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空から降ってくるのが女の子とは限らない

 オスカーとシャーラは櫛名(くしな)の案内でホテルに到着した。ここでユースケの候補を聞き、明日には探すことになるだろう。


 今日ぐらいはゆっくり休みたいものだが、果たして傍若無人のお姫様がその話を聞いてくれるだろうか。オスカーは思案しながら車を降りた。


 そしてシャーラの手を取り車から降ろす。


 彼女は出るなり、上を見上げた。


「では部屋の方に行きましょうか」

「ああ‥‥」


 櫛名の言葉に返事をしながら、オスカーはつられて顔を上げた。 


 ホテルは首都らしく背の高い建物で、午後の太陽が上部を照らしていた。


 ――なんだ?


 そこに異物が紛れ込んでいた。


 小さく、ともすれば見落としてしまう黒い影。


 それは確かに何者かの人影だった。


「なに⁉」


 その黒い影が、空に身を躍らせた。投げたのではない。人影は確かな意味ある姿勢でもってこちらに降ってきたのだ。


「シャーラ様!」


 オスカーはシャーラを背後にかばい、近くにいた櫛名(くしな)を蹴り飛ばす。直後、人影が目の前に着地した。


 アスファルトがひび割れ、衝撃にタクシーが真横に吹っ飛ぶ。


 運転手は無事だろうな。


 そう思いながらオスカーはジャケットの内側に手を差し込み、得物を抜き放つ。


 銀の光を帯びる十字剣は当然服に隠せるような代物ではないが、『十字架を身に着ける』という聖職者としての在り方が、それを可能にしていた。


 降り立った者は、古めかしい金属製の鎧を着ていた。顔は兜によって一切見えないが、体格からして男だろう。


 俺たちの同類か? あまり見たことのない鎧だが。


 現代において、骨董品のような鎧を身に着ける人間はそういない。それこそ歴史と伝統を背負い戦う祓魔師(エクソシスト)でもなければ。


 あるいはロンドンの街に現れた、あの異形のような魔族(・・)とやらか。


 どちらにせよ、この登場で味方ということはあるまい。


「何者だ、貴様?」

「‥‥」


 乱入者は答えず、足に力を溜める。


 しゃがんだ状態から、その力を一気に解放。凄まじい勢いで鎧の男がオスカーへと突っ込んできた。


「ちっ、話もできんのか不作法者め」


 オスカーは悪態を吐きながら応戦。十字剣が鋭く(ひらめ)き、鎧男へと襲い掛かる。


 それをいなしたのは、ガントレットによる拳打だった。


 お互いに踏み込み加速した状況の中、鎧男は寸分たがわぬ角度で剣に拳を当て、攻撃を流したのだ。


「っ!」


 オスカーは驚愕しながらも空いた手を振るう。袖から豪速で撃ち出されるのは、銀の杭だ。ほぼ眼前で放ったはずのそれすらも、鎧男は容易く避ける。


 なんという反射速度。


 驚愕していられたのは一瞬だった。この間合いに入り込まれた時点で、攻撃の回転率は比べるべくもない。


 拳の乱打が展開された。


 密接状態から拳打を避けるのは容易いことではない。剣を盾になんとか防ぐが、その間をすり抜けて拳が腹に突き刺さる。


「っぐぁ‥‥!」


 速く、重い。純粋な身体能力はオスカーよりも上だ。


 しかし、


「あまり祓魔師(エクソシスト)を舐めるなよ」


 鎧男の腕を掴んで強引に拳を止める。肉体の痛みや傷など、大した問題ではない。そして怪我を恐れなければ、直線的な攻撃を止めるのは可能だ。


 聖句を刻んだカードが舞い、鎧にまとわりつく。それは異教の身を焼く言葉の炎。たとえ鎧の上からだろうと、刻まれた言葉は消せない。


「っ!」


 それは想像以上の効果をもたらした。掴んだ腕から、鎧男の苦悶が伝わる。これは異教を拒絶する奇跡、日本人のような宗教そのものに関心の薄い相手には効果が薄い。


 反面、別の神への信仰心が強ければ強いほど、痛みは強くなる。


「ほう、信仰心だけは本物らしいな」


 動揺した瞬間に鎧男の体勢を崩し、鎧の隙間を狙って十字剣を振るう。


 信仰を焼く奇跡はオスカーの想定を超える効果を発揮したが、それは敵の心にも火を付けた。


「グゥッォァアアアアア‼︎」


 鎧男がその場で独楽のように回転した。


 地面を削り、火花と共に振り回される拳は、十字剣を弾き飛ばす。男は更に加速しながら、的確にオスカーへと距離を詰める。


 これまでの拳をはるかに超える速度のそれは、当たれば防御ごと砕かれるという予感があった。


 回避を──、下がろうとしたオスカーの耳に、端的な言葉が聞こえた。




「騒がしい」



 

 キンッ、と涼やかな音を立て、鎧男の動きが止まった。


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R15 残酷な描写あり 異世界転生 異世界転移 キーワード男主人公 ギャグ 主人公最強 勇者
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