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オープニング
それは誰も知らない場所。主さえも、この場所がどこにあるかは知らない。
それでいい。自分という存在はこの物語において、表に立つ必要はない。
怨念はない。復讐でもない。
虐げられ、排斥された過去など、自分にとっては一考の価値もない。
しかし主がそれを望むのであれば、オープニングを奏でよう。
できるだけ派手に、鮮烈に、これから訪れる新しい世界を歓迎しよう。
榊綴は、空中で指を踊らせながら、誰もいない空間で、喉に息を吹き込んだ。
「沁霊術式――解放」
掠れた声とは対照的に、尋常ならざる魔力が暗い空間に幾何学模様を描き、青白く輝いた。
「『私たちの物語』」
その瞬間、魔力は爆発するように広がり、東京都の中心を覆った。
都心三区から副都心四区――すなわち千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区、豊島区、文京区の範囲は、対魔特戦部の活動の中心であった。




