陸指示のシュミレーションまでしていたものだから、旋回されてしまって、ただ呆然。

 ちょっと気まずい空気。さてさて、ここでわたしの取るべき道は?


 1.わたしに恥をかかせるんですか?となじる。

 2.平手打ち!

 3.強引に家に連れていき押し倒す!


 制限時間一分。ハイ、スタート!

 ・

 ・

 ・

 しゅーりょー。さあ、1、2、3のうち、どれ?

 ・

 ・

 ・

 だぁー!どれもパス。んなことできるわけないじゃないの。

 というか、逆にホッとしているし。調子に乗っていたのはわたしのほう。まったくわたしもバカなんだから。

 あらあら、先輩も自力じゃ上昇気流には乗れないみたい。

 うん、これは仕方ない。「清く正しい男女交際?」に舵をきりなおそう。ちょっと残念だけど。


「あーあ、結構、勇気いったんですよぉ」


 わたしは先輩の顔を覗き込みながら、努めて明るい声を出す。


「ちょっと恥ずかしかったし」


 そのまま先輩の胸に軽く頭を押し当てる。先輩の胸って分厚そう。ボタンが当たってちょっと痛かったけど、これは先輩をからかったバチが当たったんだと思うしかないよね。


「あ、ああ、ごめん」


 あ、なんかマンガでこんなシーン見たかも。中味は全然違うけど。

 サブキャラのキレイな女の子が振られて、そのあとサバサバした表情で相手の男の子に笑いかけるシーン。

 うぉっと、縁起でもない。

 それに、お相手の男の子も……。

 ちらり。

 …

 ……

 ………全然ちがーう!

 ダ、ダメだ。耐えられない!

 思わずその場で吹き出してしまうわたし。だってマンガとのギャップが激しすぎて……。


「な、どうしたん?」


 ひとしきり笑いこけるわたし。わけもわからず、おろおろする先輩。

 やっぱりこれかな?

 あまり事を急いたって、いいことなんかありはしないんだから。一人で勝手に納得。ころころ、ころころ、転がるわたし。

 いろんな意味で恥ずかしいことしてたね。先輩、ごめん。ホント、わたしのほうがなじられてもいいくらい。

 先輩はわたしが思っているより、ずっとロマンチストだったんだね。たぶん、わたしが思っている以上に、わたしのことを考えてくれている。

 ありがとう。やっぱり大好きですよ、先輩。

 少し涙目になりながら、わたしは自転車のハンドルを先輩に押し付ける。


「はい」


 わたしの反応に、どう対応していいのかわからない様子の先輩は、マンガの男の子のようにはなれなくて、困ったような顔でわたしを見るばかり。

 オロオロキョロキョロ落ち着きないし。

 けれど、今のわたしにとって、この人以上にカッコイイ人はいない。

 でも、エッチな期待を反故にしてくれたお礼はきっちりしとかないとと、これまた性悪魔女のわたしは思うわけで。ホント、多重人格じゃないかしら、わたし?


「じゃあ、エッチ抜き、ということで」


「え?」


「えっじゃなくて、勉強教えてくれるくらいはいいでしょ?」


「あ、でもやっぱり一人暮らしの女の子のところには……」


「わたしは気にしませんよ」


「でもなあ……」


「大丈夫ですよ。なにもしませんから」


 自分で言って吹き出してしまったわたし。だって……。


「ねえ、先輩。これって、普通逆じゃないですか?」


「ん? あ、ああ、そだね。っはは。うん、じゃあ、ちょっとだけお邪魔させてもらうかな」


 頭をかきながら照れ笑いの先輩。うん、やっぱり可愛い。


「だから、はい。運転よろしく」


「えー、俺がこぐの?」


「んもう! わたしに先輩を乗せて走れと?」


 ずっと前から持っていたささやかな願い事。

 好きな人が乗る自転車の後ろ座席に、ちょこんと女の子座りして、後ろから抱きつくようにして腕を巻き付ける。いいよね、アレ。

 今がそのチャンス。

 なら逃がしちゃいけないとばかりに、演技派アデルにバトンタッチ。

 先輩のシャツをつまんで、ちょっと俯き加減。

 そして聞こえるか聞こえないかのような、小さい声で言ってみる。


「先輩?これって女の子の憧れ、なんですよ。だから……」


 ポン。先輩の手がわたしの頭に乗せられる。大きい手。


「はいはい、わかった、わかった。でもさ……」


了承してくれたにも関わらず、まだ何か言いたいことが?


「今笑ってるだろ」


 ギクッ!あっちゃあ…。

 どうやら先輩もいつもの調子を取り戻したみたい。


「ま、でもいっか。うぉっし、んじゃ」


 先輩にうながされて、わたしは後ろに座り、だぶついたシャツをこわごわとちょいつまみ。その場になるとなかなか大胆な行動には移れない、言行不一致この上なし。


「行っくよ!」


 最初よれよれとふらつく自転車。ちょっとコワい。でもすぐにスピードに乗って。

 あ、なんだか……。

 目の前の風景が横に過ぎていく。初めてだな、こんなの。

 電車やバスとは全然違う。とても新鮮。

 先輩がわたしの手を取って、自分のおなかの辺りに押し付ける。


「危ないから、手はこっち」


 うわ、こんなのでドキドキしちゃってるよぉ。

 先輩がその気であのままいってたら、もしかしたらその場で気絶してたかも? 経験値の無さはやっぱりいかんともしがたいなあ。

 そして、わたしはその手に感じる先輩の腹筋にまたしてもドギマギ。

 もっとプヨプヨかと思ってた。


「先輩?結構腹筋硬いんですね」


「ふっふーん。意外でしょ。こう見えて、俺って体鍛えてんのよ」


「じゃ今度見せてくださいね」


「あのねえ…。にしても、うーん、やっぱ思うんだけど、高橋さんてさあ……」


「はい?」


「エッチだよね」


 何言ってんですか、いまさら。女の子なんてみんなエッチなんです! 変な幻想抱いちゃダメですよ、先輩っ!

 特にわたしなんて、そのことばかり考えている時があるんですから。


「先輩? もしかして今、ちょっと失敗したかなあ、とか思ってます?」


「そりゃ当然。かっこつけんじゃなかったって、後悔しまくりだよ」


「じゃあ、します?ちなみにわたしは「したい」ですよ」


 きわどい会話。わたしも懲りないなあ。


「んにゃ、武士に二言なし!」


「据え膳食わぬは武士の恥ってのもありますし。まだ間に合いますよぉ」


 こうなったら、とことんあおってあげよう。


 けれど先輩はそんなわたしの目論みはお見通し。


「あんまり調子こいてっと振り落とすぞー!」


「あうっ」


 いきなり蛇行運転をされて、わたしはさらに先輩にしがみつく。

 ふふっ。わたしは自然と口元がゆるむのを心地よく感じていた。

 たぶん、先輩も笑っていることだろう。

 ああ、風が気持ちいい。

 夏、二人乗りでの帰り道。

さて、本当に勉強だけで済むのでしょうか?

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