伏兵
「え、流石に強すぎじゃない‥‥?」
「全然勝てないじゃん!」
「もう飲めないよー」
ゲームが始まって三十分が経つ頃。俺の周りには興奮している男たちと、酔っぱらっている女性たちであふれていた。
俺の力を知るリーシャがなんとも言えない目でソフトドリンクを飲み、袴田さんは得体のしれないものを見る目で一歩引いていた。
いくら魔力強化をしていないといっても、長い間、循環式呼吸で鍛錬し、魔術に耐え続けた身体だ。根本的に肉体の質が違う。
つっても、流石に連戦はきついな。腕が馬鹿になってきてる。
盛り上がり的には最高だし、そろそろ次のフェーズに移ってもいいかな。
そう思っていた時だった。
「じゃ、私も参加させてもらおうかしら」
凛とした声が響いた。
聞き慣れた声に顔を上げると、そこには意外な女性が立っていた。
「竜胆? なんでこんなところに」
そこにいたのは我らが文芸部の同級生、竜胆かたりだった。昼間の袴姿からはうってかわり、薄紅色のワンピースドレスを着ている。
気の強そうな顔も相まって、とても似合っていた。ついでに仁王立ちもはまりすぎている。なんでドレスでそんな威圧感出せるんですかね。
「別に。私がここにいたっていいでしょ」
「そりゃそうだけど。参加するって、ゲームにか?」
「他に何があるのよ」
確かに。
まあ竜胆がここにいてもさほど不思議ではないか。お洒落とかめっちゃ気遣ってそうだし、諫早先輩と違って資産家の娘ってわけでもないし。
「でも誰がやるんだ? 一人みたいだけど」
「そこにいるじゃない」
竜胆が顎でしゃくった先には、
「俺か?」
一人我関せずと酒を飲んでいた総司がいた。こいつ、この乱痴気騒ぎの中でも普通に酒飲んでるってすごいな。ちなみに松田は女子にどかされて床で寝ていた。幸せそうな寝顔しやがって。
竜胆は鼻を鳴らすと、頷いた。
「そうよ。あんた腕っぷし強いじゃない。頼むわ」
「もう少し頼み方ってものがあるだろ‥‥。俺にメリットは?」
「明日私がデートしてあげるわ」
なにその報酬。女帝か?
しかし傲岸不遜な態度で総司を見下ろす竜胆をよく見てみると、ヒールが小刻みに床をタップしていた。目もそわそわと踊っている。
ははあん。
まずいですよ会長、身近にとんでもない伏兵が潜んでやがりました。
こんなテンプレートなツンデレとか今時珍しいな。平成初期からタイムスリップしてきちゃったのかしら。
総司は立ち上がると、俺を見た。
「しょうがねえな。久々に真剣勝負といくか」
「おい、冗談だろ?」
こっちはもう疲労困憊ですよ。ここから総司の相手は厳しいって。
しかし向こうに待つつもりはないらしい。総司は俺の対面に座ると、肘をついた。
「丁度いいハンデだな。かわいそうだから片手でやってやるよ」
「お前が両手使ったら普通にやっても勝てねーよ」
仕方ないな。
俺も肘をついて総司の手を掴んだ。そういえば総司とこういう力比べって、最近はしてなかったな。高校の時は一回殴り合いしたこともあったっけ、懐かしい。
「いい、絶対勝ちなさいね!」
「当たり前だろ。やるからには勝つ」
「あの、酒の席の余興なんだけど‥‥」
俺の言葉は華麗に無視された。
総司の目が据わっている。ダメだ、こいつ完全にやる気だ。
「じゃ、じゃあレディ、GO!」
グンッッ‼‼‼
袴田さんの合図と共に、総司が力を込めた。腕が筋肉で膨れ上がり、手が砕かんばかりに握られる。
「っ――!」
やっば、こいつマジで強い。




