もう一つの契約
そこは明るい空間だった。
──あれ、どうして私、ここに。
陽向はその場で、前後の記憶を思い出そうとした。
周囲では、いくつもの光景が流れて消えていく。それらの共通点は、陽向がこれまでに見聞きしてきた記憶だということ。
そしてどの場面にも、必ず勇輔がいた。
次々に記憶は切り替わり、流れ続ける。
出会ってから一年も経っていないというのに、これだけの記憶に溢れていることに、驚く。それだけ自分が彼を目で追っていたのだと、自覚する。
同時に理解した。
自分が大切にしていたこの宝箱を、誰かが開けようとしている。
愚かにも、その鍵を渡したのは自分だ。
後悔しても、もう遅い。
──ああ。
渡したくないと、そう思った。どんな結末になろうと、自分の力が足りなかろうと、この想いは陽向だけのものだ。
あの人に届けるというのなら、それは、自分の言葉で、自分の手でなくては意味がない。
そう思った時、陽向の目の間に何かが現れた。
それは人のような形をした、桜色の炎だった。
火の粉が散り、炎の端がヴェールのように揺らめく。
そして、声が聞こえた。
『この出会いは奇跡。受け入れて。私はあなたに、あなたは私に。そうすれば共に行ける。あの人の場所へ』
それは新たな契約だった。
陽向にその存在が何なのかは分からなかった。しかし、この出会いが奇跡だということは、どうしてか納得できた。
「私は、もう弱気にならない。あなたが力を貸してくれるというのなら、私はそれを利用する。どんな方法でも、私は私のやり方で、先輩の隣に行く」
そう言って、なんの躊躇もなく、炎の手を握った。
炎が、笑った。




