表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

231/428

トリックスター

「あー、負けちゃったね。やっぱり強いや」


 訓練場に座り込んだ四辻がけらけらと笑った。春光と冬鳴の二匹はカードに戻したのか、この場にはいない。


 俺も鎧を脱ぎ、彼女の近くまで歩いた。


「これで十分か」

「そうだね。強いのは分かっていたつもりだけど、実際に戦うとまったく違う。やっぱり体験を伴わない知識は半端だ」

「どこでその情報を仕入れたのかも、いろいろと聞きたいところだな」

「焦らなくても大丈夫だよ。君は資格を得たんだ」


 四辻はそう言うと、カードを取り出して自分の額に当てた。


 なんだ? 攻撃系の魔術じゃなさそうだけど、今度は何をするつもりだ?


 聖域を張っていたリーシャもとことこと俺の横へ来た。


 そんな俺たちを、四辻が立ち上がって見た。その目は今までのような可愛らしい光を宿した目から、落ち着いたものに変わっていた。


 それこそ人が変わったように。


「それじゃあ、ここからは(ぼく)が代わりに話をしよう」


 一人称は変わらず、声も四辻のまま。しかしその口から発せられる言葉は、明確に違う。


 そういう魔術か。


「え? どういうことですか」

「‥‥話をする前に、まずは名乗ってもらおうか」


 誰かが四辻の身体に乗り移っている。あるいは意識を共有しているな。


 彼女を従える人物。できればその存在まで明確にしておきたい。


 すると四辻は予想に反して、軽く言った。




「流石、すぐに気づくんだね。僕は第一位階対魔官、土御門晴凛(つちみかどせいりん)。安心してほしい、君たちの味方だよ」




 なんとも胡散臭い笑顔のまま、土御門とやらは名乗った。


 味方ですと言われて、はいそうですかとはならない。しかも四辻がこの魔術を発動した瞬間に感じた、こいつの魔力。


 俺はそれに覚えがあった。


「お前、鬼のところで月子に監視飛ばしてた奴だろ。それで味方ってのは無理があるんじゃないのか?」


 その瞬間、土御門は目を細めた。


「あれ、やっぱり君だったのか。そりゃばれるよね」

「鬼が封じられていた社からも、お前の魔力を微かにだが感じた。あの事件そのものがお前の仕込みだったんじゃないのか?」


 妖刀の世嘉良孝臣(せがらたかおみ)と共に鬼を倒した戦い。あの時孝臣は、突然鬼を封じていた封印が解かれたと言っていた。


 あの戦いのせいで月子は死ぬ寸前まで追い込まれたのだ。


 俺の怒りを受けながら、土御門は否定することもなく頷いた。


「そうだね、鬼の封印を解いたのも、伊澄さんをあの任務に当てたのも、全て僕がやったことだ。言い訳するつもりはないけれど、そうする他なかったんだ」

「人を死地に追いやる理由か」

「この話をするのには、そもそも今の僕の立場から話さなきゃいけない。それを語るだけの時間をもらっても?」

「‥‥」


 非常に釈然としないが、話を聞くためにわざわざここまで付き合ったんだ。俺の個人的な感情で収穫なしというわけにもいかないか。


 俺はリーシャを後ろに下がらせ、その場に座った。


「それじゃあ聞かせてもらおうか。お前の知っている情報ってやつを」

「うん、どこから話せばいいものか。まず君たちが行っている神魔大戦は、本来人族と魔族の陣営による戦いだろう」

「そこまで知ってるのか。基本的にはそうだ」


 土御門はカードを二枚取り出して地面に置いた。デフォルメされた金髪の少女と、角を生やした悪魔みたいなものがカードから出てくる。これ、リーシャと魔族か。


 土御門がリーシャの隣に新しいカードを置くと、そこから銀色の鎧と、黒髪の少女が飛び出してくる。もしかしなくても、俺と月子のデフォルメだろう。なんでもありか、お前のカード。


「けれど今回の戦いは知っての通り、君を含め地球の人間たちが参加している状況だ」

「俺の場合はなんとも言えない立場だけどな」


 今回は前の神魔大戦と異なり、女神を介して参戦している訳ではないが、元勇者としての立場は大きい。月子や加賀見さんとは完全に違う。


「問題はそこなんだよ。地球側の人間も当然一枚岩じゃない。君のような異世界に関連を持つ者、対魔官。そして櫛名命(くしなみこと)が所属する魔術結社。複数の思惑が入り乱れて複雑化している」

「櫛名が所属している魔術結社‥‥何か知っているのか」


 土御門は無言で新しいカードを取り出し、魔族の側に置いた。


 そこからは二匹の獣が互いを喰らい合うような紋章が現れた。


 なんだこれは。


 初めて見るはずなのに、悪寒が湧き立つ。これが櫛名の所属している組織なのか。


「これこそが、今回の神魔大戦におけるトリックスター。多くの優秀な魔術師たちを擁し、世界の暗部に根を張る最大の魔術結社。おそらく君たちの最大の敵になるだろう──」


 土御門は、誰も知ることのできなかったその名を、口にした。




「『新世界(トライオーダー)』さ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
R15 残酷な描写あり 異世界転生 異世界転移 キーワード男主人公 ギャグ 主人公最強 勇者
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ