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あなたのいいところ

 歩いていると、広場に出た。大きなステージが設置され、時間ごとにイベントやライブが開催されいてる場所だ。そこは信じられないくらいの賑わいだった。


 そうか、今はミスコンの時間だ。


 崇天祭の中でも屈指のビッグイベント、ミスコン。実は男たちが登場するミスターコンテストもやっているのだが、やっぱり盛り上がりは段違いだ。


 ステージにはきらびやか女性たちが並び、観客からは歓声が飛ぶ。


「去年は諫早先輩が出たんでしたっけ」

「そうだよ。みんなで応援した」


 昔を思い出しながら答えると、陽向はポツリと呟いた。


「凄いですよね。みんなキラキラしていて」


 その言葉は陽向らしからぬものだった。彼女はいつだって自信に満ち溢れていて、なんだってできるって顔で笑みを浮かべていたはずだ。


 「私が出たら一位間違いなしですけど」。そんな言葉が似合う。


 そう思って俺は言った。


「陽向だってステージに立ったらそうだろ。いいところ狙えるんじゃないか?」

「なら月子さんやリーシャちゃん、カナミさんが出ても勝てると思いますか?」

「‥‥」


 失敗した。


 言葉が出て来ず、頭がぐるぐると空回りするのが分かった。


「陽向なら、勝っても不思議じゃないだろ。みんなから好かれる雰囲気というか、コミュニケーション能力ならダントツだ」


 俺の一瞬の沈黙に気づいたはずなのに、陽向はそれには触れなかった。


「そうですね。私もそう思います」

「言い切るな」

「まあ、リーシャちゃんたちに見た目で勝てるとは思ってませんから」

「そんなことはないだろ。人の好みに優劣なんてない」


 自分で言いながら、浅い言葉だと思った。世の中には大多数の評価というものが確実に存在する。竜胆(りんどう)も言っていた、そういうものなのだと。


 そんな世界を強かに生き抜いてきた彼女は、軽く言った。


「そこは別にいいんですけど。先輩のさっきの言葉は良かったです。株が上がりましたよ」

「それはどうも」


 ずっとステージを見ていた陽向がこちらを向いた。

 何度も見てきたはずなのに、これまで見たことのない目をしていた。


「私も先輩のいいところ、たくさん知ってますよ」

「‥‥」


 予期せぬ言葉に、俺は何も言えなかった。


 何が言いたいんだ? 褒めても何も出ないぞ。


 そんな困惑もお構いなしに、彼女は続ける。


「お人好しなところとか、押しに弱いところとか、誰かを助けることが当たり前だと思っているところとか」


 陽向は指折り数えていく。周りではうるさいくらいに声が響いているはずなのに、その声は明瞭に聞こえた。


「優柔不断なところとか、一途なところとか、馬鹿みたいに優しいところとか──」


 そこまで言って、陽向は笑った。




「私は、好きです」




 衝撃に心臓が跳ね上がった。


「ぁ、あと、え?」


 それはどういう意味での好きなんだ? ライク? ラブ? こういう時日本語って本当に紛らわしい。誰だ作ったやつは、出てこい。


 その真意を問いただそうか迷っている内に、ポスン、と陽向の小さな頭が胸にぶつかった。


「だから、距離を取ろうなんてしないでください。そりゃビックリはしましたけど、ああいうことされると、普通に傷付きます」

「それはっ、その、ごめん」

「いいです。私もどう言ったらいいか分からなくて、迷ってましたから」


 そっか。そうだよな。


 最初っからちゃんと話し合えばよかったんだ。


 俺の予想以上に、俺のことを見てくれている人がいる。それはリーシャやカナミみたいに、全てを知っている人だけじゃない。


 山本勇輔を見てくれている人がいる。


「ありがとう」

「何の話か分かりませんが、どういたしまして。改めまして、あの時はありがとうございました」


 その言葉を最後に、陽向はパッと俺から離れた。そしていつもの小悪魔みたいな笑みを浮かべて、


「ドキドキしました?」


 そう言うのだった。


 この場はミスコン。本来ならステージに立っている女性たちが最も輝く時。しかし今この瞬間に限っては、人込みの中に立つ陽向は、誰よりも輝いていた。


 歓声が遠い。万人に降り注ぐ明るい日差しが、スポットライトのように彼女を照らしている。


 俺を元気づけようと言ってくれたのか、軽くからかってやろうと思ったのか、それとも――。


 まあ間違いなく言えることが一つだけある。


「死ぬほどな」


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R15 残酷な描写あり 異世界転生 異世界転移 キーワード男主人公 ギャグ 主人公最強 勇者
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