ゲームオーバーにはまだ早い
初出2009年です。
「チャッチャチャチャチャチャーチャーチャーン」
疎いわたしでも知っている有名ゲームのBGMを、調子っぱすれに口ずさみながら図書室に登場した先輩。
うーん、今度から金ダライが落ちるようにしておこうかしら。
入り口から1mくらいの範囲で、声に反応する装置でもつけて。
これは真剣に検討する余地があるわよね、うん。
「ねえねえ、高橋さんてゲームとかやる?」
こっちの気苦労も知らず、まったくこの人は。
「ゲーム?」
「そっ」
さて、今日はどんな思惑でこんな話題を振ってきたのかしら。
あ、いけない、いけない。
まったくわたしってば、こうやってすぐ勘繰ろうとしちゃうのよね、悪い癖。
うん、ここは素直に答えてあげよう。
「パソコンでならよくやってますよ」
「へえ、どんなの?」
「男の子が主人公のモノが多いですね。リアとは違う目線が楽しいです」
「ふーん」
「シュミレーションっていうんですか?いろいろな敵をあの手この手で攻略していくんですけど」
「へえ」
「だいたい敵が5、6人というパターンが多いです。それで、まずは一人にルートを絞ってですね」
「ルート?」
「ええ、それでストーリー中のイベントをこなしていくだけなんですけど」
「イベント?」
「フラグがたっていないとイベントが起きなかったりします」
「フラグ?」
「ええ、これに失敗すると最悪死んじゃったりします」
「ちょっと待って」
「はい?」
「もしかして、それって「幼馴染」とか「美人生徒会長」とか「金髪留学生」が出てきたりする? あと「幽霊」とか「猫耳娘」とか「ロボット」とか……」
「あ、すごい。よくおわかりですね」
「ってギャルゲーかい!」
「先輩?語るに落ちるって言葉知ってます?」
「う、いや、その手のゲームがそういうパターンっだってのは知ってるだけ……」
じとー。
「じゃなくてだな」
あわてて話題を変えようとするところが実に可愛いぞっと。どんなゲームをやったことあるのか、あとで聞いてあげよう。18禁なんだろうな、やっぱり。
「これ。ゲームセンターで遊んだときとったんだけどさ、俺、もう持ってるし、もしよかったら高橋さん、どう?」
そして出されたのは、TVコマーシャルやコンビニのポスターでお馴染みのゲーム。
「え、いいんですか?中古屋さんとかに売ればお金になるんじゃないですか?」
「まあ、高橋さんがいらないって言えば売っぱらっちゃうけどね」
「いえいえ、そんな。先輩の好意を無碍にはできませんし」
「じゃあ、はい」
「うわっ、ほんとにいいんですか?ゲーム代くらい出しますよ」
「あれ、いいの?」
「はい、ただでもらうのはさすがに気がひけますから」
「じゃあ……、六千円」
「はぁ?」
「いやあ、一葉さんと英世さんがね、お財布からダッシュして出ていっちゃってさ……」
「先輩?それって新品買うのより高くついてません?」
「いやあ、なんだかさぁ、引くに引けなくなっちゃって」
そしてわたしが何か言うのを阻止するかのように二の句を継ぐ先輩。
「男にはね、負けられない戦いってのがあるもんなのよ」
(  ̄ △  ̄;) もう、唖然というか……。
「呆れてものが言えない」視線で先輩をじー。無言の圧力を感じ取ったか、
「あ、冗談だよ。そんなバカなことするはずないじゃん」
とあわてて前言撤回する先輩。
いや、これは本当に六千円使ったな。少なくとも五千円は使ったと見た。目が泳いでいるし。
う~、ツッコミたい。ツッコミたいんだけど、ここはスルーしといてあげるべき?
「とにかく、ハイ!」
おおっと、強引にきたぞ。ツッコミ回避?分かり易すぎる。でも、これ以上なにか言ってヘソを曲げられても困るし。
ふむ、ここはありがたくもらっておきましょうか。などと、いったい何様?的なことを考えていることは、もちろんおくびにもださず
「ほんとにいいんですか?ありがとうございますぅ」
と喜んでいる素振りをみせるわたし。
ホント、何匹猫をかぶっているのかしら、わたしってば。うーん、性悪すぎる。
(ホントは素直に嬉しいんだけどね)
かくして
・
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アデルは『ドラクエ9』を手に入れた。
「ちょっとやってみたいなぁって思っていたんです。ありがとうございます」
手に持った「ドラクエ9」を眺めつつ、素直に礼を言うわたし。
「うん、したらさ、今度通信でもやって一緒に遊ぼ♪」
先輩も満足げににっこり。
やっぱりいいなぁ、先輩の笑顔って。
うーん、なにかお返ししてあげたいんだけど、今は何もないからなぁ……。
あるとしたら……。あ、じゃあ、言ってみようかな。
「もらってばかりじゃ悪いんで、今度お返しさせてくださいね」
わたしのこの反応がイマイチ予想外だったのかキョトンとする先輩。
「そんな気にしなくていいよ。遊んだついでのオマケみたいなものだから」
そう返されたら次に進めないでしょ!
「唇をとがらせて上目遣い」のちょっとスネるポーズ?
「あー、そうだね。期待して待ってるよ、うん」
わたしの視線に何か危険なものを感じ取ったか、とってつけたような返事をする先輩。
うーん、ちがうな。かわいく攻めたつもりだったのに、なんかちがう。しかたない。奥の手だ。
「今度リボン巻きつけておきますね」
さあどうだ。実際口にしたら、ちょっと恥ずかしいぞ。
さて、先輩の反応は?
うぉい!なんでまた、そこで呆けているねん!
思わずエセ関西弁でツッコミを入れてしまう。
それでもって次に発した言葉がこれだもの。
「え、なに。写真撮らせてくれるの?リボンつけた高橋さんか~。いいね、いいね」
に、にぶっ!
分かってたつもりだったけど、やっぱりかぁ。
「わたし」が「プレゼント」だって言ってるんですよ。
はあ……、だめでした。
露骨にせまれば逃げられちゃうし、遠回しに誘惑かければこの通りの誤爆になってしまうし。
ルートは先輩一本。フラグも立っていると思うんだけど、どうにもこうにもイベントで選択ミスばかりしているなあ。
こないだオアズケするんじゃなかったと軽く後悔しながら、またもや「ま、いっか」で締めくくってみる。
そう、まだまだこれからなんだから。がんばれ、わたし。
と、ここでハタと気付いた肝心なことが一つ。
「あ、そうだ。わたし、DS持ってないや」
ズルッ!
先輩が派手にずっこけたとき、ちょうどチャイムも鳴って
はい、今日の図書室劇場はこれにて幕!