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背水の相性




     ◇   ◇   ◇




 鵺は何が起きたのか分からなかった。闇に紛れながら、女の様子を(うかが)う。


 撃った雷は、突如現れた盾によって防がれてしまった。


 今の鵺の攻撃は、全てが勇輔と戦った時よりも強化されている。落雷も、そう簡単に防げるものではない。


 しかし通らなかった。


 ならば別のやり方で殺す。


 ──ヒョロロロロロロロ。


 病魔の声が多重に響き渡る。これならば盾では防げない。


 カナミは声が聞こえ始めても、もう避けようとはしなかった。


「タリム、相殺してください。この音は聞くに()えませんわ」

『命令するのはやめてください。私はあなたの道具ではないのですよ? しかし、確かにこの声は不快ですねぇ』


 特に、自分達が上位者だとでも勘違いしているあたりが。


 タリムは即座に盾の機構を変化させた。彼の魔術は『混生万化(こんせいばんか)』。


 受けた攻撃を分析し、それを超える肉体を作り出すという超常の技。


 そこにカナミの知識が合わされば、肉体はただ強化されるだけでなく、必要な機構を備えた武器として現れる。


 そしてタリムは魔族として膨大な魔力を保有していた。


 カナミは作り出したい魔道具があっても、これまでは素材や時間、技術、道具の問題で諦めなければならないことが多々あった。


 しかしタリムがいれば、その全てが実現される。


 二人は互いに必要としている物を持っていたのだ。


 盾は内部の構造を組み替えられ、スピーカーとしての役割を持つと、すぐさま病魔の声に対して音を鳴らし始めた。


 既にタリムは病魔の声を受けている。それを相殺する音を出すなど、造作もなかった。


『良いリズムでしょう。こう見えて私は音楽に対する理解も深いのですよ』

「ええ、ありがとう。ただ音楽の趣味は合いそうにありませんわね」


 雷も声も通じない。


 それを認識した時、鵺は初めて顔を歪めた。


 彼は嬲り殺しに来たのであって、こんな抵抗は予想外だった。


 ──ヒョロロロロロ‼︎


 鵺は辛抱というものができなかった。カナミたちに変化が起きたことは理解できるが、それが自分を超えているとは思わなかったのだ。


 一度立った優位から転げ落ちているとは、思いたくなかった。


 闇を利用したヒットアンドアウェイ。死角から飛び出し、前脚での殴打を華奢な身体に振るう。


 カナミは『シャイカの眼』によって、鵺の攻撃をすぐさま察知した。しかし彼女の身体強化では、避けられない間合いからの一撃。


「タリム、強化外骨格(パワードスーツ)の起動をお願いしますわ」

『ええ、あののろまに見せてあげましょう』


 ゴッ! と鵺の打撃が地面を砕いた。


 しかし既にカナミはそこにいない。いつの間にか、鵺の間合いの外に出ていた。


「ロロロ!」


 鵺は即座に闇に紛れ、再びカナミの死角から襲いかかる。


 だが、当たらない。


 どれほど速度を上げ、攻撃のタイミングをずらし、雷と共に強襲しても、全て避けられる。


 鵺では理解できない察知速度と、加速だ。


「やはりいいですわね、これ」

『機構が複雑で、いささか制御が面倒ですがねえ』

「戦闘は私に任せて、あなたは制御に全力を尽くしてくださいませ」


 余裕で声を交わすカナミとタリム。 


 その身体からは、ゴシックドレスに似つかわしくない機械音が鳴っていた。


 カナミの身体能力を底上げしているのは、ドレスの内側にタリムが展開した強化外骨格(パワードスーツ)である。


 この地球に来てから初めて知った考え方。すなわち、鎧に防御力だけでなく、機動性や攻撃力をも持たせるという発想。


 現在の地球では机上の空想でしかない産物も、カナミとタリムであれば実現できる。バネ仕掛けの筋繊維が爆発的な瞬発力を生み、衝撃吸収機構がダメージを抑える。


 そして、カナミは業を煮やして追撃してきた鵺に向かって、拳を構えた。


「『爆雷戦鎚(ファイヤ)』‼︎」 


 ドンッ‼︎ と鈍い音と共に肘から発火、カナミの拳が撃ち出された。


「ヒョッ⁉︎」


 まさか殴り返されるとは思っていなかったのだろう。鵺の顔面に強化外骨格(パワードスーツ)で強化された拳が突き刺さり、吹き飛ばす。


 カナミは拳を開け閉めし、首を傾げた。


「やっぱり、まだ反応速度に難がありますわね。もう少し早くなりませんの?」

『あまりわがままを言うと殺しますよ。いくら契約である程度思考が共有されるとはいえ、ラグは起こるに決まっているでしょう』

「その辺りは、連携を強化するしかなさそうですわね」


 それでも強化外骨格(パワードスーツ)の性能は破格だった。時間が経つごとに、『混生万化(こんせいばんか)』によって最適化されていくのを感じる。


「‥‥」


 鵺は起き上がりながら、声もなくカナミたちを見ていた。今更ながら、自分が狩る側から狩られる側に回ったのだと、理解させられたのだ。


「さて試運転は十分ですわね。終わりにしましょうか」

『そうですねぇ。痛ぶる(甚振る)のも好きですけど』


 その言葉の意味が理解できたのかは分からない。


「ッ‼︎」


 しかし鵺はすぐさま夜に溶けて消えた。とにかく今はこの場から逃げるしかない。


 幸いにも、女の方は騎士と違って、夜を吹き飛ばすような無茶はしてこなかった。


 そうであれば、逃げ切れる。


 そんな淡い期待は、背後から聞こえる重い金属音に、すり潰された。


「タリム」

『ええ』


 浮かんでいた二つの盾が、カナミの手元に来ると形を変えた。ルービックキューブを回転させるように、盾は形を変えていく。


 そうして出来上がったものは、おおよそ個人が持つには巨大過ぎる回転式重機関銃(ヘヴィガトリングガン)


 それが、二丁。


 戦闘機にでも搭載されていそうな銃は、強化外骨格(パワードスーツ)によって支えられ、銃口を夜に向ける。


双頭連竜砲(オルトファニール)』。


 アルファニールを遥かに超える長大な銃身は、それに見合っただけの威力と連射速度を持つ。カナミの魔力量では絶対に扱えない、対城兵器。


 カナミの魔力が注ぎ込まれ、それに応えるように双頭連竜砲(オルトファニール)が震えた。


 既に鵺の戦意は折れているが、悪意の権化を逃すことはできない。


 しかしカナミは鵺に対して嫌な思いはなかった。


 ──ありがとうございますわ。あなたのおかげで、私は弱いということが実感できました。そして、さようなら。


 カナミは万感の思いを込め、引き金を引いた。


「『オルファードレイン』‼︎」


 七色の流星群が、夜を打ち破り地上を星空へ変えた。


 二丁のガトリングガンは、脅威的な発射速度で魔弾をばら撒いた。


 ──ヒョロロロッロロッロ!


 必死に逃げようとした鵺も、結末は変わらない。銃口から絶え間なく吐き出される竜の咆哮は、夜ごとその肉体を貫き、粉々に分解していく。


 鵺が消失し、本物の夜が姿を表した時、流星もまた空に昇り消えていった。


「‥‥」


 消滅を確認したカナミは、タリムにチョーカーに戻ってもらいながら、空を見上げた。


 きっとまだこの空の下、あの人は戦っている。


 お待ちください、すぐに追いついてみせますわ。


 まるで願い事を聞き入れるように、最後の魔弾が流れ星の如く瞬いた。



あけましておめでとうございます。

秋道通です。

昨年は私の作品をお読みくださり、ありがとうございます。本年もゆったりしたペースではありますが、更新していきますので、お付き合いいただければ幸いです。

今年もよろしくお願いいたします。

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R15 残酷な描写あり 異世界転生 異世界転移 キーワード男主人公 ギャグ 主人公最強 勇者
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[一言] 明けましておめでとうございます。
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